28【台風の襲来でひとけは無い】
小雨がちょうど降り出して、肌に冷たい気がした。
店内から外猫のアンジーが出てきて、「元勇者を呼んでくるにゃー」と喋った。
店内は「アトリメデューナだって!?」とわいわいしている。
「あたしゃ見たよ、あたしゃ見たよ」とマスターは質問攻撃を受けている。
どうやら店内に戻るとお客さんたちまで危ない目にあいそうだ。
ノア君を見ると、すぐにノアちゃんに変わった。
アイコンタクトをして、手を強くつなぎ、「逃げようっ」と彼女は言った。
危ないじじぃの正面反対、それは私の家の反対方面。
でもにやにやしているじじぃが「狩りだ」と言ったので、本能的に経路を計算した。
走り出し、振り向くと追いかけて来る。
家には今日、結婚したばかりの兄とマリアンヌがいる。
どうしよう・・・?
もし、じじぃがそれを見つけたら・・・
妙な不安にさいなまれて、ふと首に下げていた鍵に気づく。
その鍵をにぎって、いつの間にかノア君になっている彼に言った。
「あっち、左に角、曲がろうっ」
「どこ行くのっ?]
「今日は駐在さん忙しいよっ」
「分かってるよ、どうしようっ?」
「あのじじぃ、趣味が多分、ランニング」
「・・・なるほど、やべぇっ」
そう言った頃には、ノア君は女性化していた。
それを見た危ないじじぃは、雄叫びをあげた。
「道を別れるのも危ないぞっ?」
「大丈夫、あっち・・・秘密の抜け道があるからっ」
そう言って私は極力気丈にふるまって、元勇者さんの登場まで逃げる作戦をとった。




