09
「「「僕達の友達を連れてきてもいい?」」」
精霊たちに、そんなお強請りされたのは覚えている。
「えぇ、あなた達と仲良しなら私も会いたいわ」
「「「やったー、ありがとう」」」
…そんなやり取りをしたのは覚えている。けれど、まさかこんな事になるなんて。
精霊の友達ならば、同じ精霊か妖精、聖獣と呼ばれる動物か何かに違いない、あの時そう思った自分を詰りたい。
ミッシェルは目の前にいる子どもを見つめていた。ミシェルと同じか、幾分幼い様にも見える。伸び放題の髪で顔の大半が見えず、正直良く分からないが、ぼさぼさな髪の合間から時折見える瞳は、真紅に輝き吸い込まれるように美しい。しかし身体は痩せ細り、更に埃まみれで継ぎ接ぎだらけの服を着ていたので、最初は性別すら分からなかった。
兎に角、勝手に連れて来るなんて、これは誘拐だ。
人だと知っていたら、当然承知しなかった。ミシェルがどうしようかと考えあぐねていたら、きゅるるると盛大に腹の鳴る音が響いてきた。
「…とりあえず、ご飯にしましょうか。私はミシェル。ええと、あなたは?」
「ディオン。……ただのディオン」
やや高めなものの、返事の主は少年だと分かった。
「ディオン、とても素敵な名前だわ。サンドウィッチは好きかしら?」
「多分…」
「そうこなくっちゃ。さぁ、すぐに用意しましょう」
ミシェルはディオンの手を取ると、すぐ傍の木陰へと向かい歩きだす。その後をを精霊たちが、楽しそうについて来た。
ディオンは両手にそれぞれサンドウィッチを握りしめ、それを次から次へと口に運んだ。厚切りベーコンや瑞々しいレタス、ねっとり濃厚なチーズが端までみっちり入ったフワフワな白パンのサンドウィッチは、ディオンにとって生まれて初めての御馳走とみえる。
時折喉に詰まらせながらも、限界まで詰め込む勢いだ。
夢のような一時に、もしかして天国に来てしまったのかもしれない…。とディオンが考えていた所へ、すっと差し出されたそれは濁りや臭いの無い、透明な水が注がれた清潔なコップ。まじまじと見つめれば、いよいよ本当に天国なんだと、ディオンは確信した。
水を一気に流し込むと、ふぅーっと満足げに息を吐いて、漸くミシェルの方を向いた。
「ミシェルは天使なの?」
「ふふっ、普通の人間よ。ほら、羽なんて無いでしょう?」
ミシェルは背中を見せるように、くるりと回って見せる。けれどディオンは続けた。
「…だけど、羽…いや、包まれたような光が…。ここ……何でこんなに精霊様が…?」
「ディオンは、この子達が見えるのね。ここは精霊と私の場所なの」
周りを見渡したディオンは、柔らかく笑う。
「いい所だね」
「ありがとう、嬉しいわ」
優しく微笑み返したミシェルの表情に、僅かばかり力が入る。
「…ところでディオン、家族の所へ戻りたい?」
「家族…?」
目を丸くしたディオンへ、ミシェルは言葉を続けた。
「えぇ、ここに来る前に居た場所へ帰る事が出来るとしたら?」
「い…やだ。帰りたくない。ここに居たい、お願い。…気付いた時には独りで、何処にも帰る場所なんてない。…精霊様が一緒に住もうって…そう言ってくれたから嬉しくて…、それでついて来たんだ。だから…!」
「そうだったの。自分の意思で来てくれたのなら、私達はディオンを歓迎するわ。これから宜しくね、ディオン」
ミシェルが差し出した右手に、ディオンは手を重ねた。
「うん、こちらこそ。…ありがとう、ミシェル。ありがとう、みんなも」
こうしてミシェル達に、新たな仲間に加わった。
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