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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第四章 八年の歳月は短かったようで、長かったようです・・・
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九十六話 帰り道の出来事・・・

俺は風紀委員会室から出て、校門前で待っていた。ジェイも大体、同様の時間帯に部活の体験が終わるという話であり、一緒に帰る手筈になっていた。







 部活決めは大体、来週辺りまでに決めないといけないようだ。俺は例外で風紀委員に入るのであれば、部活入部やサークル参加などは免除されるようだ。






 それに関しては本当に助かる思いだ。生徒会長が推薦してくれたおかげで、自身で決める必要性が無くなったのだから。







 そんな風な事を考えながら黄金色の空を眺めていると、「ムディナ君〜」という俺を呼ぶ声が聞こえてきた。






 俺がその声の方角を振り向くと、そこにジェイがいた。ジェイは俺と待たせてしまったと思ったのか、急いで忙しなく走ってきていた。






 息使いも荒く、それなりに汗を掻いていた。下駄箱から靴を急いで履き替え、俺がいる方に走ってきた。






 そして急いだのが災いしたのだろう。何も変哲もない地面であったが、足元がおぼつかなくなっていたからなのか、それとも疲労が溜まっていたせいなのかは分からないが、つまづいてしまう。





 ジェイは「やってしまった」という後悔の念を抱きながら、舗装されている地面に頭から激突しそうになる。






 ていうかおいおいおい!? まじかよ!?






