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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第四章 八年の歳月は短かったようで、長かったようです・・・
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八十四話 担当教員はおっとりマイペースさんのようです・・・

 そんな揉め事が起こってから数分は経過しただろうか。一悶着のあった教室という名の空間には静寂が満ちていた。完全に俺のせいであろうかと、自分に自責の念が渦巻いていた。







 いや先に突っかかってきて、喧嘩を売ってきたのは紛れもない悪質なタイムのファンクラブである。俺に一切の過失がある訳ではない。むしろ俺は被害者である。だから教室の空気が悪くなっているのは、俺のせいではない。







 始業のベルが鳴って、それなりに時間が過ぎていたが未だ教員がこの教室に現れてくれなかった。誰か職員室まで行って、担当教員を呼んできた方がいいんじゃないかという話にさえなっていた。






 それ程の時間が、この教室では流れていた。授業を早く始めて欲しい真面目さんが、自身の机から立ち上がろうとすると教室の扉が開く。






 分厚い教本を携えて、緑色の乱れている髪をそのままにしている眼鏡をかけている女性だった。その眼は気怠そうにしていて、今まで寝ていたんじゃないかと思ってしまう。






 その女性は、ゆったりとした歩幅でゆっくりと歩いて教壇に立つ。そして乱れている髪を不器用に束ねて、ずれている眼鏡を掛け直す。







「遅れてすみません。中庭のベンチで座っていたら、いつの間にか時間が過ぎていました」






 そんな風に、全く反省の色が見えない謝罪をした。恐らくこの教員は、自身のその行動を自分で仕方ないと完結してしまっていた。






「始業の時間から、十分以上経過していますよ。授業が遅れたら、どうするんですか?」





 率先して前の机に座っていた真面目ちゃんが、机から立ち上がったままその教員に抗議した。確かにこの教員のせいで、他の組より授業ペースが落ちるのはそれはそれで問題だろう。






 それは勿論理解が出来ない事ではないが、わざわざ初めて会った担当教員に言うのは胆力が凄まじいとは思う。






 しかしその教員はその生徒の発言に、機嫌を悪くしたのか、それとも違う理由があるのか分からないが表情を変える。そして次の瞬間、さっきまで教壇にいた筈なのに、その真面目ちゃんの目の前に瞬時に移動していた。






 真面目ちゃんはそれに驚愕して、反射的に椅子に座る。






「君〜、こことここが間違っているよ」





 その真面目ちゃんは教員が来るまでの間、予習を兼ねて教本の設問を解いていた。ていうか流石、一流の騎士魔術学院だな。あんな魔法を使える教員もいるんだな。





 恐らくこの教室にいる生徒の中で、俺だけがあの教員の移動速度、いや移動する瞬間を眼で追えていた。あの教員も一流の、魔法士であるのがよく分かる。






 その女性教員も、俺が眼で追えたのに気づいているのか。目線が合った。






 教員はゆったりとそのまま、黒板のチョークを手に取り魔法が発動する気配を感知する。






「龍天百花術・龍翼掴手(りゅうよくかくしゅ)






 俺は完全にその女性教員のチョークの速度の勢いを殺して、そのチョークを掴んで受け止める。その教員は珍しい物でも見たかのように、興味津々のある嬉々とした表情を浮かべた。






「へぇ〜、私の攻撃を意図も簡単に受け止めるんだ。確か、君はタイム君に勝った子だっけね。名前を聞いてもいいかな?」






 彼女が扱った魔法は、時間加速魔法である。自らの体感時間を加速させて、驚異的な速度を叩き出していた。普通なら見切り事すら、簡単ではない程の速さである。






 熟練の実力者でも、その驚異的な速度に翻弄されてしまうかもしれない。俺も割と本気で、受け止めてしまった。俺が掴んだチョークは、掴んだ反動で力んでしまったのかボロボロと床に崩れ落ちる。





