その十七 待ち合わせとお邪魔虫
美夜子の誘いで買い物に行く事になった通と望美。
その待ち合わせ場所に、思わぬ人物が……。
どうぞお楽しみください。
土曜日。
時間は九時五十分。
待ち合わせ場所に立つ望美の元に、美夜子が駆け寄る。
「五階はん! ごめん! 待たせてしもた?」
「別に。私が早く来ただけだし、大して待っていないわ」
「そんならえぇけど……」
そう言いながら望美を見つめる美夜子。
華美ではないが、目元や唇などポイントを押さえた化粧。
丁寧に櫛を通したであろう、整った髪。
新品かそれに近い、ブラウスとワンピース。
落ち着いた印象でまとめた中のアクセントに、ビビッドな色のパンプス。
「……五階はん、気合い入っとるね……」
「そうかしら。普段着よ」
「そ、そうなん……」
事もなげに言い放つ望美。
それが真実でない事は、まだ出会って数日の美夜子にもわかる。
(……楽面君のためやろなぁ……)
切ない気持ちに満たされそうになる美夜子。
そこに、
「おーい! おはよー!」
通が駆け足でやって来た。
すると望美の態度が豹変する。
「ばっ……! はっ走って来る必要なんかないんだからねっ! たっ大して待ってないし転んだら大変なんだから歩いて来なさいよっ!」
そう言っている間に、通は二人の元に辿り着いた。
「ごめんね、お待たせ!」
「おはよ、楽面君……」
「おはよう京極さん! 五階さんもおはよう!」
「……おはよ」
元気な挨拶に微笑む美夜子と目を逸らす望美。
すると、
「五階さん! 心配してくれてありがとう!」
と通は満面の笑みを向ける。
「べっ別にあんたを心配したわけじゃないんだからねっ! おっお出かけが駄目になったら困るから言っただけなんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
「そうなんだ! でもありがとう!」
「〜〜〜っ! はっ早くショッピングモールに向かうわよっ!」
顔を見せないように歩き出す望美。
その時、
「よ、楽面」
「あ! 浅井君!」
「……」
宏人がすっと近づき、通の肩を叩いた。
嬉しそうな通とは対照的に、不機嫌そうな顔で睨みつける望美。
「何しに来たの」
「楽しそうな話してたからな。ついて来た」
「何を勝手な……!」
「なぁ楽面、俺も混ざっていいか?」
怒りすら滲ませる望美を無視して、宏人は通に話を振る。
当然通は、
「うん! 京極さん、賑やかな方が楽しいって言ってたから! ね?」
そう答えた。
「え、あ、うん……。うちは、えぇよ……」
それに押されるように美夜子も頷く。
「楽面はこう言っているけど、どうだ五階?」
「……好きにすれば」
溜息と共に怒りを吐き出した望美が、先程より靴音高く歩き始める。
こうして土曜日は前途多難な予感と共に幕を上げた。
読了ありがとうございます。
ちなみに望美は九時前から待ってました。
次回もよろしくお願いいたします。




