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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第三章 冒険者の仕事はしんどいようです・・・
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七十二話 死ぬ事になりました・・・

 俺は違和感を感じる。今まさに目の前の男が、消滅しようとしている筈なのにどうにも嫌な予感がする。






 あ〜………………そういう事か。






 俺は何かを納得した。俺は踏み込みを強くして、本気で一瞬にして男に近づく。俺は力強く、剣を斜め下から斬りあげる。その瞬間、剣がぶつかりあう甲高い音が鳴り響く。ただ土煙だけが、俺の周囲に舞っていた。これは俺の剣の威力を完全に、相殺したという事だ。







「いきなり何の言葉もなく、斬りかかるなよ。勇輔」





 俺の目の前にいたのは、黒髪の男性だった。その男は薄着のローブを羽織っていた。そして俺の剣を見切り一つで、完全に威力を理解して防いだのだった。






 そして俺の事をそう呼ぶ人物なんて、俺にとってこの世界での心当たりは一つだった。藤井勇士、俺の兄貴だった。兄貴が肩に背負っていたのは、俺が先程倒した男であった。






 あの破滅の天球というのは、対象を確実に滅するスキルである。つまり兄貴はスキルを無効化して、この男を助けたのだ。






「もう逃さない。兄貴を潰す」






 俺は冷徹に淡々と口にした。そこにはいつもの俺ではなかった。いや本来の俺というべきだった。俺の眼には光が無く、ただ目の前にいる対象だけを見つめていた。







「やっぱり勇輔は凄いな。まるで剣に心が乗っているかのような鋭さだ。実の兄貴に向ける眼じゃねぇな。殺意しか見えないな」







 兄貴はゲラゲラと笑いながら、俺との距離を取る。





 俺はその隙を見逃さずに、兄貴との距離を詰める。剣と剣が、ただぶつかり合う音だけが鳴った。逃げるなんて許されねぇよ。もう二度と俺の眼の前から、消える事なんて許されない。






「こんな兄弟、中々いないな。ただそうだな。本気で遊んでやるよ」






 俺と兄貴は息を整える。二人は一瞬にして、姿を消した。超龍活性呼法をお互い使い、身体能力リミッターを解き放つ。兄貴の剣は、銀色の神々しい気配を感じた。余程の業物で、何かの能力が付与されているだろう。






『藤道流・藤桜』






 俺は兄貴の剣を刃の側面で勢いよく弾き、ただ真正面から喉に向かい突きを繰り出す。






『藤道流・秋薙』






 兄貴は首を動かして、瞬時に見切って回避する。そこから態勢を低くしつつ、剣を横に薙ぎ払う。俺は回避が間に合わないと悟り、剣を膝蹴りでなんとか上に反らす。





「流石、勇輔。そういう判断ができる時点で、やっぱり強いな」







 いや結構ギリギリで攻撃を受け流したんですけど。しかし兄貴の眼は以前と余裕をであった。実際、剣術という面で才能に満ち溢れていたのは兄貴である。いや戦闘という代物自体が、兄貴の領域であった。







 さっきの打ち合いだって、俺があの技を使うのを完璧に勘で予測した上での攻撃であった。彼の動体視力も異常の一言だった。兄貴が一度、戦闘で集中すると彼以外の時間が限りなく遅くなる認識になるそうだ。







「兄貴だってやばいだろ。こんなじゃれあいしたい訳じゃない」






 あの時、俺は恐怖を感じた。膝蹴りでなんとか受け流したが、本来なら兄貴は、それすら予測していた筈だからだ。その先の行動も行える筈だった。






「別に実の弟に殺意持つ程、俺も人を辞めてないよ。ただそうだな。お前の本気が見てみたくなった」






 兄貴は男を地面に寝かせて、剣を強く構える。兄貴の表情が変わり、無表情になる、眼前の敵としての俺を見据えているようだった。







 俺は剣を構えると同時に、兄貴は既に目の前にいた。それのさっきの速度より、数十倍早い速度での剣速でもあった。それは音を置き去りにして、その剣が光の速度を生む。






 俺はただ静かに剣を待った。それは兄貴の剣を寸前まで引きつけるような自殺する行動であった。兄貴の剣が、俺の胴体を貫いたような違和感を感じたがそれは違った。





 そこには何も無く、ただ空振りしたに終わった。






 ――――――――明鏡止水――――――――『簪』







 俺は兄貴の剣を寸前にて軸足をずらして躱して、ただ俺は真下から斬りあげる。これで流石に兄貴も攻撃が当たるだろ。俺がそう安心したのも束の間であった。兄貴は持ち手を変えて、剣を上向きから下向きに剣を持ち変える。






