五十九話 タチが悪いロクデナシがいました・・・
人間には二種類の性質が存在する。それはタチがいいロクデナシとタチが悪いロクデナシだ。勿論俺は前者のタチがいいロクデナシの部類だ。人間というのは、聖人君子でもない限り、誰も彼もロクデナシである。ここで言うロクデナシとは決して悪いようには言ってない。それが人間の本質として俺が言っているだけである。
その聖人君子も一皮剥ければ、いつの間にかロクデナシへと転じる。そもそも聖人君子、または聖女というの定義が疑問に感じる。聖女、聖人の定義とは奇跡を起こした事だと言う。俺も奇跡を起こしてみたいものだ。
ただ誰しもそんな人間がいる訳がない。例えばの話であるが、友達がとてつもない悪事を働きました。そして腕を斬り落とす代わりに許してやろうと言われたら、俺だったら逃げるという選択を必ずする。言葉として言う奴は、腕を斬り落としてまで許しを得ますという偽善者もいる事なのだろう。ただ本当の聖人というのは、そのような状況の中でも迷わずにタイムラグ無しで自分を犠牲にすると俺は考える。
おそらく大半の人間は、自分の可愛さの前で俺と同じ選択をする事になる。それが人間の本質であり、ロクデナさである。そして逃走した人間の殆どはこう考える。『自分は悪くない。あくまであいつが悪い事をしなければよかっただけだと』それが逃げる事を自分で正当化させ、自己暗示させ、他者に罪を擦りつける行為に他ならない。
確かにそういう状況だった場合、逃げるという選択肢を攻める人間はいないだろう。だって誰にも迷惑が掛かっていないのだ。あくまでそうなってしまったのは、悪事を働いた人物なのだから。
それが俺の定義する『タチがいいロクデナシ』だ。さて、タチが悪いロクデナシとはなんだろうか。それは勿論、決まっていた。それは他者に迷惑をかける他者を一切顧みない悪い人間である。
さてと長くなってしまったが、そんなタチが悪いロクデナシがテーブルを囲みながら、目の前に座っていた。両脇には俺の仲間である、フリー、アライ、タイムがいた。そして目の前にいるその男性は、俺がこの冒険者ギルドに来て、速攻壁にめり込ませたタチが悪いロクデナシくんである。
さてと名前はなんだっただろうか。思い出せないな。こんなロクデナシの名前を思い出す必要性もないだろう。
「何の用だよ。新人くん」
その男性は、気が張った物言いをしているが完全に俺に怯えているのが分かる。それもそうか。大衆の面前で、子供体型の俺に吹き飛ばされたらそうもなるか。
ただあれは完全にそっちが悪い。俺は悪くない。だから後悔も何もしてない。
「何、ゆっくり紅茶でも飲みながら先輩の事で聞きたい事がありまして」
俺はテーブルの右手側に置いてあるハーブティーの入っているコップの取手を持ち、口に運ぶ。仕事終わりという事もあり、体にハーブティーが染み渡る気がする。ハーブティーの種類の中には、リラックス効果とかあるんだっけ。その類だろうか。これもあの受付嬢のアディオさんが、厳選して作っているのだろうか。今度、聞いてみようかな。
俺のその発言で、少したじろぐような驚くようなそんな顔を男性はしていた。俺はそれを見て、確信に変わる。
「俺が話すという事は、大新人であるアディさんにないでしょう」
その男はそれで話を区切るように立ち上がる。速攻に俺から離れたかったようである。やはり何か隠してやがるな。分かりやす過ぎるて助かるな。
「アディの話が終わってないですよ。座ってください」
アライが剣を抜き、一瞬にしてその男の喉元に刃が迫る。それがその男を静止させている行動であった。基本的に俺が戦えるという事もあるが、アライもそれなりに戦える。
男はそれに驚き、冷や汗を掻きながら、恐る恐る席に座る。
「話が分かる人でよかったです」
