六十五話 根城は思ったより広いようです・・・
それにしてもこんな綺麗な水晶を取って、後で売ろうかな。結構高値で売れそうだな。ていうかこの水晶ってそもそもなんなんだよ。なんか魔力が渦巻いている風に感じるんだけど。
俺は急激に温度が下がったのを、肌で感じながらそんな事を思った。なんか洞窟に入ってから、寒くなってきたな。いや、洞窟ってそんなもんか。
「あれは魔水晶と言い、濃度が高い同属性の魔素が結晶化したものです。空気が冷たくなったのも、水属性の魔水晶が影響しています」
あ〜だから空気が一変したのね。水属性という事は、地下水でも流れているのだろうか。それにしてもこの水晶って回収出来るのかな。
「オススメは致しません。魔素濃度が高いという事は、地脈の湧出地点である事が多く、ここも例に漏れず湧出地点です。一つ取るだけでも、専門的な作業が必要です。魔水晶を何の作業もなく、普通に採掘の要領で取った場合、魔素が大規模に放出して洞窟だけでなく、上の町にも影響が出る可能性があります」
余程取るのに苦労するのね。俺は残念そうな顔をしながら、階段を降り続けた。
それからまた暫くは降りただろうか。五百段位は確実に降りていた。正確に数えるのも馬鹿馬鹿しいが、フリーがきちんとカウントはしてくれていた。
水色の洞窟地帯を抜けたのか、今度は紅色の魔水晶が辺り一面に広がっていてやっと階段を降りきった。ここまで大規模な階段を、人工的に作っていたという事はそれなりの年月は確実に経過している筈だ。それか元々、何か遺跡を再利用していたのかもしれないか。
紅色の魔水晶という事は、火属性とかだろうか。さっきの寒々とした空気から、熱気が押し寄せてくるような熱波が辺りを包み込んでいた。
洞窟は広大で、辺りにはマグマがそこら中に流れていた。何の保護手段もなかったら、俺の肉体は簡単に溶けていそうだ。そこら辺はやはり、フリーがきちんと保護の魔法を掛けてくれていた。本当に助かる限りだ。
少し歩くと、異変を俺は感じる。マグマの中から、尾には針のようなものがあり、前傾姿勢で両手には鋏のようなものが携えていた。それは蠍というしかないような生物であるが、不自然なのが背中と呼ばれる所の甲殻に歪んだ人の顔のようなものが見えた事だ。
その人の顔が、小さく「グォォ」という唸り声のようなものが聞こえた。キミが悪いというしかないような生物だった。その人の顔は、俺が来た事を察すると苦悶の表情を浮かべながら、マグマから這い上がってきた。
見渡す限り、一三匹位はいるだろうか。それにしても普通の魔物とは違う気がするな。
「あれってなんだ? フリー」
俺は怒りを募らせながら、フリーに問いかけた。俺の予想外であってほしい事であるが、当たったら俺は許せなくなってしまう。
「人工的に作られた混合魔物です。おそらく蠍の魔物をベースにして、人の魂を混ぜ合わせているのでしょう。それが現れたのが、背中に見える人の顔です」
そこには男性女性、性別を問わず、蠍の背中は呻き声をあげていた。そこには「タスケテ」という声も聞こえてきた。これを作った奴は、性根が腐っているとしか言いようがないな。
俺の殺意が膨れ上がっている気がした。これを作った奴は、とりあえず死ななきゃいけない気がする。
「死者の肉体と魂を利用しています。つまりそれを作成した人物は、死者を弄ぶ類の存在のようです」
フリーは淡々と俺に解説してくれた。フリーもロボットとはいえ、感情面はきちんとある。おそらくこの惨状を見て、何も思っていない訳もないだろう。
しかしフリーは俺に全信頼を置いてくれている。それはフリー自身は、きちんと冷静にサポートを行い、鬱憤は全て俺が晴らしてくれるという信頼の表れであった。
「なぁ、救う方法はないか?」
俺は都合の良いような質問をフリーにしてしまった。俺はその言葉を言った後、言うべきじゃなかったと後悔してしまう。しかしそんな都合の良い話を求めてしまうのは、仕方ない気がする。
「主、申し訳ないですが……救済方法はありません。彼等は元々死者であり、肉体と魂を混ぜ合わせて造られた存在です」
フリーは心底悲痛な面持ちで、俺に言った。分かりきっていた事だ。無理に高望みした所で、何も変わらないと。
「分かった。ありがとう――フリー」
俺はゆっくりと剣を引き抜く。それが俺が覚悟を決めるまでの時間であるかのように。ただ静かに剣が、刃が抜かれる。俺は一歩一歩、蠍の集団に近づく。
蠍は飛び上がり、一気に俺との距離を詰める。尾にある針から見るからに毒と分かる液体を、俺に飛ばす。俺は最小限のの動きで、それを躱して一気に剣の間合いまで詰める。
「すまんな」と俺はただその一言だけを、口にした。これしか出来ない俺を許してくれ。
五の型・月影――――俺は一気に踏み込み、蠍を横に真っ二つに斬り裂く。その背中の顔は、何処か安堵しているかのような感じがして、それは力が尽きた。
魂がずっと、それに閉じ込められていたなんて地獄以外の何者でもないからな。
他の蠍達は、鋭利な鋏をカチカチと鳴らしながら鋏の間からマグマのようなものを生成する。それを蠍達は鋏を振り下ろして、マグマの斬撃のようなものが、俺に無数に飛ぶ。
九の型・満月――俺は左脚を軸にして、剣と共に一回転する。よくある回転斬りという奴である。それがマグマの斬撃を全て消し去り、それを放った蠍達も切り裂き、緑色と赤色の入り混じった血を噴き出し力尽きた。
残り五匹くらいか。
十の型・流れ五月――俺は一気に踏み込み、地を蹴る。まず一匹目に瞬時に近づき、剣を縦に振るい、最小限て絶命させた。二匹目は、ただ通り過ぎるかのように、剣をただ真横に斬り裂き、真っ二つにする。三匹目は流石に野生の勘によるものなのか、反応を見せて飛びかかる。しかし俺は飛び上がり、ただ一直線に蠍の背中を剣で貫く。四匹目、五匹目は割と近くにいたので、剣を真横に振り、飛ぶ斬撃となり最後の二匹を絶命させた。
胸糞悪い魔物だったな。そんな魔物を作った外道は始末しないといけないな。
「魔力解析終了しました。探知開始――――――見つけました。この洞窟の奥にいます」
要するにこの洞窟の奥に行けば、この外道野郎と会えるのか。目的は根城の探索と殲滅だから、ちょうど良いものだな。フリーは予め、この洞窟の内部構造を把握しているので迷う事もなく、フリーの案内の元、奥に行ける。
「ていうかこの魔物の魔力を解析したの?」
「はい、混合魔物には、主となる魔力が込められています。これは反抗させない為の措置であり、操作、命令させる為です」
完全に人を人として見てないクソ野郎が行なっている所業だな。魔物と合わせたら、それはもう操り人形ですってか。
俺は殺意を抱いたまま、ただ洞窟の奥へとまた歩み出した。
六十五話、最後まで読んでくれてありがとうございます
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