六十六話 第一の敵と遭遇しました・・・
俺達は熱気溢れる洞窟を、ただひたすら真っ直ぐに進んでいた。
グツグツと煮えたぎるマグマに、俺は恐怖を覚えていた。
「それにしてもなんかここ、魔素っていうのが多い気がするんだが」
熱気と共に魔素と呼ばれる代物が、渦巻いている気がした。それも強大な力の奔流が、怒涛と俺の体に押し寄せている。
「地脈そのものですからね。普通の人間なら、この洞窟入った瞬間に、耐えきれずに即死しますよ」
地脈とはそんなに危ないやつなんだな。確かに少し息が詰まりそうな感覚にはなっているが。
そもそも地脈というのはどのようなものなのだろうか。
「地脈とは星の生命線そのものです。膨大な魔素と生命力が星の内部に循環していて、それが我々の住んでいる外殻に流れていっています。つまり原初の星が生命を創り出した創世の原因です」
魔素とは別に、何か生命の流れのようなものを感じるのはそういう事か。
それにしてもそんな危険地帯のような場所に、よく組織の拠点を作ろうと考えたな。
いや対処出来れば、絶好の隠れ家になるからか。
「そう考えるとなんかこの場所が神秘的に感じるな」
俺はボソッと小さな声でそう言った。この星で生命が生まれた理由と原因が、この溢れるばかりの生命力と魔素が充満しているこの場所なんだと思うと、より神秘的に感じてしまった
「主だから平気で歩いているだけで、膨大な魔素と生命力は生物には完全に害にしかならないのですよ」
何で逆に俺は平気なんだよ。普通の一般人と俺とは何が違うのか。確かにこんな極限とした環境に、生物がいる事、事態おかしいか。
普通だったら火山の火口の中にいるようなものである。それは明らかに普通にいる俺の方が異常という話だ。温度も、空気も、膨大な魔素や生命力も、それらが生物がいる事を拒絶してかのような気がした。
「主は何からの恩寵を受けているのです。それは俺にも解析不可の途轍もないほど大きな恩寵です」
恩寵とは一体、なんなんだ。その恩寵というのが、俺をこの環境下で生きていけるのか。
「恩寵、もしくは加護と呼ばれるものです。神のような存在や誰かと関わりがあり、死ぬ間際に主を護りたいと思った人物により、主に害ある出来事から護られるようになっています。この極限環境下の中、息が出来るのも、生きていられるのもそういう事です」
つまり誰かしらが護ってくれているということか。俺には心当たりも何もないんだが。俺の交友関係なんて、指で数えれない位はあるけど。うん、指一本も数えれない位の交友関係です。
俺は少し白い眼をしながら、気分が悪くなってしまった。
「俺がいるじゃないですか。それに今はアライ様に、タイム様もいますし」
確かに今は指で三本くらいは数える位には、俺の周りには人がいるのか。そう考えるとこの異世界も悪くないかもしれないな。
「べっべっべっべべ別に寂しいとか悲しいとか考えていないからな」
うん、別にあっちの世界でも、ぼっちで悲しいとか思った事なんてないからな。一人の方が、誰かに気を使わなくてもいいし、頭フル回転させて会話という事もしなくていいし。
人間、楽な方に行くのは仕方ないよね。楽だから友達を作らなかっただけだ。その気になれば、友達作れていたんだからな。
「心拍数の急上昇を確認。ここでは素直になってもいいのではないですか?」
こいつ、そういう時だけ根拠ある言葉を話しやがって。
「まぁ〜なんだ。お前らと会えて、感謝はしているさ」
そんな事を照れ臭く言いながら、マグマ煮えたぎる洞窟を歩き続けていた。
それからしばらくは歩いただろうか。そろそろ人っ子一人くらいは、会いたいものだ。
ここが拠点なのは確定している筈なのに、一向にその気配がないんだが。ただ人が歩いてきた痕跡は、そこら中にあるという事は必ずこの先にいるのは分かる。
そんな事を思っていたからだろうか。奥から足音のようなものが聞こえた。槍を背中に背負っている赤髪の琥珀色の目をしている男性がそこにはいた。
