五十一話 やっとの帰還です・・・
俺が空間の裂け目を通ると、そこは冒険者ギルドの裏庭だった。そこにはアライとギルド長兼受付嬢であるアディオさんがベンチで談話しながら座っていた。
そして俺が空間の裂け目から出てくるのを二人が認識すると、アライは急いで走り近づき、アディオさんはゆっくり歩いてきた。
「きちんと帰ってきたようだね」
アディオさんはホッと胸を撫で下ろした。それで冒険者の資格を得る事が出来るだろう。俺はロボットのコアをポーチから取り出してアディオさんに見せた。
アディオさんは口を開いたまま、驚愕のあまり停止してしまう。あれ。俺、なんか間違ったかな。アディオさん、動かなくなったけど。
「アディオさん〜、お〜い!?」
俺はアディオの顔に向かって手を振り、気づかせる。余程このコアが駄目な代物なのだろうか。それだと試験失格かな。
「ああ〜………………すまんすまん。合格だ。それにしてもこんなもの初めて見たな」
俺が差し出したコアをアディオさんが手に取り、じっくり観察する。アディオさんの長年の眼により、鑑定でもしてるのだろうか。
「どんな所だった?」
あれ、アディオさんってあのダンジョンに入った事がある筈なのに、なんで聞いてくるんだろう。いや一応、きちんとダンジョンにいたって確証を得る為かな。
「様々な色に変化する森と紫の大地のダンジョンでした」
地下のフリーが居た居住区画の事は話さない事にした。というのもあそこは完全に停止しているし、フリーの大事な場所を他の誰かに汚されるのは良くないと思ったからだ。
それにあそこにたどり着けたのは俺が初めてなのが、確実だろう。それはフリーが証明してくれている。だから俺が言わなきゃ所在を不明に出来るしな。
「やはり最終階層に一瞬で辿り着いたか」
ん? なんか聞いてはいけない事が聞こえたぞ。最終階層ってどゆことだよ。いや思い当たる節は無いわけではなかった。あそこら辺の魔物は、基本的に俺でも苦戦するような化け物がうじゃうじゃいたからだ。違和感が無いと言ったら嘘になる。
「最終階層ってあのダンジョンって何階層まであるの?」
そもそもあのダンジョンの詳細を詳しく聞いてなかったな。それを聞いてたら、少しは探索が楽になっていたかもしれないな。
「あのダンジョンの名前は、アルメリアと言ってね。大体五十階層って言われている」
なんで大体という曖昧な表現を使ったんだよ。それじゃまるでまだ誰も最後の階層まで行った事がないみたいじゃないか。いやアディオさんは最終階層と公言している。つまり俺は最後の階層まで瞬時に飛んだという事になる。
「あのゲートってね。入る人の力量を測定して、適切な場所に転移するんだ。ただその分、ゲートの維持が難しくてね。私の魔力でも一日維持出来れば精一杯なんだ」
つまり俺の力量を測定した結果、最終階層まで無理矢理飛ばされたという訳か。それにしても余裕な敵なんて居なかったぞ。いや俺がリソース管理するあまり余裕ぶっこいてただけか。
「私も最終階層まで到達した事がないんだ。最終階層は神の領域と言ってね。そこに辿り着くのは、人間という部分で無理だと言われているのよ。それが君は、普通に力量の時点で、最終階層まで適性があった」
それじゃ俺は未到達領域に普通に土足で踏んで、違和感なく冒険していたのか。いやいやいやそんな事、あり得ないだろう。
「あれ、そしたら俺って結構ヤバい事しました?」
未だ誰も足を踏み鳴らしていない、完全未到達領域に足で歩いた。それがどれだけ歴史上の偉業であるか、俺には想像すら出来ない。
俺は冷や汗を掻きながら、眼が点になる。
「そうだね。未だ誰も到達してない最終階層に普通に行ったんだ。つまりそれは最後の階層が伝説と同義という事になる。冒険者界隈が荒れると思うが、君は年齢的に子供の身であるし、言った所で信じて貰えないだろうからそこら辺は安心するがいい」
それもそうか。そんな子供が、ゲートを潜るとそこは最終階層でしたなんて言った所で信じられる根拠なんて無いに等しいだろう。俺だって信じないしな。
むしろ夢でも見てたのかと笑い話にされそうだしな。
「それなら安心です。俺の目的はあくまで冒険者として普通に名を馳せたいだけですし」
あれ、それにしてもアディオさん、俺の隣にいるフリーに反応しないな。なんでだろう。
「それは俺が不可視の魔法を行使しているからですね」