 兄貴は躊躇なく剣を俺の胴体へと刺した。俺の脇腹から血が噴き出る。血が噴き出たせいで、暖かく感じてしまう。眼が霞み、顔の血色が悪くなる。





 あれ、ストックが消費されない。あれ、これやばくね。ガチで死んじまうかもしれない。






「俺の仲間を二人もやったんだ。これくらいの報いは受けろ」






 兄貴は剣を俺の脇腹から引き抜き、剣に付いた血を振り払う。俺は足をまともに立ってられなくなり、倒れてしまう。どうやら兄貴の力は、何らかの条件付きのスキル無効化、いや使用不能か。






 人間ってこんな簡単に死ぬんだな。確かにこんな殺伐としている世界で、ここまで生きてきたのが奇跡のようなものか。俺は掠れた笑いを浮かべる。






「スキルを使用出来なくなった途端、これか。呆気ないな。俺の長年の親友を二人もやったからな。お前はここで死ね。やっとまた会えるからよ」






 おそらく俺は普通に死ぬんだろう。魂そのものを斬ったような気がする。転移者、転生者特典の死ねない存在にはなれないのだろう。







「何でそんな苦しそうな顔をしているんだよ。兄貴」







 兄貴は俺の顔を見るように屈んでいた。兄貴の瞳から雫が一滴溢れて、俺の顔に当たる。その顔は悲痛に満ちていていた。そんなに苦しかったなら、俺を殺すの止めろよな。






「兄貴がこの世界で苦しんだのは分かった。だからもうそんな顔、するなよな」








 俺は兄貴の頬に手を当てて、兄貴の涙を拭う。兄貴がもう苦しむ必要なんて、この世界ではないんだから。だからそんな顔をするなよ。







「じゃあな。兄貴。元気でいてくれよ」






 俺の体が力が無くなる。ただ生気のない眼へと変わった。視界が無くなり、真っ暗なのが俺の眼を支配していた。はは、呆気なく終わったな。俺の人生。






 そうだな。これだけ何とかしないと。





 フリー、俺との主契約は最後だ。これからはアライが次期の主従関係になれ。






 フリーは何も言わなかった。ただ頷いたのか、そのまま立ち去った。そうだ。何も言う必要はない。言う事が烏滸がましいってものだ。





 ただ人間、そんなもんだ。こんな簡単に誰でも死ぬんだから。だからフリーはそのまま、前に進めよな。アライはそのまま、生きてくれよ。タイム、短い時間だけどありがとな。






 何の意味も無く、死んだな。笑うな。笑うしかないな。







 あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。





 クソが!? 余裕ぶっ込んだ結果だな。判断ミスにも程がある。ただスキルしか、今の俺は攻撃手段しかない現状ではどうする事もできなかったのは事実である。






 こんな程度じゃ、そのうち大切な仲間が死んでしまうのも事実である。






 兄貴の仲間一人やるのに、あんなに苦労してちゃ結局ジリ貧になるのは目に見えていたしな。




 まぁ〜もういいや。どうせ死ぬんだし、何か考えるのも面倒くさい。天国ってどんな感じなんだろうか。いやこの世界だから、俺のいた世界のあの世とは別になるのか。





 それはそれで楽しみだな。俺は期待感に胸を膨らませながら、意識を手放した。

七十二話、最後まで読んでくれてありがとうございます



これにて第三章は終わります。なんか中途半端に、主人公が死んだなみたいに思われるかもしれませんが、大丈夫です。物語はまだ、きちんと続きますのでご安心ください。




それでは次章のタイトルは、『第四章 八年の歳月は短かったようで長かったようです・・・』



少しでも面白いと感じたら、いいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。

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