「侵入者が来たって、雇い主から聞いていたが。こんな子供かよ」
こいつも見た目で、人の強さを判断する系の奴か。それなら楽勝な気がする。
しかしその男性は、よくよく俺を観察していた。
「いやあんた、強そうだな。さっきの言葉は訂正する」
どうやらこの男は、きちんとした実力を把握出来る程の実力者か。
少し手強そうな相手だなと、俺は拳を握りながら冷や汗を垂らす。
男は期待感に胸を膨らませているのか、表情が生き生きとしていた。その男は背中に背負っている、槍を構える。体は前の方に傾いていて、槍の矛先が下になっていた。
「手合わせ願おう。俺の名前はデルト。貴公の名を聞いてもいいか?」
男は真っ直ぐに俺の顔を見ながら、名前を聞いてきた。この武人気質の人間が、何であんな悪意の塊のような所業を容認しているのだろうか。それに何でそんな奴に、手を貸しているのか俺には理解が出来なかった。
「アディ・ブレードだ。あんたも強そうだな」
その槍の矛先は、使い込まれているかのようなのが見てとれる。それなのに手入れがしっかりとしていて、切れ味が一切落ちてはいない。
その槍には気迫のようなものが乗っかっている錯覚を覚える。まるで全神経を槍の一撃、一撃を意識しているような感じがした。それは長年、槍という武器を使い続けないと出来ないような芸当だった。
俺は息を飲みながら、静かに剣を抜く。緊迫とした極限環境の中、俺達は動かなかった。おそらくどちらか動いた瞬間、戦闘は開始するだろう。
まずデルトが瞬足の速度で、槍の間合いまで一気に詰められてしまった。槍がただ真っ直ぐに俺に向かう。俺は剣で槍を上に弾き、デルトの態勢を崩す。
今度は俺の剣の間合いまで近づく。俺はただ剣を縦に振り下ろす。しかしそれは力の篭ってないただ純粋な剣の重みだけを利用した脱力の振り下ろしだった。それが途轍もないほどの速度を生む。
男は槍の持ち手の側面を利用して、俺の剣を受け流して、槍を横に薙ぎ払う。俺は地を蹴り、上空へと飛び回避する。男はそれを読んでいたか、薙ぎ払った槍の勢いを利用して、自身の体をそのまま一回転して持ち手を変える。そして上空へと飛んだ俺を槍が襲う。
「嘘だろうが!?」
その槍を俺は右脚で蹴り、なんとか槍の攻撃を受け流した。デルトは驚愕した表情を浮かべて、俺の蹴りの勢いで態勢を崩れる。俺はそのまま地を蹴り、バックステップで距離を取る。
「あんたみたいな奴が、なんであんなものを許せるんだ?」
俺は気になり、言葉を交わした。デルトは怪訝な顔をしてしまう。おそらく戦闘時なのに、普通に会話をしようとしていたからだろう。余裕あるその行動に、デルトはつまらないと言った顔でこう言った。
「私も確かにあれは悪なのだと思います。人の道を外れているのは、理解出来ています。だからなんだというのです。悪と正義の境界線など、曖昧なものです。私はあの男から用心棒として、金を貰っていますからね。それだけで手を貸すのは充分ですよ」
デルトは苛立ち混じりに、瞬時に距離を詰めてきた。さっきより数段早い速度で、槍が俺に飛び出す。俺は槍を何とか引き付け、ギリギリの所で身を最小限の動きで躱す。そのまま俺は槍を掴んで、地に下ろして槍を起点に飛び、デルトの顔に右脚の飛び蹴りが当たる。
「確かに悪も正義も何ら大差がないな。そこは俺も同意する。ただな、あぁなってしまった人達は泣いてた。それだけで俺が戦う理由にはなる。消えてしまった奴が、報われないだろうが!?」
デルトはよろけながら、槍から手を離す。俺は槍を手に持ち、投槍の要領でデルトの目の前の地面に突き刺した。
「来いよ――こっからは殺し合いだ」
俺は右手で来いと挑発した。俺の表情はおそらく真面目な感じになっている事だろうか。
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