美女の一発
良かったら読んでいって下さい。
そして、再び異世界の大広間……。
黒ローブのリーダーの男、ジークが僕達に向かってまた発言をする。
「あ、言い忘れてましたが、あなた方のタイプは4タイプに別れていて、それぞれ10名ずついます。まず直接攻撃に特化した戦士タイプ。そして、攻撃魔法を専門とする魔法使いタイプ。回復魔法、補助魔法を得意とする僧侶タイプ。最後に全てのスキルをそつなくこなしたり、特殊なスキルを持っている、勇者、特殊タイプ。以上です。皆さんはどれかのタイプに属しています。どのタイプかは明日以降に皆さん一人一人にお伝えします」
またこの大広間がどよめく。一体自分はどのタイプなのか、みんな気にしているようだ。僕はまず戦士タイプはあり得ないので、他の3タイプの内のどれかだろうと予測をする。
「それでは、今日は解散とします。各自一人ずつ部屋がありますので、そちらの方に移動して、今日は休んで下さい。では、明日から頑張って下さいね」
そう言うと、黒ローブのリーダーは段を降り、大広間から出て行く。その場に残された向こうの世界から来た人間は、互いの顔を見合わせる。
どんな人達がこちらの世界に来たのか、僕も気になり、注意深く、そこにいる人達を見て行く。すると、色んな事に気付く。
異世界転移合格者の40名の男女比は半々といったところだ。年齢層は20代から40代くらいの人かなと、僕は推測をする。
顔ぶれはというと、かなり強面の人、オタクっぽい人、何の個性もない普通っぽい人、ホントに色んな人がいる。
一人一人見ている内に、ある一人の男性に僕は視線が止まる。この男、どこかで見た覚えがある。僕は記憶の断片を手繰り寄せる。
その男はスーツ姿で、30代くらいだろうか。スーツも高級そうだ。かなりお金持ちだったのかなと、感じる印象だ。
顔はと、僕が注意深くその男の顔を見ていると、記憶が蘇る。
アイツだ。ヘビの目をした男だ。レイコの殺害現場にいた。僕は頭を抱え、もっと鮮明に記憶を呼び覚ます。
いや、会ったのは一回じゃない。二度だ。二度、アイツと僕は会っている。二度目はどこだ。僕はなおも記憶を絞り出す。
そうだ、あそこだ。レイコの葬儀の時だ。奴は確か、レイコの会社の社長であるとそう言っていた。
名前は……。そう、確かクロスギだ。
すると、僕の中で悪夢のようなシナリオが完成する。
レイコはあの社長にしつこく誘われていた。その社長は連続殺人鬼ではないかという噂があった。そして、レイコ殺害現場に奴がいた。
まさか、アイツがレイコを殺したのか……。僕はそう感じ、クロスギをじっと見る。
彼と話をしなければならない。僕はそう感じ、立ち上がろうとすると、女性の叫び声が聞こえる。
「止めて下さい!」
ショートカットの女の子が、チンピラ風の男に腕をつかまれて、振りほどこうとしている。
「姉ちゃん、カワイイな。俺のパートナーにして、いっぱいかわいがってやるよ、ぐへへ」
チンピラ風の男はなおも強引に、女の子を引っ張ろうとする。
「どいつもこいつもオタクみたいな奴で、腑抜けばかりだ。姉ちゃんも強い男がいいだろ? いいからこっち来いよ」
僕は冷静に周りを見ている。誰も助けに行かない。みんな見て見ぬ振りだ。
確かに僕もそうだ。あんなチンピラに絡まれたら恐い。この先、ここでやっていけない。僕も助けに行きたい気持ちを抑え、視線を落としてしまう。
「その汚い手を離しなよ。その子が嫌がってるよね?」
ショートカットの女の子とは違う、若い女性の声がする。僕は驚き視線を戻すと、チンピラの男の腕をつかんでいる、ポニーテールの女の子がそこにはいた。その女の子はひいき目に見ても、かなりの美女であった。
「何だ、お前? 女だからって調子に乗ってると痛い目に合わ……」
チンピラ風の男がそう台詞を言い掛けてる途中で、ポニーテールの女の子はその男の顔面にパンチを入れる。すると、チンピラの男は地面に転がる。
「お前、やりやがったな!」
チンピラの男はキッとポニーテールの女の子を睨み、立ち上がる。
「私はあんたみたいに調子に乗ってる奴が嫌いだ! やっつけてやる!」
そのポニーテールの美女もやる気だ。
何なんだよ、一体。僕は呆然として二人の喧嘩を見ているだけになる。他の人もそうだ。ただ驚いて、みんな見ている状態になっている。
チンピラの男がポニーテールの子に近付き、パンチをやり返す。女の子の顔にパンチが直撃し、その子は地面に倒れる。
さすがにそれを見て、黒ローブのスタッフ達が一斉に二人の喧嘩を止めに来る。チンピラの男は黒ローブのスタッフの一人に羽交い締めにされている。
「言い忘れてましたが、ここでの喧嘩、トラブルはご法度です。状況によっては、処罰を与えますよ。一年後、好き放題殺し合いが出来るんですから、それまでガマンして下さいよ。勝手な行動をしたら許しませんよ」
黒ローブのスタッフの一人が皆に注意をしている。
お前らは俺達のモルモットなんだから、勝手な行動をするな。
僕には黒ローブの人の言葉が、そう言う風に聞こえた。
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