十字男と呼ばれる殺人鬼
サチとの試合の次の日、僕は再び闘技場の方へと足を運んでいた。サチのような優秀な魔法使いでも、サイコパスの魔法使いクロスギには勝てない。その事実を突き付けられ、僕は心ここにあらずの状態で、フラフラとただ歩いていた。
「山川優人さんですね?」
僕は突然、背後からフルネームで呼ばれる。向こうの世界で僕の事を知らないとその名前は出て来ない。恐る恐る背後にいる人物を確かめる。
話し掛けて来たのは、長身で体格のいいスポーツ選手のような男だ。角刈りで眉毛の太いその男は僕の顔を確認して、また話を続けて来た。
「青山署のアオハルと言う刑事です」
その男は警察手帳のような物を僕に見せる。僕は殺人犯として捕まえられそうになった夜の事を思い出す。そして、後ろを振り向き、逃げる体勢に入る。
「待ってくれ! 君を捕まえようとしている訳じゃない。そもそもこんな手帳、この異世界では何の役にも立たない物だし、俺は君が早崎礼子さんを殺した犯人だとは思っていない」
その彼の言葉で僕は足を止める。そして振り返り、その男の顔をじっと見つめる。
確かにそうだ。異世界に来た最後の合格者は僕なのだ。僕を追って捕まえに来るという事は不可能だ。という事は、この刑事は僕より先に異世界に来ている。僕は少しこの男の話を聞いてみようとアオハルと言う男に近付く。
「僕の事をなぜ知っているんですか? そして、レイコの事も?」
「連続女性殺人事件の担当刑事だからだ。もちろん何百人も捜査をしている捜査本部の一人に過ぎないが……」
あの事件を捜査していた刑事――――。
僕はこのアオハルという刑事に興味を持つ。
「なぜ、刑事さんが異世界に……。僕を追ってるんじゃないとしたら……」
「あぁ、別の犯人と疑わしき人物を追ってこの世界に来た」
「それって、あのクロスギの事ですか?」
「君はクロスギの事を知っているのか? あぁ、そうだ。早崎礼子の上司クロスギだ。捜査本部は君の事を容疑者として逮捕しようとしていたが、俺は納得が行かず、奴を単独で尾行していたんだ」
この人もクロスギを疑っている。僕と同じだ。僕はこの事件の詳細を聞こうとアオハルに詰め寄る。
「もし良かったら、僕に事件の事を教えて頂けますか? 刑事さんが知ってるように、僕は被害者の恋人です。だから、知りたいんです。事件の事が……。お願いです」
「俺もそのつもりだ。この異世界で俺も協力者が欲しい。あのクロスギを逮捕出来ないなら、俺がアイツを仕留めようと考えている。事件の事を話すから、出来るなら協力をして欲しい」
僕はコクリと頷く。すると、アオハルは笑みを浮かべ、事件の事を話し始める。
「この連続殺人犯は女性ばかり十人を手に掛けている。今、分かっている範囲で十人だ。犠牲者はそれ以上かもしれない。殺した被害者に見られる特徴としては、首元に十字の傷が必ず刻まれている」
「それなら、僕もレイコの首元で見ました。殺人犯は殺した後に自分の犯行だと見せ付ける為にそんな傷を残しているんですか?」
「恐らく……。被害者とは怨恨が無く、ただ快楽を求めるだけの殺人と思われる。首元に傷を残す特徴から、マスコミではこの殺人鬼の事を”十字男”と呼んでいる」
十字男……。
僕は心の中でその言葉を復唱する。
「なぜ、アオハルさんはクロスギが怪しいと思われているんですか?」
「目撃情報によると、必ず被害者の周りにはクロスギの影があった。それにアイツ、何か血のニオイがする」
「じゃ、なぜ他の捜査員の方達はクロスギを捕まえないで、僕を捕まえに来たんですか?」
「クロスギを逮捕するだけの決定的な証拠が何も出て来なかったからだ。それに比べ、早崎礼子殺害時に使われたナイフから君の指紋が検出された。被害者の衣服からもだ。もちろん君は被害者の血も浴びていて、第一発見者だ。それが決めてだ」
「ナイフに僕の指紋? 僕はナイフになんか触れていない。衣服には確かに触ったけど……。そんなバカな……」
「俺も何か出来過ぎで、君を罠にハメているようなそんな感じがしたから、単独行動をしていたんだ。クロスギが犯人だと思ってな」
僕は誰かにハメられた――――。
クロスギが僕をハメたのか?
僕の指紋付きのナイフはどこで?
疑問がいっぱい付きまとう。でも、今の僕には答えは見つからなかった。
「まぁ、こちらの世界では捜査のしようがない。クロスギの自白しかないからな」
「僕は大魔王を倒して、レイコを生き返らせるつもりです。その時に犯人も分かるものだと考えています。だから、奴の自白も必要ありません」
「君は本気か? 本気でこのゲームに勝てると思っているのか? それに勝ったとしても、本当にレイコさんを生き返らせれると思っているのか?」
「はい、そう思わないとやっていけませんから。それが僕にとっての唯一の希望ですから……」
「そうか……。君には相棒がいるのか? もし、居ないのなら俺が務めようか?」
「え……」
僕はこの時、スゴく嬉しかった。図書室で一人で本を読んでいた時なら、この申し出を即座に受け入れただろう。
でも、相棒という言葉で僕の脳裏にすぐに浮かんだのは、魔法使いサチの姿であった。
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