その三 手作りお菓子
手作りのお菓子。
異性に手渡すそれの意味は、どう考えてもラブな訳ですが……?
どうぞお楽しみください。
週は明けて月曜日の朝。
席に座り、鞄の中身を机の中に移す通の横に、教室に入って来た望美が立つ。
「……お、おはよ」
「あ、おはよう五階さん」
「……」
「……何?」
席に着こうとしない望美に、通は首を傾げる。
「……これ」
絞り出すような言葉と共に、望美が手を突き出す。
その手には透明な袋に入ったクッキーが握られていた。
「え? それって……」
「あ、あげるって言ってんの! とっとと受け取りなさいよ!」
「え!? ホントに! ありがとう! 嬉しいな!」
「うれ……!?」
瞬く間に顔を真っ赤にした望美が、
「べっ別にあんたのために作ったんじゃないからねっ!練習したやつだけど捨てるのももったいないからあげるってだけなんだからねっ!」
「え、これ手作りなの!?」
「ばっ……! かっ勘違いしないでよねっ! あくまであんたは練習台なんだからねっ!」
そうまくしたてると、席に座る。
望美の頭の中はぐらぐらと煮え立っていた。
(ううう! 最悪……! もらったお菓子のお礼のつもりだったのに、ちゃんと言えなかった……! 楽面君を練習台とか言っちゃうし……!)
一方で通は、
(練習にしては形はまん丸だし、色もきれいな黄色だけど、味がとんでもない、とかあるのかな……?)
と少し怯えつつ、クッキーをカバンにしまうのだった。
読了ありがとうございます。
「何故自分にだけ?」と思わず、練習台という言葉を鵜呑みにしてしまう通。
そういうとこだぞ。
次回もよろしくお願いいたします。