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 猫。

 それは、ペットの定番。

 犬派か猫派かと問われれば、すぐに答えられる人もいるだろうが、どちらも愛するが故に悩む人もいるだろう。

 しかし、雪菜(セツナ)は猫派だった。

 生まれ変われるなら、金持ちの家の猫になりたい。そして一生自堕落に生きていきたい。

 そんな脳天気なことを考えていた雪菜だが、今、大きな猫が一匹、周りには雪菜と同じくらいと思われるサイズの仔猫がたくさんいる。

 (え、なに? どういう状況?)

 先程、雪菜はトラックに跳ねられた。

 (死んだ……んだよね)

 見た感じ、洞窟らしきところにいる。少し遠くにはぼんやりと外が見えるが、見えにくい。

 天国にしては薄暗いし、湿気のせいかむわむわしている。

 (いやなんで?)

 雪菜が「意味がわからない」、と呟こうとして聞こえたのは、「にゃあ」という可愛らしい声に変換された。

「は?」

 またしても「にゃあ」と猫語に変換されたが、以後翻訳してお送りする。

 驚いて、手を見る。

 肉球があり、可愛い。猫だ。

 そういえばさっきからありもしないはずのしっぽの感覚がある。

 耳の位置もなんだか違う気がする。

 焦る。

 (え? 私、猫??)

「夢……?」

 もはや自分が発する言葉全てが猫語になるが、この際気にしない。

 (明晰夢って言うんだっけ……? 初めて見た)

 しかし、それからいくら経とうが夢が覚める気配はなく、加えて親(らしき猫)が蛇(らしき生き物)の死骸を食べさせようとしてくる始末。

 食べるのを拒否し、はや数時間。お腹が空いてきた。

 目の前には余った蛇の死骸。他の猫が食べた後なので、グロい。

「んえぇ〜〜……」

 できるなら食べたくない。人間は普通蛇を食べない。

 (いや、今の私は猫か……)

 お腹が空く。

 目の前にある蛇。

「あ──もう! どうにでもなれ!」

 空腹で苦しくなってきたので、思い切ってかぶりつく。

 咀嚼すると、思ったより美味しかった。

 (これ、揚げたらもっと美味しくなりそう……)

 ちなみに雪菜は料理が好きだ。

 家族で登山にも行ったりしていので、野外での活動も慣れている。

 (いい景色をバックにするゲームは最高なんだよね……)

「……ていうか、これ……」

 (夢なんだよね……?)

 ふと、疑問に思った。

 妙に現実味のある夢。

 普段の雪菜なら、こんな大きな猫がいたならば存分に可愛がれたと思う。

 愛でて愛でて愛でて、それはもう愛でていた。

 けれど、自分も猫となれば、状況が理解できずそんな余裕もなくなると言うもの。

 一瞬、転生という言葉が頭をよぎる。

 (なるほど、転生か……)

 いやそんなわけあるかーい! と、言うかと思えば、雪菜はその転生という言葉が妙に腑に落ちていた。

 ならば、せっかくの新しい人生ならぬ猫生、存分に楽しまねば損というもの。

 そう思うと、途端にワクワクしてきた。

 多分まだ夢心地だ。

 奥の方に見える外にも行きたい。

 (親猫がいない間に外に出てみよう、そうすれば外にいけるはず!)

 ここが地球なのかはよく分からないが、地球の猫より牙が長い気がする。爪も鋭い。

 (うーん、転生とかしてるくらいなんだし、ゲームみたいにステータスとか見れたらいいのに……)

 そう思うと、パッと目の前にウィンドウが現れた。

「わぁお……ステータ〜ス……」

 そこには多分雪菜自身のステータスが表示されている。


【種族 スモールキャット 名前なし

 Lv 1 固有スキル 博識】


 (ええっと……スモールキャット……私やっぱり猫か)

 次に、固有スキルという項目に目がいった。

 (固有スキル、博識……? なにそれ……)

