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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第三章 冒険者の仕事はしんどいようです・・・
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五十二話 宿屋の店主は元冒険者のようです・・・

 俺は眼を覚ました。どうやらふかふかのベッドのお陰で熟睡出来たようだ。それと蓄積していた疲労のせいである。部屋は窓から照らされるはずの光をカーテンによって遮っていた。






 俺は疲労によって重たい体を起こして、立ち上がる。窓まで寝ぼけている頭の中、カーテンを開ける。それにより太陽の光が、俺の眼に直撃して俺は眩しくて閉じてしまう。






 そしてもう一つのベッドに完全に起きる気配を見せないアライがそこにはいた。幸せそうに寝やがって。いや可愛いからいいんだけどね。





「やはりアライ様の事は、可愛いと思われるんですね」






「うわぁ〜」と俺は驚きのあまり叫びながら、後方に尻餅をついてしまう。いきなり脅かすなよ。フリー。





「申し訳ありません。それとおはようございます。(マスター)





 あ〜はいはい。おはようです。それにしても、こいついるのすっかり忘れていたよ。それにしても尻が痛ぇな。この野郎。





(マスター)が、俺がいるのを失念しているのが原因ですね」






 寝ぼけている頭だったんだから、仕方ないだろ。お前と会って一日も経ってないんだからよ。ていうかなんか忘れられて、怒っているのか。






「そんな事はありませんよ。それよりアライ様を、起こさなくていいのですか?」





 あ〜少し拗ねているのね。忘れていてすまんな。こいつも誰かと一緒にいるのが、嬉しいんだろうな。






 ていうかフリーが素かけたから起こすの遅くなっているんだよ。





「それは申し訳ありませんです」






 分かればよろしい。これからは脅かす事なく、普通に呼んでくれよ。マジで。心臓に悪いから。マジで心臓がバクバクとなっているから。






「承知致しました。(マスター)も忘れないでください」





 あぁ、フリーの事絶対忘れないからよ。忘れる訳もないよ。お前は相棒という者なんだからよ。






 とりあえず幸せな顔をしているアライを起こすか。そう思いながら、アライのベッドに行く。起こすのはやはり罪悪感があるが、仕方ないな。






「おい、アライ。もう起きるぞ」






 俺はアライの体を揺すりながら起こす。アライは「うー」と唸りながら、起きるのを拒否する。こいつ、本当に起きないな。いや起きて貰わないと困るんですが。それは。






「アライ、先に朝食食べて、置いていくぞ」






 それを聞いてしまったアライはガバッと眼を見開き、激しく上半身を起こす。眼には涙目になりながら、俺を凝視していた。やはり置いて行かれるのは嫌なのか。





「またそういう事言う。置いて行かないで!?」





 こいつが一回で起きた試しがないからな。致し方ない事である。俺だって罪悪感が無い訳じゃないんだからな。





「一回で起きないアライが悪い」






 アライは頬を膨らませながら、俺を凝視していた。そんな眼されてもな。困るんだが。






「アライ様は(マスター)に置いて行かれるのがとてもじゃない程、嫌のようですね」






 そういう事だ。そんな感じの事言うと、すぐさま飛び起きる。そこら辺は助かるってもんだけどな。最早そういう眼されるのも、様式美みたくなっているな。






 俺らは着替えと顔洗いを済ませると、この宿屋の食堂に向かった。普通の居たってどこにでもありそうな食堂であった。そこには茶色の顎髭を備えているガタイのいい中年の男性が、食堂で朝食を食べていた。






「お〜あんたら。起きてきたか」






 肉を頬張りながら、俺達に気付き声を掛けてきた。この茶髪の中年男性はこの宿屋の店主であり、ダスティ・アリーズという名前である。気さくな男性であり、戦闘経験はそれなりに豊富そうな感じがしている。





「ダスティさん、おはようございます」






 俺は礼をして、朝の挨拶を交わした。それにしても宿屋の店主には思えない風貌だよな。一番不可解なのは、額にある一本線で引かれたような大きな切り傷である。治りきっていなくて、痕が目立つな。





