六十二話 先の話はなんでしょうか・・・
俺はマイク・マーデイルという一人の冒険者の結末を見届けた。そして役目が終わったかのように、結界は、上からだんだんと霧散して消滅していく。
そして冒険者ギルドにいる他の冒険者は、突如現れた俺達に驚く。
ギルド中が大騒ぎしている中、アディオさんと隣には筋骨隆々の大柄の、巨大な剣を背に掲げている男性がいた。
その男性に俺は思わず、一歩後方に下がってしまった。おそらく彼の圧力が、他とは完全に別格だからこそであった。
まるで一つの大きな大地のような、山のような、そんな広大で、巨大な、一つの生物としてではなく、そこにある存在として、俺は恐れを成してしまった。
「アディ・ブレードは極秘任務のより、稀代の犯罪者組織・イコーリティの内通者であるマイク・マーデイルを特一級犯罪者として処罰した。これによる、減点は無く、街からの報酬が発生します。なので、他の冒険者は何も心配する事はございません」
アディオさんは、ギルド中に聞こえるような大声で辺りに響かせる。
それを聞いた冒険者達は納得するように、マイクに関係のない者は日常に回帰する。
関係のあるものは近寄るように、マイクの元に来る。
「なんだ。結構、お前――慕われていたじゃん」
マイクの亡骸の周りには、優に数十人はいた。それはマイクという人物が、このギルドにて如何に慕われていたのかを表していた。
彼ら彼女らはマイクの元にて、この世界での弔いの言葉を発していて、涙を流している人物さえいた。
なんかこんなにも慕われていたなら、俺……まるっきり悪者扱いになりそうなんだけど。
しかしそこは根っからの冒険者なのだろうか。皆皆、俺に対しての恨み言は発してはいなかった。マイクは、犯罪者となってしまったのは事実であるからして冒険者達は何も俺に口には出来ないのだろう。
ギルド内でこんな事をしたなら、騒動に発展するのは考えなくても分かる事である。ギルド内で混乱が巻き起こされるのは、アディオさんも分かっていた。
それはアディオさんも理解していた事だろう。なら何故、この建物内でその騒動を起こしたかというとアディオさんも一介のベテラン冒険者である。自らの感情だったりより、実益を取るのが冒険者の本質であるらしい。それでアディオさんは、逆にこの騒動を起こして、犯罪者組織の内通者を一掃しようと考えている。この騒動を起こした事で、内通者を炙り出し、そのうちアディ・ブレードに暗殺されると恐怖させるという目論見があるらしい。
流石、アディオさん。鬼畜を超えて、最早外道の域にいるのではないだろうか。
それはA級の極一部の冒険者には、即通達しており、これにより怪しい人物は内通者としての情報があった場合、処罰される事になっている。
このアディオさんの手際の良さには、開いた口が塞がらない程である。
さてと俺らはアディオさんの案内の元、ギルドマスター室という所に案内された。
ギルドマスターという事は、要するにこの冒険者ギルドのリーダー兼親玉みたいなものなのだろう。会ったことがないから、どんな人物なのか興味が出てくる。
アディオさんが三回ほどノックした後、「失礼します」と言い、扉を開ける。
そこには先程見た巨大な男性が、奥の窓側にある机に座っていた。
「こちら、アディ・ブレードとアライ・ルナク、そしてタイムです」
そうアディオさんが代表して、俺たちの名前を言ってくれた。
その男性の眼光が、俺に向く。まるで頂点捕食者のような眼をしていた。
その左眼には何かに抉られたような大きな傷が頬にまで達していて、眼を開けているのが不思議な程であった。
「主達が、あの犯罪者組織・イコーリティの内通者を見つけた者どもか。ご苦労であった」
彼がギルドマスターである事がすぐ分かった。それにこの部屋にいる人物の中で、はっきり確実に言って一番の実力者であるという事も分かる。
「俺の名前は、アグリートゥ・ネストだ。宜しく。新しき産の雛達よ」
なんか特殊な言葉を発する人だな。俺の事をじっと隅から隅まで見つめていた。
ネストさんの机の横には、あの背負っていた大剣が立て掛けられていた。この大剣の強度や鋭さから見ると、一級品の代物であった。
それになんか特殊な付与がされている。
俺が言葉を発するように口が開いた瞬間、剣と剣がぶつかり合う音が鳴り出した。
