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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第四章 八年の歳月は短かったようで、長かったようです・・・
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七十三話 騎士魔術学校に行かなきゃいけなくなりました・・・

 アディがいなくなってから八年は経過していた。私こと、アライ・ルナクは二十六歳にもいつの間にかなっていた。そんな事を、青空のベンチで空を眺めながら懐かしく感じていた。







 フリーから聞いた時、耳を疑った。あんなに強いアディが負けるなんて信じられなかったからだ。だから死んだなんて、私は信じたくなかった。だから私はいつでもアディを待っていた。







 咥え煙草の味が、妙に美味しく感じた。煙草の灰の煙が、モクモクと空に上がっていく。無気力な私は、ただその煙を眼で追っていた。






 今にして思うのは、一時の夢かのような出来事のような気がしてしまう。あんなに短い時間だって言うのに、未だに脳裏にアディと過ごした日々がこびりついている。







 そんな風に黄昏ていると、ドタドタと土を踏み締めながら走ってくる音が聞こえる。私は無気力な眼のまま、走ってくる方向を見る。そこには黒髪の翡翠色の瞳をしている美男子が、鎧を着込んでいた。






「アライ姉さん、またここでサボっていた。行くよ」






 その美男子は、私の手を引っ張り無理やり立ち上がらせようとする。私はまだ行きたくないので、それに抵抗の意志を示す。まだ休憩していたいからだ。







「タイム、まだ休みたいよ〜」






 休憩、休みという名のサボりである。私の仕事が激務なので、まだこうやってサボっても問題ないでしょ。許されるでしょ。







 ちなみにこの男の名は、タイム・ルナク。血の繋がりはないが、一応体裁的に私の弟だ。と言っても本当の弟のように今は可愛がっているのだが。






「今日は騎士魔術学院での、試験の視察があるでしょ。そろそろ出ないとまずいよ」







 あぁ〜、予定にそんな事もあったな。わざわざ行く必要性を私は感じないんだが。どうせ騎士魔術学校なんて、試験の内容も学生も普通の見所しかないんだから。私が直々に行くのも、正直面倒くさい。







 私は眼を細めながら、そんな風にタイムに訴えかける。タイムはそんな私の表情を見て、溜息を吐きながら何か納得したように頷く。







「これがきちんと終わったら、今日の夕飯は姉さんの好きなビーフシチューにするよ」






「えっ!? まじ!? すぐ行くよ。タイム」







 何かタイムは悲しい眼のようなものをしていたが、気にしない。だってタイムのビーフシチューは格別なんだから。基本的に家事全般はタイムに任せっきりである。私に料理も洗濯も、そんな器用な事なんて無理無理。






 私はベンチから勢いよく立ち上がり、咥えていた煙草を火の魔法で消し炭にしてタイムについていくように歩いていった。



 騎士魔術学院というのは、騎士、魔法士を志すものが行く学院である。才能ある人間が数多く存在しており、才能ない人間はすぐさま落とされる地獄のような環境だ。しかし騎士魔術学院に通っていたというのだけで、だいぶステータスが高く騎士、魔法士になれないことはない。






 十五歳から二十二歳までいる事が出来、それで卒業出来るという事はそれすなわち騎士、魔法士のエリートコースを真っ直ぐ走る事が出来る。ただ十八の時点でも、中途卒業という形で卒業する事が出来る。






 タイムは二十歳であり、騎士団に所属していて二年前まで騎士魔術学院にいた。卒業資格はきちんとあり、中途卒業という形になっている。二十二歳までは普通に騎士魔術学院に通うもんだと思っていたが、中途卒業を決意していたようである。







 理由はというと金銭面的に、私にずっと世話になっているのが申し訳ないという話であった。なんてよく出来た弟なんだと、私は号泣した程である。それとは別にだが、実戦経験を多く積みたいというのも理由らしい。こっちが本命な気がするけど。





