05
よろしくお願いいたします。
レオポルドは苛立ちを隠せなかった。
王宮に配備された衛兵だけでなく、ミシェルに付けていた近衛さえ、彼女が立ち去るのは疎か扉を開けるのさえも目撃していないと報告が上げられたからだ。では何故ミシェルが居ないのか説明がつかない。所謂、影と言われる精鋭を選りすぐったというのに、何とも酷い体たらくだ。
内から湧き上がる怒りをギリギリで耐えていた、その時。
執務室の扉が、静かに四回叩かれた。
「殿下、私に御座います」
「入れ」
中に入って来たのは、宰相を担うカスタニエ公爵、ドナシアン。鋭い眼光から感情が読み取れないのは、いつもの事だ。
「ミシェル様の行方は依然分からず、引き続き捜索中でございます。ただ…、警備の目を掻い潜り、誰にも見つからず外に出る事は不可能だと断言致します。…しかし、今も尚、王宮内にて発見出来ておりません」
淡々と報告をする宰相に、どうにか抑え込んでいた煩わしさが再燃する。
「矛盾してるようだな。王宮から出ていないのなら、まだ探していない場所があるという事だろう。…若しくは探し終えた部屋に入れ違いで隠れているのかもしれない…。一斉に隈なく探さねば…何事だっ」
話しを遮り、荒々しい音と共に扉開き、火急の伝令がやって来る。
聞けば、実りの多い豊かな森と穀倉地帯の一部が、一夜のうちに砂地になったという、耳を疑う報告に、レオポルドは宰相と共に顔を見合わせた。あの無表情な宰相が僅かに口を開いたまま驚いているなんて、とても珍しいものを目にした。だが今はそれどころではない。やや現実逃避した思考が頭を過っていると、また一人、開いていた扉から別の伝令が駆けこんで来た。
「失礼いたしますっ、ジョ、ジョンキーユ湖が消え去りました…っ!」
「はっ…、消えた?」
「文字通り忽然と消失。湖があった場所は、砂漠のような砂地になっているとの事っ」
危うく全てを放棄しそうになりながらも、何とか留まったレオポルドは重々しく口を開いた。
「陛下に報告した後、現地に赴く!早急、謁見の手配をっ」
◇
その数刻後にレオポルドは、茫然と辺りを見渡していた。
昨日まで青々とした麦穂が揺れていた畑と、水を湛えていた湖があった場所は、報告通り一帯が砂地となり、乾いた風に砂煙が上がっていた。
◇
「「「大切なもの、持って来てもいい?」」」
精霊たちがミシェルに、お強請りを始めた。珍しい事もあるものだと、すぐに頷いた。
「えぇ、もちろんよ」
「「「やったー、ありがとう」」」
そんなやり取りをしたのは覚えている。けれど、まさかこんな事になるなんて。
ミッシェルは遥か遠くを見渡した。黄金の穂が風で波打ち、その向こうには光を湛え静かに揺れる水面。ミシェルの操る空間に、豊かな大地が誕生していたのだ。
聞けば精霊所縁の場所との事。だからこそ大地に実りが溢れ、季節には黄水仙が湖岸に生い茂るのだと教えてくれた。
当たり前の様に広がる空を、精霊たちが楽しそうに飛び回っていた。
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