 使い方がよく分からないので、放置。

 ここが地球か異世界かを微妙に疑っていたが、こんなのが出た時点で異世界確定だ。

 それに母猫は子育ての際、本来ならば母乳を与える。けれど、与えられたのはガチガチの肉。

 もしかしたら普通の猫では無いかもしれない。異世界というのならば、それこそ、魔物かも。

 ステータスを確認していると、親猫が狩りにでも出かけるのか、外に出た。

 他の子猫達──雪菜の兄妹にあたる──は動く様子がない。

 ならば足止めも喰らわないだろうと、雪菜は歩き始めた。

 産まれたてとは思えないほどスタスタ歩ける。

 空腹の方も暫くは大丈夫そうだ。見た目の割に美味だった蛇の肉のおかげだ。

 ──そしてついに、外に出た。

「わぁ……っ」

 一斉に光が瞳を刺激する。

 丁度夜明けだったようで、顔を出したばかりの太陽が世界を朱色に染め上げている。

 薄暗い洞穴から出たばかりの雪菜の瞳には、辺りがより一層眩しく感じられた。

 周辺は森だ。

 木々が生い茂り、見たところ小動物もいそうだ。

 近くに村や街と言った人の気配はなく、ただ自然が広がるのみだった。

 少し高い位置にあった洞穴からぴょんぴょん飛び降りる。

 こういう時、人間ではそろりそろりと慎重に行くしかないので、猫様々だと思う。

 (猫の体楽しい……)

 雪菜はこの状況に順応しつつあった。

「とりあえず……どこ行こうかな……って言っても地図知らないし……なにしよう?」

 うーんうーんと唸る。

 (とりあえず、辺りを探索かな。うだうだしてたらお腹すいちゃうもんね)

 雪菜はガッツポーズをした。が、猫の肉球の感触が指から伝わって、だらしない顔になってしまった。

 そして歩き始めた。

 (そういえば……マヨマヨとサヤサヤ、元気にしてるかなあ)

 マヨマヨとサヤサヤとは雪菜が飼っていた猫の名前だ。

 本来はマヨカとサヤカいう名前なのだが、雪菜はマヨマヨとサヤサヤという愛称で呼び溺愛している。

 ちなみにマヨカが姉でサヤカが妹だ。

 きっともう会えない愛猫たちに想いを馳せていると、すぐそばの茂みからガサッと音がした。

「……?」

 何かいるのかと疑問に思い、茂みを覗こうとした、その時。

 茂みから何かが勢いよく飛び出した。

「なっ──なに!?」

 思わず瞑った目を開けると、そこにはうさぎ──の魔物がいた。

 (うさぎ? で、でもなんかツノが……あれ? これゲームでよく見る一角ウサギみたいな魔物では?)

 一角ウサギ(仮)は威嚇するように鳴き、すぐさま頭突きせんと雪菜の方に向かってきた。

「うわっ!」

 危機一髪でそれを避ける。

 (やばい……うさぎだからって楽観視してたけど、思ったより早い……。ツノも鋭そうだし、一撃でも食らったら死ぬかも……)

 思わぬ伏兵に、雪菜は冷や汗をかいた。

 (楽観視してたけど、もしかしたらこの旅、危険かも……!)

 そう思考しているうちに、一角ウサギがまた攻撃しようと唸っている。

 そしてまた、頭突きをしようとこちらに向かってくる。

 (っ! 危な……! どうしよう、やり返さないと殺される! 私は猫……猫だから引っ掻く? 噛み付く? 頭突きなんてしたら貫かれて死ぬのは目に見えてるし……。どうしよう、引っ掻くのも噛み付くのも近づかないと無理……! ──って、うわあっ!)

 必死に反撃方法を思案していると、容赦なく頭突きされていく。

 今度は避けきれず、右前脚にかすり傷ができた。

「いっ──たぁ……!」

 焦る。日本では命の危機に瀕することなどなかった。

 だから余計に焦る。死ぬかもしれないと思うと、思考が上手く回らない。正常な思考ができない。

 雪菜に避けられた一角ウサギが、木にぶつかる。

 ツノが木に刺さり、動けなくなっている。

 じたばたと足を動かし、抜け出そうと試みているが、深く木に刺さっていて、抜け出せていない。

 (! こっ、攻撃するなら今しかない! たぶん!)

 直感だった。

 急いで駆け寄り、力いっぱい噛み付いた。

 悲痛な一角ウサギの悲鳴が轟く。

 (ああっ! ごめんね、うさぎさん!)

