八十五話 昼休憩です・・・
ハードな授業の内容も終わり、俺は背伸びする。初日でやっていい内容のレベルを普通に超えていたので、余裕で俺の頭はパンクしそうになっていた。
それを平然と書き進めているアリテリスさんは、余程頭が良いような気がする。
ちょうど昼時であり、昼休憩なので余裕で一時間くらいの休憩があった。お腹も空いてきたので、ちょうどよかった。
俺は机から立ち上がり、教室を後にしようとする。その背後には慌てて付いてきている女性がいた。
「ムディナ君も、学食行くんでしょ? 私も付いて行っていい?」
ジェイはどうやら余程、俺の事を気に入ってしまったようであった。別に俺もジェイは嫌いな訳でないが、そんなに好かれるような性格をしていないと自覚しているつもりではいる。
そんな俺なんかと一緒にいていいのかと、一抹の不安が俺の脳裏に過ぎる。突き放すのも可哀想だし、別に学食に行く位ならそんなに苦労はないか。
「別に構わないが、俺なんかと一緒にいていいのか?」
そんな俺の本音に近い言葉が、つい出てしまった。何故かは俺には分からなかった。ただ何処か不安になってしまっている自分がここにはいた。
「私はムディナ君と、一緒にいれて楽しいよ」
そう何の言葉の裏もなく、ただ純粋にそう言っていた。そこには笑顔があった。俺といれて、そんなに楽しいか。
そうか……………………それなら何も言う事はないな。
俺は口角が少し緩んだ気がした。
そして学食のある食堂に辿り着くと、やはり結構な人数が食堂には集まっていた。結構な人数が、食堂のカウンターに並んでいて恐らく俺達が注文するまで結構な時間が掛かってしまう事だろう。
ただ何も食べる物を持ってきていない為、並ばないといけない事態になっている。あまり俺は並ぶという行為が好きではない。というより確実に面倒臭いからである。
「結構、並んでいるね。これは注文しても、すぐに食べ切らないといけないね」
そう圧倒されるような人混みに対して、ジェイはそう言った。
この人数であるからして、注文してすぐさま出来上がるだろうが、それにしたって人数の多さが時間を遅くさせている。
そのすぐ横には購買部なるものがあり、パンなどがそこには並んでいた。学食並みの価格の安さでないにしろ、それなりに安かった。
こっちの方が時間を短縮出来るだろうが、ジェイがどうしたいか気にはなっていた。出来ればやっぱり学食の方がいいのだろうか。
「ジェイはやっぱり学食の方がいいか?」
ジェイは俺の質問に対して悩みながら、ようやく口が開く。
「私は別に購買部のパンとかでも全然いいよ。というかあまり人が多い所って苦手なんだよね…………」
ジェイは吐露するように、少し深刻そうにしていた。確かにジェイの顔色が食堂きてから、悪くなっている気がした。恐らくストレスにより、血色が悪くなっているのだろうか。
「それなら、購買部でパンとか買う事にしようか」
そう言いながら俺達は、購買部にてパンを選ぶことにした。どのようなパンを買おうかと悩んでいると、俺達に声を掛けてくる人がいた。
「これは珍しいな。新入生が購買部で飯を買うなんて」
そう同様にどのようなパンにしようかと悩んでいる男性が話しかけてきた。恐らく物珍しさに釣られて、ふと興味が出てきて話しかけてきたという感じなのだろう。
制服とバッチの形からして、俺たちより上級生の生徒なのは確かであった。この学院では制服の色とバッチの形で区別している。そしてこの形と色からして、三年生かなと推測した。
そして俺が違和感を感じた箇所があった。それは制服に、年代を分けるバッチとは別にその隣にもバッチが付いている事だった。
「新入生は学食に行って、それなりに高級で美味そうな安価で食べれる場所に行くものだと思っていたんだが。君達は違うようだ」
