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最後の合格者

良かったら読んでいって下さい。




 異世界転移の前日……。


「年の変わる0時ちょうどに、山田町の青野ビル内に異世界の門が現れます。合格者は40名です。40名が決定した時点で異世界の門は閉じられます」


 スマホ上のSNSを確認して、僕は電車で山田町へと向かう。山田町はまさに都会の中心の繁華街という場所だ。そんな所に異世界へ行く道があるのか。僕は半信半疑でその場所へと移動する。


 山田町の駅に着く。青野ビルは徒歩で10分くらいの所だ。僕は腕時計を見て、時間を確認する。午後11時50分だ。


 カウントダウンをする為になのか、深夜にも関わらず街は大勢の人で賑わっていた。そんな浮かれ気分の街並みを横目に、僕は目的の場所へと急ぐ。


 僕はふと異変に気付き、足を止める。さっきから誰かに見られている、そんな感覚に襲われる。気のせいなのか、勘違いなのか。僕は気になり、後ろを振り返る。


 ハンチング帽の男がスマホを触っている。あれ、この男、さっきの電車の中にもいなかったか。僕は胸騒ぎを覚える。

 

 向こうにいるカップルもそうだ。どこかで見た覚えがある。


 僕はHSPの傾向があるから、気にし過ぎてしまうのか。僕がまた振り返り、目的地の方に足を向けた時、彼等が一斉に僕を睨む。


 やはりだ。僕は尾行されている。なぜだ。


 僕は嫌な予感がして、足早に青野ビルへと急ぐ。すると、スーツ姿の二人組の男が目の前に現れ、行く手を阻む。


「山川優人だな? 早崎礼子殺害容疑で令状が出てる。署まで来てもらおうか?」


 スーツの男の一人が警察手帳らしき物を僕に見せて、距離を詰めて来る。僕は言葉の意味は理解出来たが、なぜ僕にそれを言うのかが理解出来なかった。


 しかし、状況は理解出来た。彼等は僕を捕まえようとしている。レイコを殺した殺人犯として。


 僕は周囲を確認する。逃走ルートの確保の為だ。左後方の路地から逃げられる。僕はそう判断し、身体を反転させ、路地へと走り込む。


「待て! 山川!」

 刑事達の怒鳴る声が聞こえる。


 どうしても今、僕は捕まる訳にはいかないのだ。異世界に行って、願いを叶えてもらわなければならないのだ。


 もし捕まって、その後運良く僕のえん罪が晴れたとしても、レイコは生き返らないのだ。今しか異世界には行けないのだ。


 そしてもし捕まって、僕のえん罪が晴れない場合は、レイコ殺害の罪以外も僕に課せられるだろう。つまり、僕は連続殺人犯として扱われる事になる。


 この事が意味するのは、10名もの命を奪った殺人鬼は間違いなく死刑になるという事だ。僕はだれ一人殺していない。むしろ僕は恋人を殺された被害者側の人間なのだ。


 僕は必死で逃げる。上手く建物の角を利用して、僕は逃走をする。心臓が飛び出しそうになるくらい僕は走る。


 しばらくすると、彼等の声と足音が聞こえなくなる。上手くまいたのか。僕は建物の影に座り込み、荒くなった息を整え周囲を確認する。


 良かった。誰も追って来ていない。僕は少し安心して、腕時計を見る。時間は午前0時30分だ。


 異世界の門が開かれて、30分が経過している。早くそこへ行かないと異世界へ行ける40名が決定してしまう。僕は周りを警戒しながら、青野ビルへと向かう。


 運良く刑事達は近くにいなかった。そして、僕は青野ビルの前へと辿り着く。


 青野ビル――――見た目はホントに普通のビルだ。入口は寂しく電灯に照らされている。


 ここで間違いないのか。そんな不安な気持ちになりながら、僕は入口の自動ドアを通って、ビル内の通路を歩いて行く。


 うす暗い通路だ。そこに黒いローブとフードを被った人が立っている。僕は怪しい格好の人だなと不審に思いながら、その人に近付く。すると、その黒ローブの男は僕に話し掛けて来る。


「お客さん、もしかして異世界転移の希望の方ッスか?」


 怪しい風貌のわりにやたらと軽い口調だ。僕は違和感を感じながら、急いで返答をする。


「そうです。もう合格者は決まったんですか?」


「お客さん、運がいいッスね。まだ一枠残ってますよ。このまま歩いて行けば、自動的に適性試験になってます。お客さんの適性が合格ならそのまま異世界へ、不合格ならビルの外へと出るシステムになっているッス。何か質問とかあるッスか?」


「いえ、特にありません。どうもありがとうございました」


 僕は軽くお辞儀をして、通路を走って行く。すると、後ろから足音と声が聞こえて来る。


「山川、そこにいたのか! 待て、コラ!」


 僕を追っている刑事達だ。僕は怖くなり、足を早める。うす暗い真っ直ぐな廊下を、僕はただ全速力で走り抜ける。


 すると、僕の目にまばゆい光が飛び込む。まぶしくて目が開けられない。僕は手で光を覆いながら、ゆっくりと歩く。


 足の感触が硬い廊下の感触から、柔らかいじゅうたんの感触へと変わる。僕は恐る恐る目を開ける。


 そこは西洋の城の大広間の様な所だった。地面は赤いじゅうたんの様な物が敷かれている。奥には王さまが座るような椅子があり、少し高い段になっている。


 辺りを見回すと、39名の向こうの世界から来た人達と黒ローブのフードを被った人達が何人かいる。その中の一人が僕に話し掛けて来る。


「あんたぁ、良かったなぁ。あんたが最後の合格者だべ。よおこそ、剣と魔法の世界へ」


 僕はこうして異世界へと転移をした……。


 


 






 


 






 

 

 


 


 

読んで頂き、ありがとうございました。

もし良かったら今後の執筆の励みにしますので、ブックマーク、評価などをよろしくお願いします。

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