犯人の利き腕
三章スタートです。
また、よろしくお願いします。
僕達、大魔王討伐ゲームの参加者はセカンドの町にとどまっていた。次のチェックポイントのサードの町への出発は三日後だ。それまで、各々のコンビで戦いの準備をせよという事であった。
僕は宿泊している宿屋の広場で、ステータス上昇の為の筋トレを行なっていた。主に攻撃力アップと持久力、体力の向上を目的としたメニューをこなしていた。
もう二度と目の前で、仲間を死なせたりはしない。
僕はひたすら身体を鍛える。才能のない人間は努力をするしかないのだ。特に僕のような活気的なアイデアや工夫のない人間はそうするしか思い付かないのだ。
出発の新たな戦いの始まりのその日まで、僕は全身から汗を流し、トレーニングに励む。
その日のトレーニングを終え、クタクタの身体を引きずりながら、宿屋の自分の部屋へと僕は向かう。その時に、僕の目の前に来客が突如現れる。
元刑事の戦士、僕の仲間のアオハルだ。
「おう、ユウト。頑張ってるみたいだな。ちょっと話いいか?」
近付いて来るアオハルを、僕は汗を拭きながらじっと見つめる。
「あ、アオハルさん。実は僕も話したい事があったんです。やるべき事が多過ぎて、話しそびれてましたが、聞いてもらえますか?」
「何だよ? 十字男の件か?」
「そうです。やっぱり犯人は、クロスギに間違いないようです。この目でアイツが十字男の殺害の証である十字の傷を付けているのを見ましたから」
「そうなのか? お前の目の前でか? なるほどな」
アオハルはそう言うと、アゴに手を当て考え始める。
「このセカンドの町を出たら、僕はクロスギに戦いを挑もうと思っています。恋人のレイコの復讐ですから。出来たらアオハルさんにも協力をお願いして、一緒に戦ってもらいたいです。よろしいですか?」
アオハルの顔を見ながら、僕は話を進める。しかし、アオハルの表情が固い。なぜ、そんな難しそうな顔をするんだと、僕は不思議に思う。
「実はな、ユウト。これはあくまで俺の見解なんだが、聞いてもらえるか? 正解かどうか怪しい話だから、お前を混乱させるかもしれないが……」
僕は無言でコクリと頷く。
「十字男は今までに十人以上の女性を殺害している。知っているな? そのほぼ全員が絞殺、つまり首を絞められて殺されている」
「え、それって……」
「そう、お前の彼女、レイコさん以外は同じ殺され方をしているんだ。でも、レイコさんだけは刃物で刺されて亡くなったという事だ」
どういう事だ? レイコだけ違う殺害方法? クロスギには何かそうしなければならない不測の事態があったのか?
「しかもだ、レイコさん以外の殺人犯の特徴は左利きというプロファイリング結果が出ていた。しかし、レイコさんを刺した傷口の場所、角度から考えて、レイコさん殺害の犯人は、右利きの可能性が高いと考えられている」
は? どういう事だ? 意味が分からない。
僕はアオハルの言葉によって、情報の処理が出来ない状態におちいる。
「ちなみにユウト。お前の利き腕は右だろ?」
「はい、そうです」
「だから、左利きのクロスギは犯人像から外れ、お前がレイコさん殺害の容疑者だと思われたんだよ。第一発見者で、お前の指紋付きの凶器が出たから」
「そんな僕はやってないです」
「分かってるよ。だから、俺が言いたいのは、そういう事じゃない」
僕はアオハルの顔をじっと観察する。この人がどういう感情で話しているのか、信じていい話なのか、無意識的に判別しようとする。
「十字男はクロスギだ。これは、ほぼ間違いないと思っている。しかし、お前の恋人、レイコさんを殺した犯人は別にいる。つまり、レイコさんは十字男の犯行を模倣して殺されたと俺は見ている」
アオハルのその言葉で、僕は頭を抱え、その場にうずくまる。信じていたものが根底から崩されるような、そんな感覚だ。
僕は呆然として、ただ地面を見つめる。じゃあ、誰が犯人なんだよと、頭の中でその言葉が反すうする。
「おい、しっかりしろ、ユウト。まだ話は終わってねぇぞ。異世界に転移して、すぐに殺人事件があっただろ? 女の子が殺されて、黒ローブのスタッフがかなり怒っていたあの事件だ。覚えているか?」
僕は力なく頷く。
「あの事件も女の子殺害方法は刺殺。つまり、刃物を使った犯行だ。しかも、この事件も右利きの可能性が高い。言いたい事が分かるな? クロスギ以外の誰かが、レイコさんを殺して異世界に来ている。俺はそう、考えている」
「でも、それは言った通り、アオハルさんの個人的な見解でしょ?」
「あぁ、そうだ。でも、お前、もし、クロスギが犯人じゃなくて、クロスギを殺しても、お前の気は晴れるのか? 後から真犯人が出て来ても、大丈夫なのか?」
アオハルの言葉が胸に刺さる。間違った相手に復讐しても、お前は大丈夫なのかと、彼は僕の事を心配してくれているようだ。
さっきまでクロスギを倒せば、それで終わりだと単純に思っていたのに、また振り出しかよ。
僕はフウッと息を吐き、立ち上がる。
「大丈夫です。アオハルさん。それでも、僕のやる事は変わってません。大魔王を倒して、レイコを生き返らせるだけです。そうすれば、レイコの口から犯人が誰か分かりますから。僕のやるべき事はそれだけです」
僕はアオハルに力のない笑顔を見せた。
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