 俺は完全に体から力を抜き、脱力する。そして動きに身そのものを任せるように、前傾に体を倒そうとする。

 その瞬間、瞬発的な速度で俺は加速する。そして転びそうになっているジェイを抱き抱える。







「本当に危ないだろ。怪我はないか?」






 本当にジェイは危なっかしいな。ただ怪我とかなくて良かった。







 俺はそう心配してしまったのが、杞憂だったのか安堵してしまう。






「怪我はないよ!? 大丈夫だよ!? 心配かけてごめんね!?」






 ジェイはそう赤面しながら、必死に早口で俺に無事な事を示した。





 そして俺はジェイから手を離す。流石に転びそうになってしまったからと言って、同い年の異性に触ったというのはそれなりに危険だったかな。






 赤面しているという事は、恥ずかしがっているのかな。






「すまんな。転びそうになったからと言って、がっつり触りすぎたな」







 もう少し優しく抱きかかえたなら、良かっただろうか。そこら辺は反省するところだな。もし他にも同様の現象が発生した時は、今度からはそうしよう。







「いやいやいや、全然大丈夫だよ。むしろ転びそうになってたの、助けてくれてありがとう」







 そうジェイは首と手を全力で横に振っていた。そう言ってもらえるなら、俺も助けた甲斐があったな。






「そうか…………それなら良かったが」







「とっとっとりあえず、帰ろう」







 何故かジェイは焦っているのか、赤面したまま帰る事を俺に促した。






「そうだな。帰るか」






 俺は少し苦笑いを浮かべながら、ジェイと二人で校門から歩く。







「それにしても予定より、少し遅かったな?」






 俺が風紀委員会室を出て、校門に到着してから十分後くらいにジェイが来た。何なら待ち合わせ通りすぎて、待たせてしまっているのではないかと危惧していた程である。






 それなのに予想とは違って、ジェイの方が少し遅めだった。







「剣術部に体験入部していたんだけど、人が多くて余計時間が掛かっちゃった」






 確か剣術部って、結構な人気と人数がいる部活だったか。それもそうである。何故なら騎士を目指す者は、基本的に剣術はそれなりに扱えないといけないからだ。






 一応授業でも、試験でもやるだろうが、その程度では剣術を上達させる事など普通の素人には難しいだろう。






 何を、どうやったら、剣術を練習すればいいのか、それをしっかりと学べる剣術部の人気な理由である。






「でも剣術部って、審査があるだろう? どうなんだ?」






 ただ剣術部はその人気ゆえに、入部する人数を制限しているのだ。







 そして部長である人が、毎年新入生を見極めて審査しているらしい。そのお眼鏡を適った人だけが、剣術部に入部出来るチケットのような物を手にするのだ。






「落ちたよ。部長の人に、君は駄目だねって言われた…………」






 それを言うジェイは悲しい表情をしていた。部長である人に、はっきりと剣術の才が無い事を言われたのだ。







 確かにはっきり言う事は悪い事でない。それは部長なりの優しさである可能性がある。確かに俺が見る限りでも、彼女には剣術としての才がない。






 しかしそれはあくまでもこの国の王国式の剣術が、資質的に合わないだけであった。







「それなら剣術くらいなら、俺が教えてやるよ。別にジェイはこの国の剣術が、肌に合わないだけだからさ。別の剣術を身に付ければいい」






 ただ試験だけは、その国の騎士として王国式剣術を使わなければいけないが、それ以外で実戦式での剣術の運用だったら教えられない事ではない。






「そうなの? ムディナ君に教えてもらえるなら、私嬉しいな」






 そう朗らかな笑顔を、俺に向けてきた。くっそ………………可愛いな。






 ていうか本当にこんな可愛い子と一緒に歩いて、大丈夫なのだろうか。






 まっ、そんな事より何か言う事があったような気がするんだが、忘れてしまったようだ。






 結構重要な事だったような気がするんだが、ジェイの可愛さで記憶が吹っ飛んでしまったようだ。






 あっそうそう。思い出した。






「という事は今は、別の部活とサークルを探している感じか?」






「そういう事になるね。とりあえず、私の肌に合いそうな部活とかサークルを選ぶつもりだよ」





 なら好都合である。風紀委員長から言われた事を、そのまま伝えよう。






「風紀委員長から言われたんだが、もしジェイが良ければで構わないが、風紀委員として俺と一緒に体験してくれないか?」






 顔馴染みがいてくれた方が、俺も安心感が増して風紀委員会の仕事の内容に専念出来そうだし。そういう面で見れば、一番に思いついたのがジェイであった。






「そうなの!? ムディナ君と一緒なら、それはそれで引き受けるよ」






 そう好奇的な表情で、快く引き受けてくれた。むしろ断られそうだと、内心思っていたから意外的に俺は感じた。







「そうか。それなら明日の放課後は、一緒に風紀委員会室に行こうか」






 何故か無性にジェイから離れると、寂しく感じるのは何でなんだろうか。






 胸の奥も妙に熱くなってしまうし。






 そう考えると、やっぱりジェイといた方が気楽に感じてしまう今日この頃である。






「うん、分かった。ムディナ君と明日は、二人で風紀委員の体験か〜。悪くない」






 そんな風に楽しみになったのか、ウキウキと嬉々とした表情をしていた。






 さっきまでの悲しい顔は何処に行ったのか。まっ少しでも元気になってくれたなら、俺も良かったと思うな。

 とりあえず風紀委員長の話は伝えたし、後は何も話す事はないな。






「それで風紀委員はどんな感じだったの?」






「風紀委員会の皆さん、本当に優しい人達ばっかりで良かった。意外と厳しくて、ガッチガッチに規律とかに縛られていそうなイメージがあったけど、そんな事なかったな」







 それに風紀委員長が、意外にと気さくな人物なのは良かった。生徒会長のような強引な人物で引っ張るんじゃなくて、あくまで下の人間の自主性を重んじるような感じらしい。







「そうなの? それなら余計、私興味出てきちゃうな」







「そうか? 明日の事を楽しみにしててくれ」






 俺らはそんな風に他愛もない普通の学生の会話をしながら、帰路を歩いている。





 今日はなんだったか、授業が難しかったかとか、部活やサークル、委員会はどうだったのかなどなど口下手である俺が、普通にジェイと話しているのがとても…………とても幸せに感じてしまっていた。






 そんな風に明日の事を、俺自身楽しみにしながら、そんな事を思っていた。

九十六話、最後まで読んでくれてありがとうございます



少しでも面白いと感じたら、いいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。

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