九十一話 自身の部屋は普通のようです・・・
俺は階段で三階まで登っていった。光源による魔道具が、壁には立て掛けられており消灯時間になると消えるだろう。床は赤いカーペットで敷き詰められている。この寮のイメージカラーは赤なのだろうか。いや生徒会長の趣味の可能性も否めないな。
登り切ると、壁に矢印で案内板のようで一から四は右側で、四から八は左側であるらしい。俺はそれを見ると、右側へと進む。
どうやら突き当たりのようで、そこら辺は俺は嬉しかった。妙に俺は突き当たりが好きだからな。安心出来てしまう。
普通の木製の扉のようで、何も特に変哲な所はなかった。俺は鍵穴に、アデリ先輩から貰った鍵を差し込む。鍵を回すと、何の抵抗も無く、ガチャリと開く音が聞こえた。
ドアノブを回して、これから俺が三年間お世話になる部屋が露わになる。俺はそのまま部屋の中に入ると、そのすぐに二つのドアが左側に見える。どうやらトイレと風呂はこの二つのようであった。右側には、キッチンのようで火の魔法が行使する事が可能な魔石に加えて、洗い場のようなものと共にあった。下はタンスのようなものが複数あり、これにフライパンなどのキッチンで使う物を入れるようだ。
自炊が出来るのかよ。弁当でも作ろうかな。いや面倒臭いな。
俺はそのまま真っ直ぐ進むと、簡素な木製の机があり光源のヘッドライトがある。その机の右側には本棚があり、俺の身長より頭一つ分位は高かった。俺が172センチ位だから190位はあるか。
普通の簡素な一般的な狭さの宿屋の広さであり、左の角にはベッドがある。ふかふかベッドであり、俺は吸い込まれるように向かっていく。いつの間にかベッドに寝転がっていたようだ。
疲労がこの一日で、結構あるようで俺は顔が埋もれるようにふかふかベッドに沈んでいった。普通の何も変わらない宿屋であるが、風呂とキッチンがあったのは驚きがあった。
ただ今は少し休ませてくれ………………。疲れた……………………。
ベッドで無性にゴロゴロと寝返りをしてしまう。
「ヅガれだーーーーーーーーーー!?」
俺は血反吐を吐くような勢いで、みっともない声を出してしまう。実際、疲れたものは仕方ない。特に今日は、生徒会長との決闘が一番疲れた。何であんな強い人間が、いるんだよ。世の中って広いな。あれだと下級の龍なら、単独で仕留められるだろうな。
本当に凄い生徒会長だ。あの実力なら、すぐに騎士団でも上にいくんだろうな。
俺は天井を眺めながら、そんな事を思った。天井は無機質な石材で作られており、特に壁紙などは貼っていないようだ。光源のライトをじっとただ見つめていた。スイッチによるオンとオフか。そういう所は本当にハイテクだな。普通の宿屋なら、光源なんてないし、なんならランタンで点けるものばっかりだからな。
俺はそのまま重たい瞼を下ろした。風呂とか夕食とかは後で頂こう。今は少しでも…………この疲れた体を回復させよう。
「何を寝ようとしている。坊」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァ!?」
俺は驚きのあまり、飛び起きる。心臓が止まるかと思った。自分の部屋に、見知らぬ声が聞こえたと思ったら、ベッドで両脚をバタバタとしている七歳位の体格の少女がいた。ただ特徴的なのが髪型であり、白い髪に爽やか緑色が混じっておりその緑色の髪の一部が、飛び跳ねるように渦巻いている。
服装は至って普通の、白い無地のワンピースであった。どうやら服に関しては無頓着のようであった。翡翠色の瞳をしており、微かに龍の紋章のようなものが瞳の奥に見える。
「風呂も食も、まだのように見える。そのような状態で、寝るのは勧めんぞ」
「それは申し訳ありません。疲れていたので。それで風神龍様、急に私の部屋に現れないでください」
この内に秘める世界を一個、作りかえない程の莫大な生命力と魔力は最上位の龍種であり、七体の完全なる龍種が一柱であった。
風を司るその龍種は、その魔力により無意識に影響のない範囲で自身の周囲に風を発生させていた。