「ムディナ・アステーナです。貴女のような人と出会えた事を、光栄に思います」






 時間魔法を使える存在は希少な部類である。この大陸でも、数人いればいい方な程である。それもあんな簡単に発動していて、それに自らの身体能力が慣れているのも驚異的だ。






「口が上手いな。いや、私の魔法が珍しいからか。ムディナくん、君の名前は覚えておこう」





 そう言いながら、チョークに魔法を使い完全に元に戻す。数秒経過したチョークの時間を戻して、直したのだろうと分かる。そして教団へと戻り、改めて息を大きく吸い、気持ちを整える。






「改めて自己紹介かな〜。私の名前は、アリテリス・スーマ。君達の三年くらいの付き合いになる担当教員だよ〜。宜しく頼みます〜」





 そう言いながら、頭を下げる。金髪の以下にもお嬢様のような女子生徒が、その名前に聞き覚えがあるのか驚いた。






「まさか天才魔法騎士であり、特異な時間魔法を巧みに扱うアリテリス・スーマさんですか!?」





 多分であるが、今までのイメージとは違うのんびりとした行動をしていたせいで気づかなかったのだろう。その女子生徒は、憧れていた人に出会えた喜びで嬉しくなっていた。





「君のような令嬢に、私の名前が知れ渡るのは嬉しいね。騎士名利として、民に名前が知られるのはそれはそれで、名誉な事だよ。国を守っているのが表れる」






 そう和かな笑顔を、その女子生徒に向けていた。おっとりとしていて、不真面目そうな女性であるが、そういう騎士道精神に関しては根っからの騎士資質なのだろうと分かる。






「君達のような若葉が何処まで延びるのか、私の出来る限りの支援はするが結局は心持ちだ。本気で騎士になりたいなら、自分がどんな騎士道を、生き道を歩むのか、自問自答を繰り返して欲しいな〜」






 そう三年間の中での課題のようなものを、早速提示してきた。確かに騎士になるには、自分がどんな騎士になるのか、それを追求しないといけないのか。






 俺はどんな騎士になりたいか。記憶を失う前の自分を取り戻す為に、この国に来たようなもんだしな。記憶を取り戻したら、自ずと見えてきそうだ。






「それが君達が三年間で、絶対決めなきゃいけない課題だよ。ちなみに私の騎士道は、限られた時間の中で、出来る限り頑張るだね。単純に思えるかもしれないけど、これが結構難しくてね」






 こののんびりマイペースのアリテリスさんらしい騎士道だ。限られた時間の中でか。俺は限られた時間の中で、何が出来るだろうか。







「とりあえずそういう訳でね。教本を開く前に、騎士の戦闘の基礎とは何か君達は分かるかな?」






 騎士としての、戦闘の基礎か。俺は気力操作も、魔法も扱えるからあれだけど。本来の一般騎士って、どんな戦闘をするのだろうか。






「簡単ですよ。剣術が基本です。それがなければ、騎士として最早成立しませんから」






 男子生徒が最初からわかっていたかのように、当然に答える。アリテリスさんはうんうんと頷き、当たってる事を示す。







「それ以外は?」





 アリテリスさんは、それ以外の戦いを提示してきた。確かに騎士たるもの、剣は無くてはならないものだ。しかしそれだけでは、実戦としてあまりにも無力であるからだ。






 複数の戦いがあって、複数の手段があって、初めて人は実戦で生き残れるのだから。







「騎士の心そのものである剣術、自らの肉体を活性化させる気流操作、騎士の肉体の動きは流れるものである身のこなし方である身動術、心を失っても、その身が残っている限り、守る為に戦い抜かなくてはいけない。その拳がその役割を兼ねるので、武術。総称して剣身武気、なんて呼ばれてたりするね」






 成程。その戦い方を、三年間学んで強くならなければいけないのか。中々、面白くなってきたな。






「私はその四つの戦術のうち、身動術と気流操作は得意ですが、剣術は人並み程度で、武術に関しては肌に合わないのかあまり得意ではありません。まっ、武術に関しては教本を頼りにして学んでいきますかね〜」





 そう楽観的になり、ようやく教本が開かれ、授業が開始した。

八十四話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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