そう黒髪のそれなりに背丈の高い男は、何処か納得するように話しかけていた。
「もしかして生徒会の方ですか? それも生徒会長ですかね?」
そのバッチと形の奴を、制服に着用する事を許されているのは生徒会だけであった。それで生徒会長である役職の形状であった筈だ。生徒会長がまさか、こんな購買部でパンを買うなんて、というか会う事になるなんて信じられなかった。
「ほ〜。すぐさま観察して、俺の事を見破るか。それもまだ学院の事をあまり知らない新入生がね」
確か、名前はマーデラク・ロクダースだっけか。上級貴族にして、この現学院、最強の魔法騎士だっけか。歴代生徒会長の中でも、最強と名高い人物なんだっけか。
確かに彼がいる周囲の魔力濃度が異常に濃い。これは魔力がありすぎるあまり、体外に出て魔素に変換されているからだ。それを感じ取ると、少し息苦しさが出てくる。
「そうだ。君達、俺の生徒会に勧誘しようじゃないか。面白いからな」
そうマーデラクさんは、思い付いたように俺たちを生徒会に誘おうとした。生徒会長が直々に指名するなんて、この人はそれなりに俺達の資質を見ている可能性があるな。
ただの興味本位の感情任せなように見えるが、その奥には合理的な計算が為されているような気さえする。
「どうだ? 返事は?」
「いや、遠慮させていただきます」
生徒会なんて絶対、忙しいに決まっているからだ。俺は平凡に、普通に目立たずに生きたいだけなんだ。無難が、何事も平和になると俺は知っているからだ。
俺の安息は平和な、何も起こらない日常なんだから。
「ふむ、それなら決闘で俺が勝ったら、入れ。これは強制だ」
マーデラクさんはそう冷静に、無茶な話を提示してきた。決闘までして、一介の学生である俺達を勧誘したいのか。そんなに生徒会長のお眼鏡に叶うような人じゃないんだがな。
「俺なんて、ちっぽけなただの騎士ですよ。歴代最強騎士様が勧誘してくれるような人物じゃないですよ?」
俺はそう生徒会長に諦めるように言った。というか諦めて欲しい。俺は生徒会に入る予定なんて、一切ないんだから。諦めてください。お願いします。
「何を言うかと思えば、そんな話など関係はない。俺が気に入ったからだ。むしろ、決闘でなんて条件を提示までしているのだぞ。譲歩した方だ。それにタイムさんと戦って勝ったという、その実力、俺はそれを知りたいぞ。なぁ〜? ムディナ・アステーナ君」
この人、俺の名前まで知っていたのか。これは隠しようがないな。現役騎士に勝ったというのは、それなりに興味がそそられる内容なのは言うまでもないか。
俺が生徒会長だったら、同じように無理矢理に勧誘するだろう。
「俺の名前まで。そこまで言われちゃ、生徒会長の面目まで潰れてしまいますね。仕方ないです。その決闘、受けます」
むしろこの学院最強という噂が、どこまで真実なのか、知れるチャンスには変わりない。それならこの決闘は、きっと有意義で学べる代物だろう。
楽しみでさえいる自分は、どうやらそれなりに戦闘狂な気質があるのかもしれないな。
「うむ、食事が終わり次第、訓練所へと足を運ぶといい。俺はこの昼の時間なら、何十分でも待つ事にするよ」
そう言いながらパンを手に取り、カウンターへと足を運んでいった。
「何か、嵐のような人でしたね」
本当に嵐のような人だよ。というかあれは最早、災害レベルだよ。俺の平穏を完璧にぶっ壊す災害だよ。俺は心底、心の奥底で気が重くなっていた。
「嵐どころじゃないよ。あれは………………」
俺は深いため息を吐き、ようやく冷静に昼飯となるパンを選ぶ事にした。この飯を食べ終わったら、行かなきゃいけないと思うと辛くなってきた。
八十五話、最後まで読んでくれてありがとうございます
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