この中に犯人がいる
僕はアオハルの申し出を保留にした。一年後になってみなければ、お互い相棒にふさわしいかどうか分からないと返答したのだ。彼は確かにと言って、頷いた。
ただ、僕も十字男が許せないから、協力はすると言うのをアオハルに伝えた。彼は了解したと僕に返し、そのまま彼とその場を別れた。
アオハルのタイプは戦士タイプだ。警察署内で剣道をやっていた為、剣特性はかなり高い。直接攻撃特化型だろう。
もし、相棒にならなくとも、強い味方になってくれるかもしれない。この縁は大事にしなければいけない。彼との友好関係を深めたいと僕はこの時思った。
この日も深夜、僕はサチと二人切りで秘密の特訓を行っていた。試合形式の実戦練習だ。魔法容量の尽きる明け方まで練習をして、僕は自室のベッドに倒れ込むように横たわった。そして、いつものように眠りに就いた。
* * * *
僕がベッドで眠ってから、何時間も経過していないそんな時に、何だか周りから騒がしい声や音が聞こえる。隣の部屋や、廊下の方からバタバタとうるさい音がする。
こっちは徹夜で頑張ってたんだから、静かにしてよ。眠い目を擦りながら、時間を確認する。まだ、朝の八時だ。
僕は布団を頭から被り、もう一度寝ようとする。すると、僕の部屋のドアをドンドンと激しく叩く音がする。
勘弁してよ。そう思いながら、ベッドから身体を起こし、部屋のドアを開ける。
すると、昨日話をしていた刑事アオハルがドアの向こうに立っていた。
「大変だ! ユウト! この城内で殺人事件が起こった!」
「え……」
アオハルの言葉で僕は一気に目が覚める。ドアの隙間から黒ローブのスタッフ達が廊下を慌てて走っているのが見える。
「女の子が殺された。首元に十字の傷が付けられている。奴だ。十字男が現れたんだ。アイツがこっちの世界に来て、また人を殺したんだ」
アオハルはかなり興奮した口調だ。僕も驚き、胸騒ぎがしてくる。
女の子、まさかサチが?
僕の頭の中であの時の悪夢が蘇る。不安に襲われた僕はアオハルに問い詰める。
「殺されたのは誰ですか? ポニーテールのサチと言う女の子ではないんですか?」
「いや、ショートカットの女の子で、そんな名前じゃなかったはずだ」
僕は少し安心する。しかし次の瞬間、怒りが込み上げて来る。
「アイツは? クロスギはどこにいるんですか? アイツが犯人じゃないんですか?」
僕はドアから飛び出して、クロスギの所へ向かおうとする。
「ユウト! ダメだ! 今から緊急集会がある。俺達、異世界から来た人間を集めて、犯人探しをするみたいだ。クロスギの奴も、もちろんそこには来るが手を出すな。黒ローブのスタッフ達も今回の件はかなりお怒りで、俺達を監視している。絶対に大人しくしとけ」
アオハルに僕は肩を掴まれる。僕は彼の顔をじっと見た後、スッとうなだれる。そして、二人で緊急集会のある大広間へと歩いて行った。
* * * *
異世界に転移してきた初日のように僕達は、大広間へと集まっていた。僕の隣にはアオハルがいる。サチも僕を見つけて、僕の隣に駆け寄って来る。そして、僕は少し離れた所にいるクロスギを見つける。
一体、どんな表情をしているんだ?
奴が何を考えているのか僕は気になり、睨むようにじっと奴を見続ける。相変わらずの無表情だ。
他の人間は殺人事件が起こり、動揺の顔を見せているのに、クロスギだけなぜあんなに冷静な顔でいられるんだ。僕はますますクロスギに対して、疑惑の目を持ってしまう。
すると、大広間の少し段が高くなっている王座の所で、黒ローブのスタッフのリーダーが話を始める。
「前代未聞の事態になってしまいました。まさか、ゲームがスタートする前に一名の欠員が出てしまうとは。王族と貴族の方々に、我々はお叱りを受ける事になりますよ、クソ! 今から、急遽こちらの世界の人間を一人補充します。そして、これからはあなた達を厳重に監視しますよ。二度とこんな事が起こらないようにね。そして、犯人には重いペナルティを付けさせてもらいます」
すると、サイコパスの魔法使いクロスギが手を挙げ、発言する。
「犯人の目星は付いているのですか?」
「いえ、残念ながら今の所はまだ……。しかし、必ず見つけます。我々にもプライドがあるので」
リーダーの回答に対し、クロスギは無表情のままでいる。相変わらず何を考えているのか分からない。
僕は正直、お前がやったんだろと思っている。しかし、サチの言う通り、クロスギと決め付けるのは早過ぎるのかもしれない。だが、一つだけ明らかになった事がある。
この異世界に連続殺人鬼”十字男”がいると言う事。つまり、僕の恋人レイコを殺した犯人もこの異世界に転移して来ているという事だ。
この緊急集会に集められたメンバーの顔を、僕はじっと見つめる。この中に犯人が間違いなくいるのだ。僕はギュッと唇を噛んで、一人一人顔を確認していく。
そして、集会は解散となった。みんな散り散りに、自分の行きたい所に向かっている。僕は拳を握り締め、クロスギの元へと向かう。
「あなたが殺したんですか?」
僕はクロスギの正面に立ち、奴の目を見て声を上げる。
「私ではありませんよ。むしろ私は君が犯人だと思っていますがね」
クロスギが冷たい目でこちらを見てくる。僕はまた怒りで身体が震える。それに気付いて、サチとアオハルが僕の身体を両手で止めている。
クロスギは僕をギロッと睨むと、そのまま背を向けて去って行く。僕は二人に抑えられたまま、奴の後ろ姿をじっと睨んでいた。
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