「坊が一人でいる時間帯が、この時しかないからであろう。それに感知出来ないお主が悪い」
そんな横暴な。完全に姿を自然と同化させる事が出来る、自然の体現者を感知する術なんて俺にはないのだが。いや意識を集中させると、出来なくはないか。あれはあれで疲れるんだよな。
「それにしても、風神龍様の人間体というのは初めて見ました」
龍甲山では、龍としての姿しか知らないから新鮮な気分だ。というか何で今更、俺の前に姿を現したのだろうか。俺が龍甲山を離れて、もう二年近くになるのに。顔でも見にきたのだろうか。
「というか風神龍様は、何故私の前にいらっしゃったんですか?」
何か理由があるのだろうか。それに人間体になってまで、俺の目の前に現れたという事は、それなりな理由があるのは明白である。最上位の龍種は、世界で何かあっても基本的には見護る立場にある。
「龍老様から、坊の事を頼むという風に言われたのでな。私も窮屈な人間体になって、下界に翼を運んだという訳よ。どうじゃ? 我が人間体の姿は? 美しいであろう!」
存在変化という魔法であり、龍の姿から人の姿に存在そのものを変化させるというのである。これは要するに龍としての彼女が、人としての形だとそのような姿に世界が判断したという訳だ。
つまり幼い姿をしているという事は、精神的なのか、言動のせいかは分からないが幼いせいであるのだろうか。確かに見てくれは綺麗というよりか、可愛い部類に入るだろう。うん、俺には幼い子供に劣情を抱く程、健全な男を辞めていない。
この風神龍様は、ベッドで立ち上がり無い胸をバシッと誇らしげに張り、腰に両手を当ててフフンと自信満々な表情をしていた。
「綺麗ですよ。流石、風神龍様ですね」
瞳とか髪色とかは宝石のようで綺麗であるから、嘘は言っていない。風神龍様もそうだが、下手に嘘を吐くと看破されてしまうからな。嘘とも事実とも微妙なラインでの無難な発言をした。
それにしてもやはり、風神龍様からしたら人間体というのは窮屈なのだろう。実際の龍としての姿は巨体だからな。自由に動けないのは、それなりに不便だろう。
「そうじゃろう! そうじゃろう! 流石、我だ! 見惚れるがよろしい!」
ていうか龍老様は、あの傍若無尽な風神龍様しか送ってないというのは不自然だった。そう言っちゃなんだが、風神龍様は機嫌を少し損ねただけでこの大陸が滅んでしまう規模に癇癪を起こして暴れるからな。お目付け役とかきっと一緒に着いている筈だが。
「おい、タンペット。俺から離れるなと、何度言ったら分かるんだ?」
そんな風に怒声を出している、黒服に身を包んでいる背丈の高い男性が現れた。ストレートの長い髪をしており、風神龍様と同じく、黒い髪に紫色の髪が混じりあっているような色をしていた。瞳は紫色に輝いており、奥底には龍の紋章が見える。
「じゃってテネーブルといるとつまらんもん」
「こいつ」と拳を握りながら、何とか怒りを抑えていた。俺はベッドから立ち上がり、その人物に頭を下げる。
「闇神龍様、お久しぶりです」
「ムディナも元気そうで何よりだ」
そんな風に、成長した我が子を見るような愛おしい眼で俺に言った。闇神龍様が、風神龍様のお目付け役か。闇神龍様は心優しい龍だから、俺も安心出来る。
「それにタンペット、ムディナにキチンと話してないだろう?」
あぁ〜、風神龍様のよくある話半分でしか、聞いてないパターンか。だから風神龍様の発言は、あまり当てにならないんだよな。
「ん? 坊を見守ってくれじゃなかったか?」
「間違ってないが、そういう事じゃないだろう」
闇神龍様は、深いため息を吐きながら風神龍様に呆れるような視線を見せる。
「それで何故、私の前に?」
「ムディナの運命に陰りが見えた。その陰りが、世界を滅ぼしてしまう事になるらしいと龍老様からの指名があってな。俺らがムディナの見守りを兼ねている」
何か俺の運命、壮大すぎじゃね。俺は普通に生きたいだけなのに、何で世界危機レベルになるんだよ。おかしいだろ。
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