 タイムの実力ならそこらの騎士よりよっぽど強いし、なんなら騎士魔術学院での本格卒業したやつより強いまである。






「それで今年は見所ありそうな、受験生っているの?」






 私は馬車で揺られながら、一緒に乗っているタイムにそう言った。というのもタイムは今回、試験官として騎士魔術学院に行くのである。






 それは恒例行事のようなものであり、毎年実戦試験は現役の騎士、魔法士が受け持つという風になっているのである。






「俺が資料としてみた限り、あんまりですかね」






 この子のあんまりは、あまり参考にならないんだよね。というのも基準が、あのアディが主軸のようなものであるからだ。アディ以上の実力なんて、それこそ化け物の類だというのに。






「去年もそうだけど、何で俺が試験官なんてやらないといけないんだよ。そんな事するくらいなら、訓練している方がマシなんだが」






 それは仕方のない事である。騎士魔術学院の理事長から直々に頭下げられて、タイムを貸してほしいなんて言われたら、私断れる訳ないもん。断ったらそれこそ、色々と後々面倒くさい事になるし。





「あんたイケメンだし、強いしで騎士の手本のような感じだからじゃない。学生時代もそれなりに、モテてたんでしょ?」






 騎士団内でもタイムのモテっぷりは異常のようなものであった。好きな物は、好きなタイプはなんて、女性騎士でワイワイしているのはよく噂で聴こえてきた。






「俺なんてアディさんに比べたら、全然まだまだですよ」






 アディとなんて比べたら、騎士団の全員が全滅するようなものである。あれは異常の存在。普通の一塊の存在が、太刀打ち出来るような代物を超えているからだ。






 しかしタイムはアディを目標にして、今まで必死に頑張っている。それを否定するのはしたくなかったし、タイムの気持ちはよくわかるからだ。私もアディ並みにあの時、強かったらアディに頼られていただろうに。一緒にいれたから。






「それを言ったら、私も同じだよ。アディに未だに敵う気しないもん」






 馬車が止まり、どうやら目的地の騎士魔術学院に辿り着いたようだった。私が馬車のドアを開けると、待っていたかのように、学院の教師がそこにはいた。






「お待ちしておりました。トーラス国騎士団長、アライ・ルナク様」






 未だに呼び慣れていないから、背中がこそばゆいんだが。私なんかが、騎士団長なんて未だに信じられないからだ。私の実力なんてそこそこがいいところなのに。ズボラだし、面倒くさがり屋だから、騎士団長なんて立派な肩書きは、肩が凝ってしまうんだから。






「お招き頂き、ありがとうございます」






 私は笑顔でその教師に向かって手を延ばす。面倒臭いがきちんと、騎士団長としての対応をしないといけないな。






「いえいえこちらこそ、お誘い受けてくださりありがとうございます」






 この老人のような顔立ちに、それを感じさせない体幹の安定さ。武術を基本的に生業にしている騎士なのだと、すぐ分かった。






 手はがっしりとしていて、骨が硬いのがよく分かる。これは長年、拳をメインにして戦っているものでないとここまで頑丈にならないからだ。






「やはりすぐに分かりますか。その若さで、相手の実力を手を握っただけで把握するのはやはり騎士団長なのだと実感させられます」






 どうやらこの教師、わざわざ握手をして私の事を観察していたようだ。やっぱりこういう老人の騎士はあまり得意じゃないよ。どこまで見透かされているのが分からないからだ。






 それにしてもどうにも、相手の実力を把握するのが悪癖のようにすぐさましてしまうな。それこそアディのせいなんだけどさ。まず最初は相手の実力、内情をどこまで把握出来るのかというアディの基本的な戦術が、私にもそうさせるんだし。






「今回の案内を務めます、ワーテリナス・アスビィと申します。どうぞ、こちらへ」






 ワーテリナスさんというのが、この老人の名前のようである。ワーテリナスさんはそう学院内へと手を差し伸べた。





 はぁ〜面倒臭いなとそう思いながら、学院内へと入っていった。

七十三話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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