アディオさんやアライからはフリーが完全に見えないのか。それもフリーの声すらも聞こえない感じか。ていうか俺の思考を読みやがったな。こいつ。高スペックだからって人のプライバシーまで完全監視は如何なものなのかな。
「大丈夫です。俺はあくまでも主に忠誠を誓う機械でございますので。ご心配無く」
そう言う事じゃねぇんだがな。いやいいや。突っ込むだけ時間の無駄か。
「それにしてもこのコア、途轍もないエネルギーですね」
アディオさんは俺が渡したコアをじっくりと観察していた。そのコアは青白い光がバチバチと中央で未だに拡散していた。どういう仕組みなのか俺にも不明だが。
「その階層にいたゴーレムのコアです。とても強かったです」
実際強すぎた。ゴーレムなんて余裕で倒せるだろうと、鷹を括ってるのが間違いなんだと気づいたよ。それにしても、システムを完全停止したという話なのに、コアはまだ普通に起動しているのはどういう事だろう。
「警戒システムは停止してないからですね。侵入者がその先、出ないとも限らないので、作動したままの状態にしています」
あ〜あの糞システム作動したまんまなのね。だからコアも普通に起動しているのね。と言ってもあそこに到達出来る猛者が限られてくるだろうが、本当にそのうちな気がするが。
「本来なら未到達領域に踏み込んだ時点で、S級資格を得るに相応しいがすまないな。新人冒険者というのは、肩身が狭くてな。D級からのスタートになってしまう」
そころらへんは致し方ないだろう。新人冒険者が行ったなんて信じられる訳もないし、それに俺はまだ冒険者として未熟な身分だ。むしろD級くらいが俺にとってちょうどいいまである。
「冒険者資格は明日配布という事でよろしいか? もう時間も時間だしな」
俺は空を眺める。そこは月が見えて、辺りはすっかり暗くなっていた。余程俺は長い時間、ダンジョンに居たんだな。確か俺が昼前にダンジョンに入った筈なのにな。大体六時間以上はダンジョンに居たのか。なんかそんな実感があまりないが。
「おそらくこことダンジョンとでは時間流が違うのでしょう」
成程。それなら合点がいくな。本当にフリーは楽に立つな。
「お褒めに預かり、機械冥利に尽きますね」
「本当に無事で良かった。戻ってこないって心配だったんだよ」
アライが俺に抱きつく。アディオさんがいるのに、これは恥ずかしいよ。でもやはり六時間というのが長いからか。アライに心配されるなんて俺もまだまだだな。
「心配させてごめんな。少しダンジョンにいるのが長すぎたか」
少しダンジョン探索に夢中になり過ぎたか。あくまでも冒険者資格を得る為だったという目的をすっかり抜けていたな。
「こちらにいる方が、主の恋人ですか?」
フリーがなんか戯言をほざいてやがるな。そんな訳ないだろう。年齢見ろ。年齢。歳の差なんてレベルじゃねぇぞ。
「でも主の魂の年齢とは合致する筈ですが。同い年くらいですし」
それはそうだけど、俺にアライに対する恋愛感情なんてないぞ。そもそも恋がなんなのかさえ分かっていないへっぽこ人間だしな。俺は。
「そうですか。出過ぎた発言、申し訳ありませんでした」
分かればよろしい。流石、機械。理解度が早くて助かる。
「とりあえず、宿に帰るか」
俺がそう言いながら、ギルドの裏庭を後にしようとする。
「あっちょっと待って」
そんな感じでアライが呼び止める。俺は「ん?」と言いながら、アライの方向を振り向く。
「とりあえず、言うことは言わなきゃいけないなと思って。お帰り。アディ」
あー言ってくれたのか。それは本当に有難いな。俺が不器用な微笑を浮かべて、そう言った。
「あぁ、ただいま。アライ」
これで俺は明日から冒険者になれるのか。これから先楽しみだな。
そんな感じで、俺は未来に期待しながら宿屋へと戻っていくのであった。
五十一話、最後まで読んでくれてありがとうございます。
これで二章は終わりです。だいぶ長く感じる気がします。うん。
第三章はアディとアライが、冒険者として過ごすというお話になります。後第二章序盤で出てきたアディのポーチを盗もうとした少年が出てきます。
それでは第三章のタイトルは『冒険者の仕事は、しんどいようです・・・」をお楽しみください。(安直なネーミングセンスな気がします)
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