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精霊の加護があるバルバストル国は、精霊や妖精達が多く存在しており、大気中に魔力が満ち溢れていた。その豊富にある資源を動力とする魔導具が発達し、日常生活にまで浸透している。魔法は魔力持ちしか使えない上に、鍛錬しなければ思う様に使う事すら出来ない。その様な理由から、人々が手軽な魔導具を頼る一方で、魔法が廃れていったのは、ごく自然な流れと言えるだろう。
王族の中には時折、精霊の血が色濃く受け継がれる者が生まれる事がある。精霊憑きと呼ばれ、周りに精霊達が集い、精霊憑きが土地に居つけば国が豊かになると言われていた。そして精霊を見るにも魔力や素質が必要であり、目視出来る者は一時代に一人居ればいい程度だった。
結局、大多数のバルバストル民は、魔導具が使える事で、漠然と精霊を認識しているにすぎなかった。最近では、それすらも忘れられ、ただ恩恵を貪るだけになっていた。
ミシェルの両親は幼い我が子が精霊憑きだと分かった途端に、絶対誰にも言ってはいけないと、幼いミシェルに約束させた。精霊憑きと知られれば、政治や権力に利用され自由を奪われ、生涯幽閉もあり得ると察したからだったが、人見知り気味だったミシェルには好都合で、精霊達と仲良く過ごし、より外界から遠ざかっていった。そんな経緯もあり、現在までミシェルが精霊憑きだと知られずにいられた。
王家の血筋から王族には使いこなせないものの、少なからず魔力持ちとして産まれる。魔法として魔力を消費するのが正常であり、あるいは魔力の操作で溜めないようにする。王族の子ども達は操作方法は学んだものの、目に見えて魔法で何か出来る訳でも無く、瞬く間に興味を無くした。事実、若い世代では魔力持ちは極僅か、保持者の魔力量も年々減少し、魔力操作など必要なく、むしろ面倒なものと軽視されていた。
生まれながらにして魔力を操る者は居らず、鍛錬しその術を習得しなければ、身体に停滞してしまう。それはまるで寒い時期に起こる静電気のように、目に見えない何かが全身に纏わりつく。普段の生活に影響は少ないが、不快極まりないものに変わりはない。日々の心労は、徐々に積み重ねられ精神を蝕んでいく。
一方、精霊憑きの方は知らぬうちに、魔力の流れを正常化してしまう。精霊憑きの周りに集う精霊達の影響だが、見えぬ者たちには分かるはずも無い。それなりに魔力を持つ王家の子ども達は、一緒に居ると心地良いミシェルに拘り、縋るように求めてしまったのだろう。ミシェルの気持ちを蔑ろにしてまで。
王と王妃は気付いていた。時折ミシェルが見せる笑顔の中に、自分たちには見えない者へ向けられたものがある事を。ミシェルには、精霊が見えていると確信していた。しかし精霊憑きかどうかは関係なく、ミシェルは大切な家族で、実子として育ててきた。
そのはずだった。
まさか我が子らが障害になり、ここまでミシェルを追い詰めていたとは思わなかった。こんな事なら、彼等にミシェルを任せるのでは無かった。
今後ミシェルが戻る事は無いだろう。即ち精霊達もバルバストル国から居なくなるのを意味している。こうなってしまうと、残された道は唯一つ。魔導具や魔法が無くとも生き抜ける国にするしかない。
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