その八 文句と忠告
望美の気持ちを気付かせようと、宏人は通にあれこれ話しかけました。
それを不満に思った望美は、廊下に出た宏人を追いかけます。
二人の会話の行方は……?
どうぞお楽しみください。
放課後の廊下。
宏人に追いついた望美は、その鞄を掴んで引き止める。
「ちょっと待ちなさいよ浅井君」
「ん? 何だ五階」
「何だじゃないでしょ? 休み時間といい、さっきといい、何のつもり?」
鋭い目で睨む望美の鞄を掴む手を軽く解き、宏人は軽い溜息をついた。
「お礼ならともかく、そんな目で睨まれる謂れはないけどなぁ」
「お礼、ですって?」
「楽面に可愛いって言われて嬉しかっただろ?」
「……別に」
「それに文句言いたいのはむしろ俺の方なんだけど? さっきのツンデレの話、否定さえしなきゃ色々うまくいってたのに」
「……何のつもりかは知らないけど、余計な事はしないで」
表情を変えず冷たく言い放つ望美に、宏人は肩をすくめる。
「ま、俺は別にいいけどさ。他の女子にかっさらわれてから『素直になっておけば良かった』って思っても遅いからな」
「……あなたが心配するような事は何もないわ」
「へいへい。じゃあな」
ひらひらと手を振ると、昇降口に向かう宏人。
その背を望美は歯噛みしながら見送る。
「……そんな事、言われなくたって……」
するとそこに、
「あれ? 五階さん?」
「!」
のんびり帰り支度をしていた通が追いついた。
「何か急いでたんじゃなかったの?」
「べっ別に急ぎじゃなかった事を思い出しただけなんだからねっ! かっ勘違いしないでよねっ!」
「あ、そうなんだ。じゃあ昇降口まで一緒に行こう」
「ふぇっ!? ……べっ別にいいけど……」
こうして二人は並んで廊下を歩く。
望美はにこにこ笑いながら鼻歌を歌う通を横目で見つめながら、
(いつか、素直になれたら……)
と甘く痛む胸を押さえるのだった。
読了ありがとうございます。
頼った方が良い気もしますけどねぇ……。
次回もよろしくお願いいたします。