八十六話 剣という武器の申し子
俺達は中庭でパンを食べ終わり、それなりに腹が膨れたところで訓練所へと向かっていた。昨日も試験の為に来た事があるせいで、道は普通に地図を見なくても分かっていた。
それと何で昨日も今日も、ここに来なきゃいけないんだと憤慨するような思いがあった。
俺は向かいたくないという気持ちを押し殺して、無理やり歩みを進めていく。
そんな風な事を思いながら、空を眺めてゆっくりと歩いていると後方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺が振り向くと、そこには息を切らしながら走ってきたジェイがいた。
「上級生から、話は聞いてきたよ!?」
ジェイに頼んだ事があり、それは生徒会長の評判と正確な実力についてであった。
この学院で生徒会に入るだけでも、だいぶ名誉であり、進学、就職両方でも重宝されると言われている。
その中でも生徒会長だけは別格の強さを持つとされている。学院の生徒の中で、あらゆる面で一番でなくてはならない。それは実力についてもである。
歴代の生徒会長は皆、あらゆる多方面で名を残している。俺が知る限りでも、数人はこの学院の生徒会長をやっていた実績が確かにあった。
そんなこの学院の生徒会長の中でも、実力面に関しておそらく歴代で一番とされているのがマーデラク・ロクダースである。
彼を知るものは、心も身も剣だと表現した。彼を見たものは、剣という基本を最大限に活かしている事から、剣の申し子と言われている。
そして彼と戦った者はこう言った。彼に剣を持たせた時点で、負けは確定しているのだと。彼に勝つには、剣を持つ前に倒さなくてはならないのだと。
そんな噂話を、ジェイから聞かされていたのだ。
「それで何か有益な話はあったか?」
生徒会長の戦闘方法や、魔力属性が情報があれば、一番いいのだが。
この学院の代表であるから、戦闘方法も魔力属性も知れ渡っているだろう。
「生徒会長は結構、自己中心的であり、決めた事を曲げるという事は決してしない人物のようだよ。ただ自身が認めた人物だけは、その意見を尊重して考えを改めたりはしてるみたい」
「それと、彼が行う事は基本的に失敗がないそうだと言う話があるみたい。頼み事をする時、なんかそれが謙虚になるようだよ。人の事の成長を考えて、それを合理的かつ正確に指示するらしい」
結構なリーダー気質の人間であるようだ。確かにあういう考えは、合理主義者のような感じがした。ただ非情だけの合理主義者じゃなくて、きちんと相手を考えられての合理的な考えを持っているようだ。
「それで、戦闘方法とかについては何か聞いてきたか?」
一番気になる情報がそれである。生徒会長と真正面から戦うのである。初見で不意を突かれるような戦闘方法だったら一瞬にして、終わってしまうからだ。
なのでそんな事がないように、事前に聞いておきたかった。新入生がそもそも、初日で生徒会長と模擬戦闘をする時点でおかしい事なのだが。俺は今日は普通に何もなく、なんて事ない日常で一日で終わるものだと思っていた。
「生徒会長が扱う魔法は、剣魔法。詳細は不明だけど、地面から剣を生成したり、空中から空気の剣を作成して、不可視の攻撃をしたりするそうだよ」
聞いた事がないような魔法であった。錬金魔法とは完全に別の魔法なのだろうか。錬金魔法は、構造物を理解していればあらゆる物質を作り出す事が出来る。土から金などを作り替える事が出来る。
それが剣に限定しているのは、個人的によく分からなかった。もしかしたら生徒会長だけの固有の属性の可能性すら感じる。
ふむ。そこら辺は戦っているうちに、分かる事だろうと俺は腹を括った。
「ありがとな。俺なんかの為に」
ジェイには苦労を掛けてしまった気がする。俺自身はあまりこの学院で関わるのが、デメリットが大きすぎるのだと気づいた。
