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消えた手紙  作者: 白貴由
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この空間に来てからミシェルがしていた事と言えば、主に読書か刺繍。そして散歩と称し、突如として現れた湖と畑を見に行った程度。曲がりなりにも王族として生活してきたミシェルの出来る事は限られていた。



この状況はまずい。これから先、一人で生きていくのに不安を感じた。



必要な物は揃っていて精霊達が何でもしてくれているものの、身の回りの事くらいは自分で出来るようにと、精霊たちから少しずつ教わらねばと思っていた。丁度その頃に現れたディオンは、自分もとミシェルと同じ事をし、時に先導する事もあった。ミシェルは最低限の基本を覚え、知っている方が好ましいものへ移行し、気付けば格段に熟せる事が増えていた。




すると、その活気は精霊達まで伝わり、満ち足りた魔力が空間魔法の端まで広がっていった。大気が大地が瑞々しい生命力に包まれている様子を、ディオンは眩しそうに見渡しながら口を開いた。





「空いている土地…ほら、小麦畑の横。あそこを畑にしたいんだ」



「ディオンがやりたいようにして。私も手伝える?」



「勿論!皆でやろう」



水を汲み、薪を割り、田畑を耕す。ミシェルとディオンは、片時も離れず何でも一緒にやった。その頃になるとディオンは、精霊達の友人から兄弟へと昇格し、彼等の一員となっていた。




ディオンの伸び放題だった埃まみれの髪も手入れされ、今ならミシェルと同じ色だと分かる。




ミシェルとディオンは互いの言葉に耳を傾け、話し合いを重ねた。時に意見が分かれる事もあったが、とことん向き合い答えをだした。その当たり前な事が、大地に降る慈雨のように、ミシェルの乾いた心に染み渡る。そしてそれはミシェルだけではなく、悪辣な環境に身を置き人の温かさに飢えていたディオンにとっても同じで。ミシェルにとって初めての体験で、凍った心が溶けていく気がした。



互いに特別な存在だと意識してすぐ、ディオンは短期間で急激に成長した。数日のうちに肉体だけで無く、精神的にも年齢を重ねた様に逞しく変化した。弟の様に思っていたディオンが、自分より少し年上になってしまった複雑な気分をミシェルは味わう事となる。驚くミシェルに、とある精霊が囁いた。




ディオンには生まれ持った加護が幾つもあると。精霊達との交流を皮切りに、きちんと栄養を摂り清潔な生活が出来るようになった事などが作用して、今まで内に隠されていた魔力が一気に放出されたのだろうという詳細を教えてくれたのは、青い髪が美しい水の精霊ウンディーネだ。その通り、色々な変化が現れた。




二人が汲んだ水で身体を清めれば、肌は内側から潤い肌荒れだけでなく、小さな傷にも強くなり。


二人で割った薪は雨に濡れても火がすぐ着き、必要なだけ炎を宿し。


二人が手を掛けた田畑には、質の高い作物が豊かに実る。





だからミシェルとディオンの距離が縮まるのは、自然の流れだろう。きっと、これからも二人で精霊達と生きていくのだと、互いに感じ始めていた。




次もご覧いただけたら嬉しいです。

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