七十五話 四十人よるバトルロワイヤルが開始しました・・・
十人ペアのグループが、四隅に集まり開始の合図を今か今かと待っていた。
しかしその前にタイムによる、ルール説明が入った。
「皆さんには十人ペアのグループで戦ってもらいます。こちらが指定した受験生と組んで貰いましてありがとうございます」
これはというと公平性を保つ為の措置である。勿論、強い奴同士で組まれたら、溜まったものじゃないからね。
だから受験生の実力差をなるべく一緒にしようと、指定するという理由である。
もう一つは、中遠距離の魔法士と完全近距離の騎士志望と十人なので、五分五分になるようにはなっている。これは戦略性の幅を広げる為の措置だ。完全近距離ばっかりだと、それはそれでやれる事が少なく負けてしまうからだ。
「皆様にはこれを着けていただけます」
そうタイムが指を鳴らすと、受験生の目の前に腕輪のようなものが現れる。
そこには騎士志望なら、甲冑の騎士の絵が描かれていたり、魔法士なら、よくある魔法のローブを着ている魔法士が描かれていた。そして色別なっていて、チームそれぞれに赤、青、緑、黄と別れていた。
「こちらには防護魔法が掛かっておりまして、その防護魔法が攻撃などにより、破損してしまった受験生は脱落と言った話です。ただ受験に落ちたという訳ではない為、そころら辺はご安心ください。あくまでこの第一次試験では、脱落といった話なので」
この防護魔法は安全性による措置である。騎士や魔法士を目指す前に、彼ら彼女らはまだ幼き成長ある若者だ。だからこそその未来を、こんな試験で失ってほしくない為の、安全措置だ。
受験生が皆、その腕輪を利き腕に装着する。装着すると、自身の周りに纏わりつく様に薄い膜が展開される。これがどうやら防護魔法なのだとすぐわかる。
「時間制限はありませんが、一チームになるまで戦って貰います。ただ開始までの間に、時間を設けますので作戦を練ってください」
この試験の目的は、顔も何も知らない人達とどこまでのチーム連携が出来るという部分がある。騎士、魔法士問わずに、単独行動というのは基本的にない。それが余程の実力者じゃない限りである。
だから最低二人は必ず任務などにより、同行をする事になる。それが例え、顔も知らない人間なんてよくある話だ。だから即興で、臨機応援に作戦立案をしないといけないという場面が必ず出てくる。それをこの試験で見定めるという訳である。
私も中々、この試験が厳しかったな。私、頭良くないから頭いい人がその時、作戦立案してくれたから助かったけど。
さてと仮面くんはどのチームにいるだろうか。あ〜青チームか。さてと仮面くんの実力を、確かめるには丁度いいな。
「この砂時計が落ちたら、開始します」
タイムがそう話すと、砂が落ち始める。これが落ちきったら、試験の始まりなのだと受験生は皆緊張感に苛まれる。あ〜本当に懐かしく感じるな。
私ももう二十代後半だと、少ししみじみに思ってしまう。
仮面くん、あまり話さないのか寡黙的だな。まぁ〜そういう感じなのはよく見てとれる。仮面なんて着けてる奴の大体は、寡黙的かそれか調子乗っている奴のどっちかだし。
作戦立案は別の奴に任せているようだ。ただ疑問に思っているのか、もどかしいような雰囲気を感じる。何か話さないと、減点対象だぞ。
「今年はどのチームが生き残ると思われる。我が国の騎士団長よ」
そんな風に私が一生懸命考えていると、隣から声が聞こえた。確か私の隣にいるのは、この国の最高権力者であり、王であるトーラス・エルド・アルスレム国王である。
やっぱり声を掛けてきたか。あまり国王なんだから静かに、将来ある人たちを見守ってくださいよ。本当に。本当はそう言いたいのだが、国王である手前、そんな事を言えずにいた。
ただ言ってもこの国王は、根っこが優しいから軽々しく受け流す事だろう。その国王の背後にいる存在がやばいんだよな。老人のような顔立ちであるが、その実力はこの国の誰もが勝つ事が難しい程の人物である。