 一角ウサギの血が口の中に広がる。それに不快感を覚えながら、暴れるうさぎに必死に噛み付いた。

 すると、一角ウサギが蹴ったことで雪菜は後ろに倒れ込んだ。

「うっ……」

 突然のことに受け身も何もなかった雪菜は、背中に激痛が走る。

 一角ウサギが蹴った力が強く、蹴られた腹部さえも痛い。

 雪菜が蹲っているその隙に、一角ウサギは頭突きしようと突進してくる。

 背中がこれまでの経験にないほど熱を持ち、痛みを訴えてくる。

 それに泣きそうになりながら、一角ウサギからの頭突きをごろりと左に移動することで避けた。

 しかしこれも間一髪で、運がいいとしか言いようがなかった。

「ひええええ!」

  (逃げたい! 嫌! もう無理ぃ!)

 ゲームではザコ敵のはずなのに、全く倒せない。

 突進を避けるにしても速度がはやく、先程からちぎれかけの命綱を懸命に握っているような感じだ。

 体力がなくなる、よそ見をする、少しでも避ける方向を間違える。

 このどれかひとつでも欠ければ雪菜の命はない。

 (ていうか何!? あいつ私の牙食らったよね? なのになんであんなピンピンしてるのよ!? おかしいじゃん!)

 グダグダ言っていては死ぬ。そう思ってはいるが、愚痴を隠せない。

(牙は効かないの? なら引っ掻く? でも近づくと頭突きされちゃうし……! どうしよう、逃げ……たいけど、あっちの方が足が早くて逃げられない……これもレベルとか関係してるのかな? もう! せめて相手の実力が図れたら安心できるのに……!)

 未知の相手というのが恐怖心を増長させる。

 それに初めての土地ということもあり、少し緊張している。

 すると、パッとウィンドウが出てきた。

「!?」


【種族 スモールキャット 名前なし

 Lv1 固有スキル 博識】


 (うわっ! 見れた! ……じゃなくて、これ私のステータスじゃん! 私のが見れてもなあ!)

 ウィンドウの奥で一角ウサギが唸っているのが見えて、ぶるりと震えた。

 落ち着くため、ふうと息をつくと、その隙を見計らってか一角ウサギが突進してきた。

 (やばっ──!)

 死ぬ、と覚悟して目を瞑る。

 すると、大いなる何かがやってくる気配と同時に、一角ウサギが悲鳴をあげた。

 恐る恐る目を開けると、そこには、圧倒的な強者の風格を纏った人間がいた。

 (なに……?)

 もしかして、守られたのだろうか。

 人間の足元には先程まで戦っていた一角ウサギの生首が転がっている。

 (一撃、だなんて……そんな)

 剣に着いた血を大きく一振することで振り払う。

 人間はこちらを見た。

 その人間はとても綺麗な顔をしているが、瞳は冷たい。

 あまりの恐怖に、ひゅっと喉が鳴った。

 殺される。

 本能がそう訴えた。

 逃げようと構えると、その女性は、緊張気味に頬を緩めて、微笑んだ。

「……大丈夫かい? 不届きな魔物に襲われていたようだが……あ、いや君も魔物だが……スモールキャットは愛玩魔物としても有名だから、大丈夫だ。私は君を襲わない。だ、だから……その」

 すると両手を控えめに広げ、「……お、おいで〜……」とぎこちなく言い放った。

 (……え?)

 雪菜は思わず後ずさった。女性はそれにあからさまにショックを受けた顔をした。

 (こ、この人……猫好き!?)

「ああ……っすまない、君を怖がらせるつもりは……! 」

 思わずと言ったように手を引っ込めた。

 (すごくいい人だ……! たぶん……)

「そういえば。さっきパーティメンバーのアイザックからこれを貰ったんだ。良ければ……食べてくれ」

 そういって、おずおずと差し出してきたのはキャットフードだ。

 (!)