俺は反射的に剣を抜き、ネストさんの大剣を受け止める。膂力がありすぎているのか、押し負けてしまいそうになるが、なんとか踏ん張った。
遅れて衝撃が、部屋全体、いや建物全体が軋むように辺りに広がった。
これはS級冒険者の中でも、トップクラスの実力者ではないかと俺は推測した。
「やはり受け止めるかよ!? やばいな!? お前!?」
この眼、表情は嬉々として興奮していた。こういうガチで、戦闘狂な奴って苦手なんだよな。
「もういっちょ!?」とその大剣を横に薙ぎ払う。流石にスキルを使わないとまずいか。いや剣術でまだどうにかなる範囲内か。
四の型・月見・反撃。その大剣の攻撃を俺は剣で受け流す。その大剣の威力を利用して、剣がネストさんに向かう。その剣は最早、今のこの部屋にいる誰にも視認する事など出来ない速さでの剣戟であった。
俺はネストさんの喉元に剣を突きつける形になった。
「やっぱり無理だな。勝てる気がしねぇよ。とんでもねぇ新人が入っちまったな!?」
豪快な笑いが部屋に響き渡る。俺以外の人達は、それで耳を塞ぐ。余程の声量なんだろう。
「それにおめぇ、最初っから攻撃される事が分かってて俺が攻撃する直前に、この建物が壊れねぇように結界を張っていたな」
それは俺がした訳でもなく、フリーが自発的に行なった行動だ。俺は一切、関与していない。
流石、フリーと言った所だ。フリーがいふのといないのとでは、おそらく色々と駄目になりそうだ。
「貴方が本気で、俺の事を殺す気なら話が変わっていましたよ」
俺を試すようにあの速さを出していたのだ。つまりあれよりよっぽど速くなるという事だ。それに加減しているのか、力があまり籠もっていなかったように感じる。
それに俺はあの速さでも、コンマレベルで反応が遅れた。その時点で俺は対応出来ずに、致命傷を負っていた事だろう。
「主だって、本気ではなかっただろうて」
確かに、俺もスキルの使用や本気で剣術を使っていた訳でもない。
しかしそれに気づく時点で、この人侮れない気がするんだが。
ネストさんは機嫌が良くなったのか、いい表情で椅子に腰掛ける。
「とりあえず、すまない。試すとはいえ、いきなり攻撃してしまったからな」
ネストさんは、そう言いながら頭を下げる。そういう良識をきちんと持ち合わせているんだな。
いや良識ある奴は、いきなり普通の部屋で大剣を振り回したりはしないんだがな。
「さて主達を呼んだのは、他でもない。巨大で悪辣な犯罪者組織・イコーリティについてだ」
何か色々と面倒くさそうな話に、なってしまいそうだな。
ただ俺はまだあまり、その犯罪者組織についての情報を知らない。
ギルドマスターというこの冒険者ギルドの長という事もあり、他の末端とはまた違った情報を持っている可能性が極めて高い。
今のうちに色々と聞いといた方が、後々の為になる事だろう。
「先の話になってしまうが、我々冒険者はイコーリティを極めて危険な組織だと、重視している。だからこそ冒険者組合で通達があったのは、彼らの拠点を、本拠地を見つける事。それと見つかった場合には、実力があり、信頼がある冒険者を総出で国中で集めて、一網打尽にするという話があってな」
あっなんとなく話は理解出来たし、その先で頼まれそうな事も予想出来た。
「そこで主達にはその前者である、本拠地を見つけてほしい」
だと思ったよ。しかしそうなると、冒険者としての依頼を選択するというよりかは、ギルドマスターの直々の依頼になるのか。
「ただこれはあくまでも、頭の片隅くらいに置いて欲しい。普段はいつも通り、依頼を選んで受注していい。ただイコーリティと接触した場合、拠点を見つける事が最重要になると考えてくれればいい」
つまりイコーリティと接触した場合には、拠点を見つける事が最優先にしろって話ね。
それくらいなら別に構わないか。
「了解しました。この話、承りました」
確かにあの組織は、後々俺にも害になりそうな代物だしな。それにタイムにも約束しちまったからな。その組織を、一緒に潰してやるって言っちまったしな。
冒険者としての依頼を受ける傍ら、情報収集をしようかね。
六十二話、最後まで読んでくれてありがとうございます
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