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消えた手紙  作者: 白貴由
8/15

08

ガーランドは、ミシェルの部屋を隈なく探索していた。既に調べつくされたそこには塵一つ落ちておらず、窓ガラスでさえも一点の曇りすら確認できない。当然、お目当ての物は中々見つからなかった。




それでもガーランドは諦めず、遂には魔導具を使って家具を空中へと浮かせた。細く淡い光がキラリと瞬く。それに引き寄せられるように、衣装箪へと足音も立てずに歩み寄った。



壁に面した奥の足に手を伸ばす。キラキラとした蜘蛛の糸を掴むように、優しくけれどしっかりと輝く銀色の髪の毛を拾い上げる。




ふっと小さな笑い声をあげる。



「漸くミシェルを追う事が出来る…、私の勝ちだ」




◇◇◇




レオポルドは自身が動く事無く、弟妹の動きを見張らせ全てを掌握していた。本来、為政者とは、こうあるべきであり、それこそが王太子たる所以だろうと彼自身も理解している。



精霊達が居なくなったのは二日前。ミシェルの行方が分からなくなった頃と一致していた。ミシェルが居なくなった数日間で、彼女を目撃した者は居らず、王都は疎か城から出る事は不可能だと、裏付けも取れた。



この事実から導き出される答えは…ミシェルは王宮内の何処かへ転移し隠れている。



これは間違いないだろう。だが、一体どこに?あれだけ虱潰しに何度も探したというのに。




…なに、ガーランドに動きがあっただと…?。恐らくミシェルを魔導具で形跡を見つけたのだろう。



それでは、ガーランドの様子を見に行くとしよう。





ガーランドが居たのは、予想通りミシェルの部屋。けれど膝を付き、茫然と空を見つめている。まるで抜け殻のようなガーランドの傍には、魔導具が転がっていた。嫌な予感が沸き上がる。いやまさか。



「…ガーランド、ミシェルの足取りは掴めたのか?………ガーランド?」



「…あ、兄上…。ミシェルが消えてしまった。どうしたら…いい?」



瞳だけを僅かに動かし、力なく私を視界に入れた。



「だから皆でさがしているのだろう?ガーランドなら、ミシェルに縁のある物から跡を追ったのだろう?」



「あぁ、勿論。…ミシェルは、この部屋から一歩も外に出ていない。ここに立っていたのを最後に、言葉通り消えてしまった」




魔導狂いのガーランドが、そちらを見もせず力なく魔道具を指差す。レオポルドは魔導具を奪うように手に取ると、すぐさま起動させた。青白く薄っすらとしたミシェルの残滓が、音も無く部屋に映し出される。



「ミシェル…」



思わず小さく呟き、食い入るように見つめる。椅子に座り本に目を落とすミシェルが、不意に顔を上げた。視線の先には壁の時計。恐らく時刻を確認したのだろう。徐に、両手で持っていた本が霧散した。



「なっ、消え…っ?」



その後、ゆっくりと立ち上がり微笑みながら、ミシェルは何か呟いた。読唇術に覚えのあるレオポルドは、声に出しながら読み取る。



「さ…よ…う、…な…、さようならだとっ?」



次の瞬間、ミシェルが視界から忽然と消えてしまう。予想に反して、転移の魔導具が発動した形跡も見られなかった。



「ミシェル!」



レオポルドの大きな声が聞こえたのか、慌てたジェイドとアデライドがドアから顔を覗かせた。



「どうしたのっ?」

「ミシェルは何処かしら?」



改めてミシェルの残滓が映し出され、青い影が霧散するのを目の当たりにすれば、四人は揃って落胆した。





「…さようならと言っていたという事は、ミシェルの意思で消えたのか…?」



最後にレオポルドが口にした一言に、返事が出来る者は居なかった。




次もご覧いただけたら嬉しいです。

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