八十八話 終わりはいつも突然のようです・・・
様々な色に輝く剣が俺へと一気に発射される。俺は気力を脚に集中させ、瞬間的な加速をする。追尾性能は桁違いだが、抜け出せない事はない。空中にある気の流れを利用して、それは形を形成する。それは生徒会長が形成していた剣作製を、気にして再現したのだ。
流石の俺のその芸当には、生徒会長も驚愕するしかなかった。
「よい!? よいぞ!? 俺の力さえも、意図も簡単に再現するか!?」
生徒会長は絶叫するかのように、興奮気味になっていた。
そして生徒会長が放った無数の属性剣は、俺の気力で形成した剣で完全に相殺した。恐らく今、この場所は魔素と気力で濃密な空間に満たされている。それは普通の一般人が、即死しかねないレベルでの濃度である。
それなのに何故俺達は生きているかというと、それは簡単だ。俺達は影響を受けないように、常に操作して有毒な影響ない範囲で操作しているのだ。
そして生徒会長は踏み込み、一気に加速する。腰を低くして、加速力が増す。一気に剣が横に薙ぎ払うかのように振る。俺はまた受け止めると、さっきのように受け流されて不意を突かれる。
それなら俺は一歩、瞬時に後退する。生徒会長の一撃は空振り、俺は一気に生徒会長に接近する。
「龍天百花剣・龍円」
俺は左脚を軸に、剣と共に一回転する。俺は生徒会長の不意を突いたんだと確信する。しかしそれは防がれた。生徒会長の鞘には、二本の剣が携えていた。そのもう一本の剣が、まるで意志を持ってるかのように勝手に動き、俺の攻撃を防いだ。
それは白く神々しい特殊な造形をしている剣だった。何やら文字のようなものが、彫られているが俺には分からなかった。その剣は怒っているのか、俺に白い光線を放つ。
あ〜これはだいぶヤバいかもな。威力が今までとは、桁違いだ。受け流すのも無理だし、回避するのも今は難しい。そんな速度じゃない。
仕方ない。今は使うか。いやそれなら、負けた方がいいか。デメリットが大きすぎる。
俺はそう考えた。自らのメリットとデメリットを考えた結果、ある力を使う事がデメリットになるのは承知だった。俺の合理主義者程じゃないが、それなりに合理的な人間だ。
自らの感情より、損得勘定で動く。しかし今の俺はおかしかったのだろう。俺は何故か心の奥底から、湧き上がるような感覚になる。それが正常な判断を狂わせる。
「龍紋解放――――――一の龍・白龍」
俺は右手の手袋を外す。そしてそこには刻印のようなものが彫られていた。魔術刻印と呼ばれる代物だった。それは何かを封印する為に行われる。
そしてその中でも、龍紋と呼ばれる龍族による直々の封印は格が違った。それは一つでも、世界にとって脅威となる存在を封印する為に、使用される代物だった。
それを生徒会長は理解してるだろう。白き剣を左手に持ち、構えを取る。そして俺という存在の動きを観察していた。
白龍と呼ばれる白き龍が、俺の右手の刻印から離れていく。そしてそれは空中を漂う。その白き龍は精神体であり、俺との戦いを観察していた。俺の事を慈愛に満ちている眼で見ていた。
その瞬間、魔力と気力が桁違いに上がる。さっきより十倍以上の量であった。その影響か、俺の気力が大きすぎる影響で、砂地だった訓練所が草が、花が咲き、草原が形成していく。
その膨大な力の奔流により、白き剣が放った光線を掻き消す。
「あんたが、真の実力者と見込んで、一つ頼みがある。死ぬなよ」
俺は淡々と生徒会長に向かって歩く。そして右手に力を込める。
「龍天百花術・龍顎」
俺は生徒会長に向かって手を伸ばして、握る。その瞬間、龍の口のようなものが形成され、まるで生徒会長を噛み砕くかのように出現する。
完全に逃げ場も、退路も無くなり、飲み込まれようとしていた。
しかし左手にある白き剣を、生徒会長は手放す。
「白き剣・アエスよ。我を守れ!?」
その瞬間、白き剣が空中で生徒会長が操作する様に、龍の口を切り刻んだ。やはりあの程度じゃ意味がないか。ただ加減というのが、難しいな。
面倒だ。かつてない強敵だ。こっちもマジで行かないと、駄目な気がするな。
「龍天百花術・天龍雷」