「私の顔に何か?」
その老人は機嫌を悪くしたのか、威圧的に私にそう言った。私は冷や汗を浮かべて、瞬時に剣に手を掛ける。その老人も反射的に剣に手を掛ける。
「やめよ! アデルト。あれほど圧を飛ばすなと忠告しただろうて」
「フン」と、不機嫌そうにアデルトと呼ばれる老人はトーラス王の言葉を聞いて、剣に手をかけていたのを離す。私もそれを見た後、剣から手を離す。
「申し訳ない。我が付き人は、少々短気でありましてね」
だからこの国王を余計に苦手にさせるんだよな。この国王に付属して付いてくるのが、このバカ強い老人なんだから、いっつも不機嫌そうにしているから、余計に手で触れられないんだよな。
「いえ、私も悪いところはありますし」
実際、この老人は観察されている事をすぐさま察知したんだろう。視線にすらすぐ気づく辺り、歴戦のような感じが伝わってくる。一回くらい手合わせしたいくらいだが、不機嫌になるあまり殺されそうで怖いんだよね。
「それで話は戻すが、どのチームが勝つと思う? 我が国の騎士団長の意見を聞きたい」
「青チームかと」と私はすぐさま、そう断言した。あの仮面の存在が、おそらくイレギュラー的な存在なのだと確信する。
「それじゃ我は、其方を信じて青チームに目を向けようか」
国王はそう言い、顎に手を当てて、じっくりと青チームを観察し始めた。青チームの一人一人をじっくりと見渡していた。
「其方が気になるのは、あの仮面の受験生か?」
やっぱり言い当てやがった。この人の観察眼って結構、怖い所あるんだよね。どこまで見透かしているのか分からなくなる。だからこそ国王としての素養はあるんだろうけど。
「そうですね。あの仮面の受験生が、私は今気になっています」
「我が眼をして、素養を見抜けぬよな。アデルト、其方はどうだ? あの仮面の受験生を見てどう思う」
トーラス王がそう言うと、アデルトは初めて会場を凝視する。そして仮面の受験生を見た瞬間、特になんて事がないような雰囲気で、トーラス王に口を開く。
「あれはただ、剣術が上手いだけの騎士志望かと。オーラも、魔力も平凡といった所ですし。トーラス王が気にかける程の人物ではないかと」
ただ私は一瞬、アデルトの口角が上がったような感じがした。それは戦闘狂によくある、実力者を見た時の高揚感のようなものだと思った。
ただあのアデルトが、そんな訳ないかとすぐにその考えを捨てる。
そんな事を話していると、砂時計が落ち切る。どうやら時間になったようである。
「砂時計が落ち切りました。それでは実技試験、一次試験――――――開始!?」
タイムがそう宣言すると、最初に動いたのは赤のチームであった。騎士志望の人間が、前に出て他チームを潰そうという魂胆か。そして後方には、この騎士達を支援するように前もって魔法の準備が出来ているのか。
赤チームが最初に向かったのは緑チームであった。緑チームはそれをすぐに迫ってくると分かった時、防御に徹する。確かに悪い手段じゃないが、それだとジリ貧なって負けるぞ。
おそらく一斉に攻撃される事自体、想定外だったんだろう。普通なら背後からの不意打ちなどを警戒するはずだからだ。だが赤のチームは違っていた。騎士志望の近接メインのチームを作り、それで緑を攻め落とそうという訳だ。そして不意打ちを考えて、魔法士志望を後方に配備して、騎士達を支援する。
私達、騎士としても作戦でも良くやる手法である。赤チームは優秀よな。それに比べて青チームに動きはなかった。まるで何かを待っているかのように。ただ一つ気がかりなのがあった。それは騎士と魔法士を混合して、十人のチームを五人にさらに分割している点である。
こんな混戦状態の中、チームを分割なんて何を考えているんだよ。いや逆に人数が少なくなったから、動きやすくなったというべきか。
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