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よろしくお願いいたします。
「恐らく、精霊の加護が失われた事による現象…かと思われます。"精霊の守護が消えし時、大地は砂塵と化す"…こちらにある文献の一説が今回の件を指しているのでは…と考えられます。何分、古いもので読み解くのが精いっぱいでして…。申し訳ございません。元の状態に戻す方法など、解決策は現在も見つかっておりません。今しばらく、お時間を頂きたく」
顔色を変える事なく、宰相ドナシアンが報告を終えた。バルバストル王は目を閉じ、「そうか」と小さく返事をする。
「大地の消失と王女失踪に関して、引き続き多方面から情報を集めるよう。皆に苦労を掛ける」
「御意。陛下の御言葉に副うべく、再度皆に申し伝えましょう」
王と王妃、四人の子どもたちに最敬礼をすると、しっかりとした足取りで下がって行った。人払いをした上で、ガーランドが遮音の魔導具を発動させた。
「争奪戦の前にミシェルが居なくなるなんて。どうするんだっ」
苛立つジェイドが、誰へともなく喚く。アデライドの瞳には大粒の涙が溢れ、ガーランドは渋い顔をしたまま魔導具を掴んでいた手に力が入る。レオポルドは腕を組み黙ったまま。我が子らの余裕のない様に、王妃は溜息を吐き、王は無表情のまま重い口を開いた。
「只今より、そなた達が考えていた勝負とやらを始める」
王に対し四人は、まるで掴みかかるような激しさを隠そうともしない。
「しかし当のミシェルが行方不明なままでは」
「ミシェル無くして出来る訳ない」
「ミシェルーー、うぅっ…」
「まず、ミシェルを探す事が先決ではっ」
それぞれ自分の事しか考えていない子ども達の姿を目の当たりにし、父王は抑揚のない声で続けた。
「だからこそ…だ。四人の内、最も早くミシェルを見つけた者に、その権利を与えよう」
四人は顔を見合わせると、優雅な足取りながらも競うように立ち去って行った。彼等の所為で生気を失っていた城内が、俄かに活気づいたようだった。
「四人の内、誰かが後ろ盾になれば…と考えたのは間違いだったようだな。…あの莫迦共は、いつ気付くのだろうな」
王の溜息と共に零れた言葉に、王妃も続けた。
「ミシェルが安全に暮らしているのなら、私からは何も言う事はありませんわ」
「あぁ、儂もだ。…この魔導具をミシェルに渡しておいたのは僥倖であった」
丸く磨かれ水晶に似たそれは、淡い紫色の光を湛えている。
「えぇ、もし叶うなら…今一度、ミシェルの元気な姿を見とうございます」
「そうだな、もう少しだけミシェルの成長を見守りたかった。あやつらのやる気に期待したが、…時期尚早であったのは儂の責任だ。ヴァレリアンとアナベルに、合わす顔が無い…な」
弟夫婦に見られている、そんな気がした。
◇
ミシェルが避難の為に足を踏み入れた場所は、空間魔法という言葉に収まらない程、広大になっていた。
恐らく小さな領地なら、すっぽり入る程だろうか。最初の畑と湖に加え、山が聳え立ち、流れる川は海へと続く。太陽や月、星々などの役割を引き受ける精霊も出てきて、外の世界と変わらない景色が広がっていた。
「何だか不思議な気分。これが自分の空間魔法の中だなんて…」
精霊達がミシェルの周りに集まり、楽し気に舞い踊る。今日は木苺を摘みに行こう!と誘われたミシェルは笑顔で頷いた。
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