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消えた手紙  作者: 白貴由
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バルバストルの王宮では、思わしくない捜索に、皆の苛立ちが募る一方。





四人は再度、協力し合う事にした。不本意ではあるが、本当に仕方なく。手掛かりや普段とは異なる違和感など、どんなに些細な事でも、情報を共有するようにと念を押して。







王妃の変化、アデライドが気付いた小さな切欠。




その日、子ども達をお茶に誘ったのは王妃その人だった。ミシェルについて何か新しい情報でもあるのかと思えば、何の事は無い。天気や季節の話題に続き、漸くミシェルの話題になっても美しい思い出のように話す様は、まるでミシェルが二度と戻らない、そう言われてるようで気に入らなかった。



己の怒気を帯びた顔を見られまいと、目線を逸らしたその時。




母の右手に目をとめた。手首に近い小指球の辺りに、僅かに黒いしみ。




やや青みを帯びたそれは、間違いなくインクの汚れ。




王妃として、書状などを出す立場であるものの、実際は指示を出すだけで代筆させるのが常だ。余程、親しい相手でないと、自身で認める事はないだろう。




では一体、誰へ?



自ずと答えは導かれる。アデライドは、王妃の会話に笑顔で相槌をする。







「お母様がミシェルへ手紙を書いたのは、間違いないと思うわ」







夜になっても寝付けなかったジェイドは、部屋の窓から月明りの庭園をぼんやりと眺めていた。



すると視界の端を動く小さな光。よく見れば、灯りを持った王に手を引かれた王妃が足早に、離れた西の塔へと向かっていた。こんな時間に護衛も付け無いとは、…一国を治める者達の奇行。


ともすれば見逃してしまうであろう、満月の明るい夜の中、それに気づいたのはきっと運命なのだろう。




「西の塔には秘密がある。そう、とても重要な」







この機会を逃すものかと四人は人目を避け、件の塔へとやって来た。ガーランドが魔導具で扉を開け、狭い螺旋階段を登っていく。最上階の扉には鍵などなく、すんなりと部屋に入る事が出来た。



狭い部屋の真ん中には、小さな机があり小箱が一つ置いてある。蓋を開ければ、封筒が一つ。こちらも魔導具で慎重に封を開けて、内容に目を通した。







愛しのミシェルへ



貴女が王宮から離れた場所でも、元気で過ごしているのは分かっているわ。



それでも、とても心配してしまうの。



長い間、窮屈な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。



今まで辛い思いをしたのだもの、これからは貴女らしく好きなように生きなさい。



それでも、もし何か困った事があったなら、必ず私達を頼って頂戴ね。



忘れないで、いつまでもミシェルは私達の愛する娘なのだから。



また手紙を書くわ。


                             


クロード



追伸:次の手紙は、セヴランが書くと言って聞かないのよ。楽しみにしていて。







レオポルドが読み上げると、四人は息を呑んだ。




間違いない、やはりミシェルは近くに居る。父と母は、その事を知りながら、我々に隠しているのだと。



ガーランドが封筒に手紙を収め、魔導具で封を元通りにした。これからの作戦を練るべく場所を変えようとした、その時。




箱が淡い光に包まれ、元の場所へ戻したはずの手紙がすり抜け飛び出したかと思えば、ふわりと浮き天井近くまで上がった瞬間、シャボン玉が弾けるように消え失せた。




小さく響いた声は、深夜に紛れ溶けて消えた。








次の日、四人は鬼気迫る形相で、王と王妃の元へと押しかけた。ガーランドが人払いと防音の魔導具で結界を張り、二人を問い詰める。



当然、聞き出すのは手紙の行先、つまりはミシェルの居場所について。けれど、二人は一向に口を割らない。



痺れを切らしたレオポルドが放った


「こんなに早く、王座を降り後継へ委ねて頂く事になるとは…、残念です」


という言葉を皮切りに、四人は同時に動いた。




こうして王と王妃は、実子の手により監禁された。最初は無言を貫いた王も、クロード妃だけでなく国民を人質にするという卑怯な手段に、苦渋の決断をせざるを得なかった。



「詳しい事は分からないが、手紙はあの場所に置いておけば、精霊がミシェルの元へと運んでくれる。どうやらミシェルは精霊達が行き来できる場所に居るようだ。だがミシェルの居場所は、我々にも分からない。精霊しか知り得ない…」




それを聞いた四人は、薄く笑い頷き合った。



次もご覧いただけたら嬉しいです。

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