 それは猫になった雪菜にはこれ以上ないほど極上のご飯であった。

 そろりそろりと慎重に女性の元に近寄り、その手にあったキャットフードを食べた。

 すると、女性は感極まったようで、泣きそうになっていた。

「ま……まさか、私の手で猫ちゃんがエサを食べてくれる日がくるなんて……! 今日は記念日だ。絶対に覚えておこう。アイザックにも、感謝しなければいけないな……」

 (この美人さん……もしかして、動物に懐かれたこと、ない……?)

 それも少しわかるな、と雪菜は思ってしまった。

 なぜなら、この女性と目が合った時の絶望感は尋常ではなかった。

 「ああ、殺される」と。そう本能が訴えるのだ。

「なあ、君……よければ、うちの子に──」

「おーい、アミキティア様──!」

 女性の声を遮って、男性の声が聞こえた。

「む、アイザックだ……早いな」

 ぽそりと、女性は呟いた。

「アミキティアさあーん、どこですかー?」

 次に聞こえたのは可憐な女の子の声だ。

「ちょっ、おふたりとも、待ってくださいよお〜……ぼく、もう疲れたんですけど……」

 アミキティアと呼ばれた女性に、雪菜は抱き抱えられた。

 (え!?)

「私はここだ!」

 じたばたと足掻くが、全く相手にされていない。

 段々と声が近づいてくる。

え、い、行かないよ(にゃ、にゃにゃーん)!?」

 抵抗するが、全てが猫語に変換される。

 遂に奥の茂みから三人の男女がやってきた。

「やあ」

「やあじゃないですよ、アミキティア様! 全く、あなたなら大丈夫だとは思いますが、もし魔物が現れたらどうするんです? 勇者であるあなたが死んでしまっては、俺がどう上に報告すればいいのか悩むじゃないですか! あ、ゾーイ! 急ぎなさい! また置いていかれるぞ! シエルも容赦なくゾーイを置いていくんじゃない。それでも聖女か?」

 (え、なに? この世話焼き……てか、え? 勇者? 聖女??)

 出てきたのは親かと疑うくらいの世話焼きの青年。周りに魔物を連れているので、魔物使いだろうか。

「うるさいわよお、アイザック。ゾーイを待つのは聖女の責務ではないわ。わたくし聖女の使命は勇者にお供し、その旅路を助けることよ」

 次に来たのはアミキティアと呼ばれた女性ほどでは無いが、見目麗しい少女だった。17と言ったところだろうか。

「ひど……シエルさん。その通りかもしれないけど、ぼくの事待つって言うのも聖女として必要なことなんじゃないの?」

 次は青年が出てきた。服装は明らかに騎士だが、イメージの中の騎士とは掛け離れている。なんというか、怠惰な感じがするのだ。

 話を聞く限り、勇者のアミキティア、魔物使いのアイザック、聖女のシエル、騎士のゾーイという構成らしい。

 (え、この人が、勇者……?? それやばくない? え? え?)

 アミキティアが「とても賑やかになったね」とおおらかに笑った。

「ていうか、アミキティア様、そのネコなんです? アミキティア様、いつも動物には逃げられてたのに」

「ああ、よく聞いてくれたな、ゾーイ! この子はさっき、エサを与えたら懐いてくれたんだ。可愛いだろう? な?」

 アミキティアはずずいと雪菜をみんなに見せた。

 全く興味無さそうに、騎士のゾーイが答えた。

「え、まあ、かわいいですけど。それどうするんですか?」

 (それ呼ばわりされた……)

「え? つ、連れて行ってはだめなのか?」

「え? だめなんじゃないんですか?」

 ゾーイは困惑して、アイザックを見た。

「駄目ですよ。そんな脆弱な子猫。俺たちの戦いに巻き込まれて死にます。それに、まだ諸悪の根源である魔王の調査が終わっていないんですよ。猫なんかに現を抜かしていては一生終わりません」

「う……そ、そうだが、ちゃんと魔王の調査はやるぞ!」

「本当ですか? 調査の内容覚えてます? あなた戦闘と動物大好きだから、一度熱中するとその他のこと綺麗さっぱり忘れるじゃありませんか」

「ちゃ、ちゃんと覚えているぞ。魔王復活の予兆が無いかを調べるんだろう? 魔王は995年前に先代の勇者に討伐されたから、そろそろ復活してもおかしくないのではと調査を依頼されたんだろう? そのために古の勇者のパーティに倣ってわざわざ勇者と聖女まで決めて、ようやくここまで来たんだ。どうだ、私はちゃんと覚えているぞ」

