魔法使いは勇者よりも強いのだよ
三日後……。
タイマンマッチの当日の朝になる。
この三日間、僕はサチとひたすら魔法の特訓を行ってきた。特訓と言っても、サチの魔法の嵐を僕が全て受け流すという、防御と回避の練習ばかりだ。
なぜなら、今回の目的はクロスギに殺されないように、負ける事だからだ。
分かっている……。
我ながら情けない作戦だと言う事に……。
でも、これは手の内を見せない為の戦略なのだ。ここで手の内を見せると、それこそ城の外に出た時に簡単に殺されてしまう。先を見た意義ある敗戦なのだ。と、自分に言い聞かせる。
僕とサチとアオハルは、三人で会場の闘技場へと入る。会場には僕達異世界から来た40名の人間と、それを運営する黒ローブのスタッフ達しかいない。闘技場の上の階に設置されたVIPルームには王族、貴族の人間がいるかもしれないが、ここからは確認は出来ない。
意外と観客が少ない。しかし、見ている奴等はみんなライバル達だ。僕は少しずつ緊張感が増して来る。
「じゃ、ユウト。私は試合順が早いから、行って来るよ」
サチが手を挙げ、控室の方へと足を向ける。
「サチも絶対死ぬなよ。約束だぞ」
僕はサチの背中を見ながら、言葉を掛ける。
「ユウトに色々と心配掛けてるからね。君の前で心配入らないよというのを見せなきゃならないからね」
サチはそう言うと、サッと向こうへ歩いて行く。いつも通りのサチだ。
いや、そりゃ心配だろ。サチの相手、殺人犯で指名手配されて逃げてた奴だぞ。しかも、ソイツからかなり恨まれてるんだぞ。何で恐くないんだよ。僕は平静な彼女に少しイライラしてしまう。
そんな感情を持ってモヤモヤしている内に、第一試合、第二試合が終わる。アオハルも自分の試合の準備の為、控室に行っている。僕は一人でサチの試合を観戦する事になる。
「それでは、第三試合、ゴウケツ対サチ」
黒ローブのアナウンスで二人が闘技場の舞台の上に立つ。他の人間は観客席か、控室通路の方から観戦をしている。僕は観客席側だ。僕はブルブルと震える身体を抑えながら、彼女をじっと見る。
「始め!」
黒ローブのスタッフの声と、ゴングがカンと打ち鳴らされる。
チンピラ男、ゴウケツは笑いながら、よだれを垂らしている。サチと戦える事がかなり嬉しそうだ。サチをニヤニヤと見ながら、手に持った斧をペロペロと舐めている。
一方、サチは冷めた目でゴウケツを見ている。そりゃ気持ち悪いだろうなと、僕はサチに同情する。
魔法使いタイプと戦士タイプの異種格闘技戦だ。接近戦なら戦士タイプが有利、遠距離なら魔法使いタイプが有利、これが常識だ。
サチが勝つにはゴウケツに近寄らせない事だ。彼女ももちろんそれを分かっているだろう。
どうする、サチ?
僕はポニーテールのカワイイ魔法使いに視線を送る。
「クソ女! お前、魔法使いらしいな。もしかして、近付かれなければ勝てると思ってるのか?」
ゴウケツは片手持ちの斧をブンブン振り回している。そして、勢いよくサチに向かって突進して行く。
「あんたみたいなバカは、痛め付けないと分からないからね。この試合はいい機会なのだよ」
サチが呪文を詠唱し始める。が、ゴウケツのスピードが突如上がり、一気にサチの前へと現れる。そして、サチの肩目掛け、斬り付ける。サチの左肩に斧がかすり、肩口から出血が始まる。サチは肩を抑え、軽快にゴウケツとの距離を取る。
「油断してたのかぁ、クソ女? もう少しで真っ二つだったのにな。次も当てるぜ」
ゴウケツはニヤリと笑うと、またサチに向かって突進して来る。サチもすぐに呪文を詠唱する。
しかし、またもやゴウケツのスピードが突然上がり、サチに斧を浴びせる。今度はサチの右腕をかすめ、またもやそこから血が流れる。
すると、サチの魔法が完成し、炎の玉の魔法がゴウケツに目掛け飛んで行く。ゴウケツはギリギリの所でそれを交わし、体勢を整える。
「なるほど、ただ斧を振り回すだけのバカじゃないみたいね。急にスピードが上がって、私の間合いに入って来る。何らかの特殊能力を持っているようだね」
サチは肩と腕の傷の痛みから苦しそうな顔を浮かべている。
「あぁ、よく気付いたな。俺は突進加速という特殊能力を持っている。だから、全ての魔法使いは魔法が完成する前に俺の斧の餌食になるんだぜ」
ゴウケツは得意そうな顔をし、またサチに突進して行く。そして、また急激にスピードを上げ、サチの頭に斧を振り下ろす。
ダメだ。完全にヤラれた。僕は見てられなくて、目を伏せる。
ドンという衝撃音が響き、ゴウケツが宙に待って吹っ飛ぶ。サチの身体の周りから円状に魔法が張り巡らされている。そして、サチは吹っ飛んだゴウケツに追い撃ちの魔法の玉を放つ。ゴウケツは黒焦げになり、地面に倒れる。
「対接近戦魔法、炎のフープ。半径1メートル以内に近付く者を吹っ飛ばす魔法よ」
サチは倒れている黒焦げのゴウケツに言っているが、奴はもう意識はない。完全にノックアウトされている。
サチさん、もうその人、聞こえてないですよ、と僕は思ったが、声にはあえて出さなかった。
「魔法使いが何の策もなく、接近戦を受け入れると思ったのかな? 愚かだね。魔法使いは最強なのだよ。そう、勇者よりも強いのだよ」
サチは無意識のゴウケツを指差し、持論を語っていた。
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