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最後の賭け

 倒れているクロスギの元にパートナーの魔剣士オスクリタが駆け寄る。そして、黒い巨大なドラゴンを前に剣を構える。


「マスターは、私が命を懸けて護る」


 オスクリタはそう叫び、ニーズヘッグを睨む。しかし、身体は震え、今にも泣きそうな顔になっている。


 竜の王はそんなオスクリタを意に介さぬまま、口から炎を吐き出そうとする。


 君まで死ぬ事はない。君が入ったとしても、クロスギは助けられない。だから、早く逃げろ。


 僕はそう思ったが、逆の立場だったなら、自分ならどうするかという事をふと考える。サチが殺されそうになっていたら、間違いなく僕も彼女と同じ事をしたに違いない。


 そして、ドラゴンの口からトドメの一撃が放たれようとしたその時、隣のサチが僕に寄り掛かって来る。


「え……」


 僕は思わず声を出し、倒れ掛かって来たサチを受け止める。彼女は意識を失っているようで、目を閉じている。


 すると、あの巨大なドラゴンが何もなかったかのように急に消え去る。もちろん口からの炎は放たれてはいない。僕はもう一度、サチの顔を確認する。サチは汗まみれでグッタリとして眠っているようだった。


 クロスギにトドメを刺す前にサチの魔法エネルギーが無くなって、彼女は意識を失ったのか。あと少し、持ってくれれば、全てが終わったのに。そんなどうにもならない事実を何度も思う。


 サチを穴の中の中央に寝かせる。悔しい気持ちとこれからどうするんだという気持ちで、頭が少し混乱している。そして、僕はクロスギコンビを穴の中からじっと覗いてみる。


 クロスギは虫の息になっている。相方のオスクリタがサイコパスを助けようとポーションらしき飲み薬をヤツの口に押し込んでいる。


 僕は必死で考える。今の僕の状態は回復魔法を掛けた為に、八割方、身体は機能している。今、飛び出して攻撃すれば、勝てるかもしれない。


 僕は穴から飛び出し、クロスギコンビに向かって走り出す。魔剣士オスクリタがそれに気付き、剣を構える。僕は敵剣士を排除しようと拳を振り上げる。


 その瞬間、僕の右足に激痛が走る。見てみると、僕の足に氷の槍が刺さっている。僕は叫び声を上げ、両手で右足を抑え、その場に倒れる。


「再び形勢逆転したようですね。やはり、天は私に味方しているみたいです。どうしても、この異世界の王に私がなるシナリオらしい。それに私、運が良いんですよ。いつもの日頃の行いがとても良いですから」


 クロスギが立ち上がって、こちらを見て笑っている。苦痛でバタバタしている僕を見ながら、自分自身に回復魔法を掛けている。ヤツはまた勝利を確信した表情だ。悔しい気持ちを感じながら、僕はヤツを見上げる。


「サチさんはあの穴の中ですか? どちらから先に殺して欲しいですか? 最期に希望を聴いてあげましょう。さぁ、選びなさい」


 クロスギは僕をじっくりと見ている。僕は痛みを我慢しながら、立ち上がる。


 考えろ。まだ何か勝つ方法があるはずだ。諦めるな。


 僕がそう思った瞬間、クロスギの左手が光り、僕は雪の魔法を全身で食らう。そして、五メートルほど後方に吹き飛ばされる。身体中から激痛が走り出す。僕は苦しくて、のたうち回る。クロスギはそれを見て、ニヤニヤと笑っている。


 アイツ、サイコパスでサディストなのか? 僕が苦しんでいるのを楽しんでやがる。このまま、いたぶられて死んで行くのか。いや、絶対に負けない。こんな所で死ねない。


 フラフラになりながら、僕はゆっくりと立ち上がる。そして、サイコパスを睨み付け、僕は叫ぶ。


「どちらも選ばない。勝つのは僕達だ」


「よく言ったのだよ、相棒。すまない、少しの間、意識が飛んでいた。君一人ではない。私もここに居るのだよ」


 サチは僕の隣でクロスギに言い放つ。僕はサチを見て、微笑む。僕達二人なら、どんな敵でも倒せる。そんな気がして来た。


 とは言え、確かに僕達は万策、尽きていた。勝つ手段が見当たらない。


 しかし、僕は考え直す。


 ホントにそうなのか。やり残した事、試していない事はないのか。僕達の全ての力を出し切ったのか。


 僕はクロスギを見ながら、自分自身に疑問をぶつけ続ける。クロスギは余裕の笑みを浮かべながら、左手を伸ばす。あの魔法で僕とサチのどちらかの命を奪うつもりだ。僕はそう感じ取る。


 その瞬間、僕はフッと笑い出してしまう。隣に居るサチが驚いた表情をしている。頭がおかしくなったと思われたのかもしれない。でも、そうではない。


 勝つアイデアが浮かんだのだ。もちろん、勝利の望みはかなり薄い。でも、心のどこかで、この方法を模索していたのは確かだ。試すには今を除いて他にはない。


 僕は隣のサチを見ずに、小声で話し掛ける。


「サチ、あと一回、魔法を使う事は可能か?」


「うん、ルーン語でも召喚魔法でも、あと一回なら大丈夫だ。首飾りの力で少しは回復出来たから。何をする気だ、ユウト?」


「よし、こちらも最後の賭けに出る。ナゾナゾオッサンを召喚するんだ」


「は?」


 サチが目を見開き、こちらを見てくる。次の瞬間、クロスギの左手が光り輝く。


「今だ! 呼び出せ!」


 僕は叫ぶと同時に走り出す。右足から出血して、上手く走れない。しかし、僕は必死にクロスギの元へと向かって行った。


 


 






 


 



 


 

 



 


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