「うわ、アミキティアさんがちゃんと覚えてる……!」

「シエル、うわとはどういう意味だ。私は成長しているんだぞ。褒めろ」

「スゴイスゴーイ」

「棒読みじゃないか!」

 (え? なんか、仲良くね? てか逃げていい? いつ殺されるか分からないんだけど)

 どうやらこの勇者パーティは、第一印象よりだいぶ愉快なパーティらしい。

 もぞ、と逃げようとする。

 ──しかし、真後ろから突然強い魔物の気配がした。

「!?」

 突然、大きなクマの魔物三匹がアミキティアの背後に現れた。

 本能的にわかる。

 これと戦ったら、死ぬ。

 それがアミキティアの背後に大きく振りかぶる。

 もうだめだ、そう諦めた、その時──。

 何かを振る音と何かが切り裂かれる音が聞こえた。

 見れば、黒く、大きなクマの魔物が全て、頭と胴体が離れていた。

 斬られたばかりのクマたちの頭が、胴体が、血が、スローモーションのようにゆっくりと落ちていく。

 (うそ……)

 そう思うと、今度はあっという間にクマたちの死骸はあっという間に地面に崩れ落ちた。

 アミキティアは先程一角ウサギを倒した時のように、剣を振り、剣に着いた血を払った。

 流れるような動作に、雪菜は困惑した。

 勇者パーティの面々を見回すも、誰一人として驚いていない。

 まるでこれが当たり前だとでもいうように。

「大丈夫かい? 猫ちゃん」

 雪菜は青ざめた。

 (──一撃だった)

 あの魔物たちは恐ろしいほど強大な気配があった。なのに、一撃。

 ただ簡単に首を切った。

 きっと、彼女たちにとっては魔物を倒すことなど、赤子の手をひねるより簡単なことなのだろう。

 (あのクマ、絶対に波の人間じゃ倒せない。なら、この人達は、なんなの……?)

 単純に怖かった。

 それと同時に、強く憧れた。

 (──私も、このくらい、強くなりたい)

 たかたが一角ウサギ一匹に手間取っていた雪菜からしたら、この勇者たちを目標にするには程遠すぎる。

 けれど。

 (目標は遠いくらいがちょうどいいってね)

 それが逆に、雪菜のやる気を刺激した。

 (今決まった……私の、旅の目的)

 今まではずっと、死なないように生きたいとぼんやり考えていた。

 でも、それはもうやめた。

 この勇者たちのように、強くなろう。

 しかし、雪菜は猫とはいえ魔物。

 強くなれば勇者である雪菜たちとぶつかる可能性が高い。

 そういえば、魔王がいない、みたいな会話もしていた。

 ならば魔王になるのも面白いかもしれない。

 仮に魔王がいたとしても、壇上から倒して引きずり落とそう。そしたら晴れて、雪菜が魔王だ。

 その前に死ぬ可能性も勿論あるが、雪菜の計画に死なんてものはない。

 雪菜は一度決めたことにはとことんやる。

 それがどんなに小さなことでも、大きなことでもだ。

 雪菜はアミキティアの頬に、ぽんと前足を当てた。

 そして、ぴょんと飛び降りる。

「あっ」

 雪菜が飛び降りると、アミキティアも追いかけようとするが、アイザックにとめられていた。

「やめてください。あれは野性ですよ。飼うにしても、ちゃんと捜査が終わってからにしてください」

「そうですよお、アミキティアさん」

「だ……だが……」

「まー運が良ければまた会えるんじゃないですかぁ?」

 仮に雪菜があの勇者パーティにいたいと願っても、あの様子では雪菜はすぐに追い出されていただろう。

 だから、これが1番正しい判断だ。

 アミキティアは不服そうだ。

 最後に少しだけ雪菜の方に駆け寄り、最初とは比べ物にならないほど自然で、穏やかな笑みを雪菜にむけた。

「またな」

 うん、と返事をしようとしたが、猫語にしかならないのを思い出した。

 それでも、「にゃあ」とだけ返事をして、その場を去った。

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