「とりあえずここに座れや。飯は出来たら、持ってくるからよ」






 ダスティさんは食堂の厨房に向かって手を挙げると、厨房の人が意図を理解したようで俺達の朝食の準備を始める。






「それじゃお言葉に甘えて」






 俺はそう言いながら、ダスティさんの向かい側に座る。アライは俺の隣に座る。眼光も鋭くて、怖いな。この人。まるで眼だけで斬りつけそうな雰囲気すらあるよ。






「あんたら、今日から冒険者だっけか」






 そういえばチェックインする時に、話してしまったんだっけか。それにしてもこの人、佇まいと言いやはりそうなのかな。鎌をかけてみることにするか。






「そうですね。新人冒険者としてこれから頑張ります。それにしても強者と見えるんですが、元冒険者だったりしませんか?」





 ダスティさんは「おっ」と驚愕しながら、眼をより鋭くする。俺の事をよく観察しているようだ。






「見た目より、ずっと強いなお前。小僧だと思っていたが、侮れないな」






 何。歴戦の冒険者って素で、ステータス観察系のスキルでも身につけているんですかね。怖いんですけど。何も変な行動は、一切起こしてないんですがね。






「謙遜しすぎですよ。普通の凡人の強さですよ」





 俺は自分が強いという風には、絶対思わない。俺より強い奴が、五万といると思った方が警戒心もより確実なものになるからだ。それに俺は強くない。普通のなんて事はない凡人だ。





「そんなこたぁねぇだろ。俺なんて一瞬で、首を掻っ切れそうな圧を感じるぞ」





 俺、そんな威圧的になっていたかな。普通にしていただけで、そう言われても困るんだが。いや歴戦の冒険者としての観察眼がそうさせるのか。






「そんな事ないですよ。むしろダスティさんの方が、圧が強いように感じますが」






 ダスティさんの眼が怖くて、俺はたじろいでしまうよ。本当に。怖いもん。この人の眼と顔。





 それを聞いたダスティさんは、気分が下がったのか下を向いてしまう。





「やはりそう思われてしまうのか。娘にも顔が怖いって言われているしな」






 ダスティさんは、家族持ちの人だったのか。やはりその顔のせいで苦労はしているのね。俺は少し同情の眼差しで、ダスティさんの事を見た。





「娘さんがいらっしゃるんですね」





「娘が産まれてすぐに冒険者を辞めて、宿屋の店主をする様になってな。それで八年くらいか」





 という事は娘さんは、八歳くらいなのか。俺の肉体年齢的にあまり変わらないんだろうか。少しこの顔つきのダスティさんから、どんな娘が産まれているのか気にはなる。






「冒険者時代のダスティさんのランクってどれくらいなんですか?」





 それなりの強者であるから、A級は難いだろうな。すぐに相手の強さを測れる観察眼は、長年冒険者として生きている証のようなものだろうしな。





「元A級冒険者だ。なんか冒険者として相談があったら、俺が出来る限りなら答えてやるぞ」





 先輩強者冒険者が、近くにいるというのは何よりも有難いな。気軽に相談出来そうな感じの人だし。目つきが怖いが。





 そんな会話をしていると、チリンチリンとベルが鳴る。何の合図だろう。






「おっ出来たか」






 どうやら朝食が出来た合図だったようだ。ダスティさんは立ち上がり、両手で二人分のお膳を持ってきた。それをアライと俺の目の前に置く。






「今日の朝食は、ボア肉の香草焼きにロールパンにコーンスープだ」






 ボア肉のジューシーな香りと香草によりそれを引き出している。ロールパンとコーンスープは普通であるが、コーンスープの中には、鶏肉だろうか。入っているな。

 きちんとボア肉のロースは一口サイズに切られており、食べやすくなっている。






「頂きます」と言い、最初に気になっているメインのボア肉を頬張る。味付けは塩だけであり、香草によりあっさりと仕上がっている。これなら朝食に肉が食べにくい人でも、容易に食べれるだろう。結構考えられている朝食だな。





「どうだ。美味しいか?」






「美味しいです。ありがとうございます」






 本当に美味いな。それで今日も一日を頑張れそうだ。






「そうか。それならよかった。俺はちょっとやる事あるから、そろそろ行く。ゆっくりしていけよ」






 ダスティさんは自身が食べたお膳を厨房に下げながら、食堂を後にした。





 とりあえずお言葉に甘えて、ゆっくり味わって朝食を食べるか。

五十二話最後まで読んでくれてありがとうございます




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