09【秘密の扉】
良い天気だから、フレーバーウォーターを持参して遠くに散歩。
遠くに散歩って言ったって、いつもと違う道の散歩のこと。
空を見上げると翡翠色の小鳥が何かをくわえていて、それを落とした。
拾って見るとそれは鍵で、小鳥はどこかの建物の中を目的にしてるみたいだった。
もしかしてこの鍵の持ち主はそちらにいるのでは。
住宅街に建っている建物の外塀には植物が這っている。
見つけた荒れた庭の木製の扉の周りは雑草みたいなものでいっぱいで足元を気にした。
鍵を差してみると、カチリと感触がして壊れそうな扉が開いた。
声をかけても誰もいないみたいだ。
中は、大木と建物がほぼ一体化していた。
信じがたいので近寄ってみると、やはり大木の幹が加工されて本棚になっている。
本棚に置かれた一冊の本の題名を見る。
「ノットタイトル・・・『あえて題名がない』・・・?」
冒頭を数ページ読んでみると、本が喋っている。
いや、本が喋っているような技法効果を使って文字が紡がれている。
はっと息を呑んで本を閉じて胸に抱きしめると、「盗みたい」とぼやいた。
すごい、夢が叶った。
作品を前に、「盗みたい」って思ってみたかったから。
本を本棚に返して、連絡先と事情をメモに残してテーブルに置く。
鍵を持ったまま、帰宅。
あんな素敵な情景を前に、将来を見据えて自分には何が出来るのだろう、と悩んだ。