02
よろしくお願いいたします。
ダンッ
大きな音を立て、扉が大きく開かれた。レオポルド、ガーランド、アデライド、ジェイドの四人が、争うようにミシェルの部屋へとなだれ込む。しんとした室内は知らせを受けた通り、人の気配を感じない。四人は焦りを隠す事なく、それぞれがミシェルを探す為に歩を進めた。
右手に持った水色の小箱を、頭上高く掲げたレオポルドが穏やかに語り掛ける。
「ミシェル、ほら贈り物だ。何だと思う?…隠れるなんて莫迦な真似は止めて、早く出ておいで」
「とっておきを用意したから、私の所へおいで。また一緒に試そう」
キラキラと光を放つ薔薇の形をした魔導具を抱えて、ガーランドが負けじと声を張る。
その二人を呆れたように見つめながら、アデライドは小さく首を振る。
「そんなものでは話にならないわ。今日の為に、とっておきのドレスを作らせておいたの。ミシェルを一番美しくしてあげる。早く姿を見せてちょうだ…」
「なにも特別な日に、ふざけなくてもいいたろう?我儘はやめて、兄さんと過ごそう」
ジェイドはアデライドの言葉に被せるように呼び掛けた。それでも部屋は静けさを湛えたまま、小さな物音どころか大気さえも動きを止めた様に、ただ静寂が四人を包み込んだ。
「…そうか、かくれんぼを続ける気だな?ふっ、まだまだミシェルも子どもっぽいなぁ。…よし、兄さんが一番に見つけてやるぞ」
耐えきれなくなったジェイドが、語り掛けながら迷うことなく一直線に歩き出す。この部屋の中で隠れられるのは、そこしか無い。そして一番大きな衣装箪笥を勢いよく開いた。
「ここだな!……これ、は…」
ミシェルを探そうと、そこにあるであろうドレスを掻き分けようとした手が止まる。兄姉達が着せたかった流行りのドレスは、確かに本来の場所にあった。だが、隣の不自然な空間が目に入る。ミシェルが好んで着ていた、質素な衣服が一つとして見当たらない。それを目にした他の三人も慌てて駆け回り、鬼気迫る形相で他の場所を探し始めた。寝台の掛布団を引き剥がし、ありとあらゆる家具を小さな抽斗に至るまで開け放ち、次室にある浴槽の中まで覗き込んだ。
贅を尽くした宝飾品などは動かされた形跡すらなく残されていたが、その他のミシェルの私物は消え去り、文字通り空っぽだった。最後にガーランドが震える手でバルコニーへと続く窓を解放し、そこに誰も居ない事を確認した所で四人の動きは止まり、悲鳴にも似た声が同時に上がった。
「ミシェルが消えた?…っ、近衛騎士は何をしていたっ」
「何故…誰がこんな事を…くそっ、何とかしなければ…っ」
「そんな、嫌ぁぁぁ…っ。ミシェ…ル」
「嘘だ、嘘だ、嘘だっ!信じられないっ」
アデライドが座り込んで泣き始め、ジェイドが机をダンっと叩いた。レオポルドは扉の方を振り返り、外で待機していた者へ指示を出す。
「城中を捜索し、早急にミシェルを連れ戻すように。隅々まで探せ!」
「「「はっ!」」」
バタバタと騎士団が城中に分かれて行き、部屋には四人だけが残され再び沈黙に包まれた。
「…ねぇ」
痛いほどの静寂を破ったのはガーランドだった。声の方へ三人が顔を向ける。
「まさかとは思うが、勝負する前から抜け駆けした人は居る?」
すぐさまレオポルドが、質問を疑問で返す。
「…どういう事だ?」
肩を竦めて、ガーランドが薄く笑う。
「勝てないと悟った者が、先回りしてミシェルを隠したんじゃないか…とね」
「なんだとっ」
「誰だっ!」
「っそんな」
三人の態度を見たガーランドが、溜息を吐く。
「その様子…本当に知らない、か。…すまない、試すような真似を許して欲しい。あまりの出来事に、冷静な判断を欠いてしまった」
と沈痛な面持ちで深く謝罪をすれば、思うところはあるものの誰もが口を噤んだ。
「…兎に角」
落ち着いた様子で、レオポルドが仕切り直す。
「ここは一旦休戦とし、全力でミシェルを見つけ出すぞ、良いな?」
三人は小さく頷き、是と返事をした。
最後までご覧いただけたら嬉しいです。