狼の顔をした魔物
僕とフトオは、ただ呆然と血だらけになっているキオウの姿を見ていた。驚き過ぎて、それしか出来なかったのだ。しばらくの間、僕達の思考は止まったままの状態であった。
しばらくして、嫌な血の匂いが鼻につく。そこでやっと僕は我に返る。頭の中が整理出来て、冷静に状況が見られるようになってくる。
キオウが死んでいる。明らかに殺されている。
一体誰に? いや、何にか?
匂いと血だらけの死体で、僕はかなり気持ち悪くなっている。正直吐きそうだ。
しかし、僕は口元を抑えて、キオウの状態を確認をしようと試みる。
何があったか調べなければならない。気持ち悪い、恐いという気持ちで、この現場を安易に離れれば、次は僕達がキオウと同じ目に合うかもしれない。そんな危険を感じたからだ。
キオウの左肩が何かに食いちぎられたように、肉片が無くなっている。そして、身体中、何かに引っかかれたような大きな切り傷があり、そこから大量に出血している。
こんな事、人間には出来ない。何かしらの魔物や獣に襲われた確率が高い。僕はそう推測する。
「お、おい。何してるんだよ? 早くここから離れようぜ。俺達まで殺られちまうだろが」
フトオはオロオロして、周りをキョロキョロ見回している。ビビりまくっているフトオを横目に、僕は周囲を確認する。
辺りの木や草むらに血が飛び散っている。キオウの愛用の大剣が足元に転がっている。キオウも必死で戦ったのか、愛用の大剣が真っ二つに折られている。
という事は、ステータスランキング三位のキオウよりも、襲った奴の方が強いのか。単純な答えが僕の中で導き出される。
すると突然、後ろの草むらの中から、ガサガサっと何かが動く音がする。僕は驚いて、身を反転させ構える。
「う、うわああああ、何かいるぞ。た、助けてくれ」
フトオは腰を抜かし、尻もちをつく。僕は目を凝らし、何がいるのかを確認する。が、近くに行かないとここからでは何なのか分からない。
僕は意を決して、その草むらに近付く。呪文を詠唱し、魔法の盾を作る。そして、僕はその場所を覗き込むように見てみる。
人間だ。灰色のローブを着た魔法使い風の男だ。
その男は小さく身体を抱え込むように、震えて座っている。その男は僕の方を見ると、悲鳴を上げ、逃げ出そうとする。
この男、見た事があるぞ。
そうだ。キオウの相棒の魔法使いだ。確か、名前はスネタとか言っていた。僕は村の入り口での出来事を思い出す。
「スネタさん、ですよね? 一体何があったのか、話してもらえませんか? 僕達もあなたが何もして来なければ、こちらから攻撃したりしません。だから、教えて下さい。お願いします」
地面をはって逃げ出そうとするスネタを僕は呼び止める。スネタは僕の言葉で一瞬、動きを止める。そして、恐る恐る僕の方を振り返る。
「ほ、本当だな? あんた達を信用してもいいんだな? 何もして来ないんだな?」
震える声でスネタは僕に応える。僕は小さく頷く。
少し落ち着きを取り戻したスネタは、その場に座り込む。敵意が無いことを見せ、僕もスネタの横に座る。すると、スネタは頭を抱え、怯えた声で話し始める。
「あんた達に逃げられた後、キオウの奴が怒って、俺に暴力を振るい始めたんだ。そしたら突然、魔物がキオウに襲い掛かって来て……」
「魔物? 一体どんな奴です?」
「狼の顔をした魔物だった。人間の倍くらいあるデカさだった」
狼の魔物?
図書室で読んだ本の知識を僕は頭から引っ張り出す。そして、思い当たる魔物に辿り着き、スネタに問う。
「二足歩行の狼じゃなかったですか? デカい口で、前足、って言うか手には鋭い爪があって……」
「そうだ。そいつだ。そいつがキオウの肩を噛みちぎって、爪で身体中を切り裂いて殺したんだ」
「その時、キオウさんとスネタさんは戦ったんですか? 相手はかなり強かったんですか?」
「戦った……。けど、俺の魔法は軽く弾かれ、キオウの大剣でも奴の動きを止められなかった。あんな強い化け物、倒すのは無理だ。……それで、狼の野郎はキオウを殺したら、俺の事は見向きもしないで、どっかに去って行ったよ」
スネタは顔を覆い、うなだれる。これまでの話を聞いて、僕は行き着いた結論を出す。
「人狼……。恐らくですが、そいつは人狼と言う魔物だと思います」
「人狼? 何だよ、その狼の魔物は? オオカミ男の事なのか?」
ビクビクして、今にも逃げ出そうとしていたフトオが、いきなり話に入って来る。
「そうです、フトオさん。オオカミ男の事です。つまり、人狼と言うオオカミ男の魔物は、狼に変身したり、人間に変身したり出来る魔物の事です」
僕はフトオを見て、応える。そして、僕は思考を整理し、今の状況を見据える。
「恐らく、その人狼は街や村の人に化けている可能性があります。そして、もっと最悪の事態を考えれば、僕達異世界から来た40名の人間の中に人狼がいるかもしれません」
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