俺は下に振り下ろすように、手を上に上げてから下ろした。その瞬間、暗雲がこの訓練所内を満たす。そして特大の雷で作り出された龍が、暗雲から姿を現す。
そして龍が、まるで雷の音のような声を出すと無数の雷が、生徒会長に降り注ぐ。それはまるで雷の雨だった。それが一気に生徒会長を襲う結果になる。
「アエス!? 俺を守護せよ!?」
白き剣は、白い結界を球体上に形成していく。恐らくあの白い剣は、守護の力が付与されているのだろう。確かあらゆる害悪から、傷害から、運命から取り除く力だったか。
そんな反則染みた力を行使しないで頂きたいものだ。
その結界内と外界とでは次元的に別離している影響か、俺の雷の雨を防ぐ。それが地面へと流れて、草原とかした大地をまた砂に戻す。
「龍天百花剣・龍剣・突牙裂杭」
白い龍は、俺に帰るかのように手元に収まる。そしてそれは剣の形に変わり、白い龍を象った剣に変わる。そしてその剣を、生徒会長に向かって、空中で白い剣を操作して守護している結界を砕くように、生徒会長を貫くように攻撃する。
そしてこれは守護している結界を砕き、そして生徒会長の喉元まで剣先が迫る。そしてそれは終わりを意味していた。
「はははは、よいぞ。やはり俺の見立ては間違ってなかったようだ。俺が負けるとはな」
そう言いながら、生徒会長は力尽きるように背中から砂の地面に寝っ転がる。その表情は負けたとは思えないほど、清々しいものだった。
俺はそのまま近づき、白い剣が霧散して小さな龍となり右手に収束する。それはまた龍紋として刻印される。手袋をはめて、終わりだな。
「生徒会長の方が強かったですよ」
俺はそもそも龍紋を解放する気などなかった。そんなものを解放した時点で、俺の負けのようなものだ。本来なら素の力で勝ちたかったものだ。それが許されないのは、生徒会長の強さ故だろう。
「ぬかせ。主、未だに全力ではなかったではないか」
それは耳が痛い話だが、龍紋解放は俺の中では絶対したくない事だった。全力というのは、龍紋を全部解放した状態を言うのだろうか。
「それはお互い様では? 白い剣には対となる黒き剣があると聞いた事がありますが」
何故彼が黒い剣を出さなかったのか。恐らく彼の中でも、ルールのようなものがあるだろう。それは俺もだけど。
「俺にとって、あの剣は忌まわしき代物よ。このような場で出すのは、それこそ無粋よ」
成る程。余程の事情があるらしかった。それなら俺はこれ以上、何も言う事はない。
それにしても勝っててよかった。生徒会という面倒臭い事はしたくないからな。俺は平穏な日常を生きていきたいだけだ。こんなに疲れるような模擬戦は、ここしばらくしたくないな。
「はい、手をどうぞ」
俺はそう倒れている生徒会長に手を出す。生徒会長はその意図を汲み、手を握り俺が立ち上がらせようと引っ張る。
「うむ、感謝するよ。それにしても、これで俺が提示した生徒会に入るというのは、無しになるな」
そうだな。俺はそれに安堵するばかりだが。生徒会長はそれこそ、全力で俺の相手をした。それはよっぽど俺の事が欲しかった裏返しなのかもしれない。
「それで俺に何か要求はあるか?」
え? どゆこと? 俺は生徒会長のその発言に、首を傾げる。眼が点になり、硬直してしまう。
「何、そんな訳わからんみたいな顔をしておる。俺が要求を出したのだ。主からも出さねば、フェアじゃなかろうて。それこそ生徒会長としての面子が無くなるだろうて」
あ〜、そういう事情なら仕方ないな。確かに生徒会長から出たのに、俺からの要求がなかったなんてなったら、それこそ問題か。
「うむ、今すぐには思いつかない様子だな。明日までには、考えておけ」
そう言いながら、生徒会長は訓練所を後にした。きちんとそこまで察してくれて嬉しい限りだ。とりあえず教室に戻るか。そう俺は訓練所を出て、中庭に行く。
その隣には、待っていたようにジェイがいた。ジェイはワクワクとニコニコとした表情を浮かべていた。
「お疲れ、凄かったね」
「そうだな。暫くは生徒会長とは、戦いたくないな」
俺は苦笑いを浮かべながら、自身が所属する教室へと戻っていった。
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