その四 評価と照れ隠し
お昼の時間。
弁当を食べ終えた通は、望美にもらったクッキーを口にします。
さてその反応やいかに。
どうぞお楽しみください。
お昼。
通は食べ終わった弁当をしまうと、朝望美から渡されたクッキーを取り出す。
その様子を横目で、しかし固唾を飲んで見守る望美。
(……『まずっ!』とか言われたら泣く……!)
万が一に備えてハンカチを握りしめる。
すると、
「うまっ!」
「!」
クッキーをかじった通が歓声を上げた。
「五階さん! これめちゃくちゃうまいよ! 専門店の味って感じ! まぁ専門店とか行った事ないけど!」
「ぅぁ……」
「これで練習とかすげぇな! 将来プロになれるんじゃないの!?」
「ぁゎ……」
無邪気な笑顔から繰り出される手放しの褒め言葉に、望美はパニックに陥った。
その結果、
「あっあんたなんかに褒められたって全然嬉しくないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
と叫んでしまった。
「あ、そうだよね……。ごめん……」
「え、あ、あの、違うの……。私……」
失言に気が付き真っ青になりながら弁明しようとする望美。
しかしうまく言葉にできない間に、通は席を立ってしまった。
(私の馬鹿馬鹿! もう絶対嫌われた……! 死んじゃいたい……!)
絶望に打ちひしがれる望美は、それでも通の姿を目で追う。
すると通は
「ねぇ浅井君! これちょっと食べてみて!」
クラスメイトの浅井宏人にクッキーを勧めていた。
「え、何で俺……?」
「浅井君ってよく女の子とスイーツの話してるから、詳しいと思って! 僕そういうのあんまり食べてないから!」
「あ、うん……」
気圧された様子で、宏人は差し出されたクッキーを口にした。
「お、美味い」
「やっぱり? 良かった! 五階さん! 浅井君も美味しいって!」
「へ?」
目を丸くする望美の元に、通が駆け戻る。
「専門店とか知らない僕じゃ不安だったと思うけど、浅井君が言うなら大丈夫だよ! このクッキーは大成功! ね!」
「あ、うん……」
「また練習したら食べさせてね! すっごく美味しかったから!」
「……はい……」
嫌われていなかった安堵感と、また食べたいと言われた嬉しさに、頷くしかできなくなる望美。
「……」
その様子を宏人はじっと見つめるのだった。
読了ありがとうございます。
「あっあんたに褒められたって全然嬉しくないんだからねっ!」
(そうか、僕が「専門店なんて行った事ない」って言ったから不安になったんだな。それなら浅井君にも感想を聞いてみよう!)
……そうはならんやろ。
なっとるやろがい!
次回もよろしくお願いいたします。