そもそもこの学院でのタイムのファンは結構な人数になるらしい。だから何かと怖い目線が、俺を見てくると思ったがそういう事になるらしい。話しかけた日になんか血の気が多いやつは、喧嘩する事になる未来しか見えない、
その点、ジェイならそういう事がないだろうと思っていた。彼女自身も、タイムのファンクラブの会員であるらしく、その関係でそれなりに関係を作れるそうだ。
「いや私がムディナ君の為になりたいから勝手にやっているだけ」
そうか。嬉しい限りだ。ジェイと会えてよかった気がするな。俺はジェイが真横にいて、ジェイの歩幅に合わせるように歩いて訓練所に向かっていた。
そして辿り着き、俺は戦闘場に行き、ジェイは観戦席にて俺の戦いを見守るようだった。戦闘場には既にそこに立っている生徒会長が目の前にいた。
「ふむ――――待っていたぞ。主の彼女も観戦席にいるようだ。良い事だ」
ん? 俺に彼女なんか居ないはずだが。あ〜、その人勘違いしているだけか。ジェイはただの友達なのに、この人は色恋沙汰にしたいのかな。
「ジェイはただの友達ですよ。俺のような屑男に、彼女なんか出来る訳ないですよ」
そもそも俺とジェイは釣り合う気がしない。恐らくジェイもそういう風に考えているだろう。ただの友達だと。俺より性格も諸々いい男の方が、ジェイにとっても幸せだろう。
「それは俺の勘違いだったようだ。すまないな。しかし主の相方は、満更でもない様子だが……」
そう観戦席を見てみると、頬を赤く染めているジェイがいた。ジェイは一人でに首を横に振り、違うという意志を示す。どうやら生徒会長の言っている事は違うようだ。
「違うようですよ。生徒会長って案外と、それなりにロマンチストだったりしますか?」
あまり人の色恋沙汰に口を挟むのは良くない気がする。それは当人の問題であり、当人同士で発展させるべきだ。外部の人間は、見守る位で応援するのがいい事なのだ。それなのにこの生徒会長は本当に。
「いや俺も健全な男よ。あの女子がいいとか、好きだとかそう言う話をするのが、この歳の人間の特権のようなものだろう。それに色恋を題材にしている物語をよく嗜んでいるしな。あれは憂いものだよ。本当に」
完璧生徒会長の意外な趣味を聞いた気がする。うむ、俺が思っている以上に、生徒会長って普通なのかもしれないな。確かに生徒会長の言う事には一理あるかもな。
「へぇ〜、生徒会長ってそういうのも読むんですね。意外です」
「書物全般は読むがね。なんなら主に、何冊か貸そうか?」
俺自身はあまり本というのを読まないから、興味が湧いてこない。それにこの生徒会長の事だ。本を貸しただろう。生徒会に入れなんて言わない訳がない。むしろ恐らく、そういう目的があり話している気がする。
「いや俺はあまり本を読まないので。遠慮しておきます」
俺はキッパリと生徒会長の話を断った。この生徒会長が何を裏で考えているのか、怖くなっているからだ。
「俺の良心に拒否の意を示すか。まぁ〜、よかろう」
そう言われると、心が痛い気がする。完全に本好きを増やしたいから、言っている可能性も無いわけではないからだ。ただここは申し訳ないが、断った方が俺の身になるから仕方ない。
「ふむ、話に花を咲かせるのも悪くはないが、そろそろこっちで語り合う事にしよう」
生徒会長は腰に携さえている剣を抜く。その剣には魔力があり、特殊な力を感じた。どうやら魔剣の類いのようだ。ただの新入生に、魔剣という希少なものを使うとかマジかよ。
「そうですね。そもそもここに来たのは、それが目的ですから」
俺の腰に携さえている鉄のただの剣を抜き、生徒会長を真正面から向き合う。そして歴代生徒会長最強とされている騎士との戦いが始まろうとしていた。
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