アライはその男が席に座ると同時に、引き抜いた剣を鞘に納める。多分大人しく座ったのは、アライのその行動と表情だと思うんだが。そんな殺気に満ち満ちている表情と気配していれば誰だって座る。俺だって恐ろしくて座るもん。
「そうですね。アライの言っている通り、まだ話は終わってないですよ。先輩に聞きたい事がありましてね」
俺は和かな笑顔を、その男に向けながら話していた。幼い子供の純粋無垢のような笑顔攻撃を喰らえ。そんな事を内心思いつつ、そういえばこいつ子供だからって舐め腐っていたから効かないか。
男は冷や汗を浮かべながら、落ち着かない様子で手や足を妙に動かしていた。そんなに怯えなくても、その男の処遇は決まっている。
「そんなに怯えないでください。まるで俺が悪者みたいじゃないですか」
俺は作り笑いを浮かべて、その男の緊張を解こうとする。そういうのは話にとって大事って聞くしね。それを実践させて貰おう。
「いやいやそんな事はないですよ!? アディさんは悪者なんかじゃないですよ!?」
俺の事を気分良くする為に、褒め称えるように言った事なのだろう。それもそうだ。この男より、俺は悪者なんかじゃないんだから。
「そうですよね。悪者は、貴方ですもんね。マイク・マーデイルさん」
俺は確信に迫るような口振りで、その男の名前を言った。マイクはそれを聞いて、より一層、顔色が悪くなる。そりゃ顔色も悪くなるか。
「俺の依頼を失敗させようとして、楽しかったですか?」
そもそもマリィさんを殺害の対象にしたのは、原因は俺である。大物新人であり、いきなりDランクの冒険者がただの近隣の護衛任務で、護衛対象を護れず殺されたとなったらどうなるか。勿論冒険者剥奪という事にはならないだろうが、俺に対しての信用は失墜するだろう。それに試験監督をしたアディオさんに対しての不安感というのが、出てきてしまう。それに冒険者御用達の薬屋である。冒険者内での仲は悪くなるのは明白である。
それに俺が薬屋の護衛の依頼をするというのを知られるタイミングは、一番は冒険者ギルドだろう。それに昨日の件で、こいつは俺に恨みがある。それが殺害対象にした理由の一つである。
「そんな事した覚えがないぞ!? 言いがかりも甚だしいな!?」
これはあくまで俺の推測にすぎない。あくまでこの男は殺害依頼したに過ぎない。状況証拠などない訳だし、何の根拠もない。
ただ俺は別の理由があると思っている。それはイコーリティという組織のこの冒険者ギルドでの内通者の可能性である。そもそも五千Gもただの冒険者がたった一つの恨みで依頼するのがおかしい。つまりそれは前もってマリィさんに何らかの狙われた理由があり、この男の恨みと共に今回の殺害決行なのだと考える。
「あんた、禁術を使っているんだってな」
アディオさんの話で、この男は半年程前までそこまで強い冒険者ではなかったようだ。それに逃げるだけが取り柄なんつう話も後ろ指指されていたらしい。
それで俺は気になり、こいつのステータス欄を参照した。そしたら驚く程の身体能力の上昇が確認された。それと同時に魂が削られているのかMPが異様に低かった。フリーも確認したし、禁術が使用されていると言われた。
「その禁術は誰から習った? いやそんな頭がある訳もないか。魔道具の類か」
それを聞いたマイクという男が、異様な顔で歪んでいた。それは悔しいというより、もっと別の何かである。それはもう自分の人生なんかどうでもいいような自暴自棄の笑みであった。
「あんたに何が分かる………………。才能も何もかも人一倍あるお前に!? 何もない俺は、なんだってんだよ!? お前も俺の事は価値がないって言うんだな!?」
その男は涙があった。タチが悪いロクデナシであるマイク・マーデイルが笑みを浮かべて、ただ自暴自棄の笑い声がギルド内に木霊していた。
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