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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第二章 遺跡の町は浪漫に満ちてました・・・
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四十八話 エリアボスが俺を執拗に攻撃してます・・・

 森の中へと俺らは入っていく。そこは以前のような喧騒さや危機感を感じなかった。まるで機能が停止している機械かのように。






 そんな異様な静けさに俺は違和感を覚えたまま、森の中をただ歩み出していた。一歩一歩真っ白い鬱蒼とした木々の中、不気味さがだんだんと出てきた。それに少し俺は身震いする。空気の温度が冷たい訳でもないはずなのに、何故俺は体が震えているのだろう。





 何かとても大きな胃の中にいるようなそんな気がした。






「なんか寒くない?」






 俺は右肩付近を浮いているフリーに声を掛けた。妙な寒気を俺は森に入った時から感じていた。それはだんだん森の中央に行くほどに強くなっている。






「現在の温度は正常ですよ。寒いという程の温度ではないかと」





 フリーは特にこの森の違和感は感じていないようだった。しかしフリーは森に入った時から警戒を強めているは見える。おそらく敵対反応を探っているが、見つかっていないのだろう。






「そうか。それならいいんだけど」





 そんな会話をしながら歩いていると、開けた場所に辿り着けた。ここは樹木が生い茂っていなくて、草原のように草が辺りを支配していた。 中央には一歩の細い若木のような樹木が目の前にあった。





 その樹木には顔が埋まっており、人の亡骸のような印象を俺は受けた。どうやらこの森の被害者の一人なのだろうか。





「貴女様は―――――― 」






 フリーは言葉を途切らせてしまう。この樹木はフリーの知人のようだった。そう考えると、長い時間ここで一人でいたという事か。





「いや!? そんなまさか!?」






 フリーが驚愕と同時に慌てるような仕草と声を出す。





「アルメリア様!? 何故ここに!?」





 フリーは警戒態勢を解き、その樹木の元にまで近づく。余程フリーにとって大事な存在だったのだろう。俺は何も言わずに、ただ見守る事にした。





 フリーが近づくと同時に俺に悪寒が走る。それは森に入ってきた時から感じていた胃の中にいるような感覚がより研ぎ澄まされるような、鮮明になるような感覚だった。





 俺は地を思いっきり蹴る。それは俺が今までにないくらいに力を振り絞る。それほど俺は嫌な予感がしたからだ。フリーの元まで一気に近づく。





「フリー、危ない!?」





 フリーの小さな体を俺は抱き抱える。何故俺が無意識にこんな行動を取ったのだろうか。不意に一瞬意識が途切れる。激痛が全身を支配する。





 地中に潜んでいた樹木の根っこが俺の胸を完全に貫く。あまりにも一瞬の出来事だった。その樹木の顔が長い眠りから覚めるように、こちらを凝視した。その眼は赤く、瞳孔は白く染まっていた。髪色は緑色であるが、その存在に俺は今まで感じたことの無い危機感を感じた。






 それは別次元の存在のような気がした。人という一存在が、立ち向かっていいようなそんな感じがした。






 俺はとりあえずこの胸を貫いている根っこを手刀で切り落とす。





(マスター)!? 申し訳ありません!?」






 側に抱えていたフリーが無事でよかったと安堵する。ただフリーは自身の失態と俺の心配をしているようだ。





「フリー。今は謝る時じゃない。目の前の存在の詳細と脅威度、後は対処法の確立をお願いする」






 俺は冷静に判断する。今はフリーの気持ちは本当に分かるが、あれは本当にヤバい奴だ。感情を廃止して、目の前の存在を滅ぼさないといけない気がする。






「詳細不明…………。解析に十秒程時間を要します」






 俺の意図を完全に読み取ったのだろう。そこら辺は本当にフリーは優秀だな。それにしてもフリーという高スペック存在でも十秒程掛かるのか。それ程あれはヤバいのが予感じゃなくて確定したな。






 それにしてもあんなヤバい存在に十秒我慢しろって言うのか。無茶苦茶を言うな。いや俺が十秒は耐えられるのは確定してるからこそ出たセリフか。





 その女性のような存在は俺の事を凝視したまま、ミシミシと固まっている筈の樹木化した右手を伸ばしてきた。まるで俺の事を赤子かのように、おいでおいでと手を伸ばしている気がした。





 俺はそれをただ眺めていた。まるで敵視しているような雰囲気がなかったからだ。





 と俺は思っていたが、俺の左手に痛覚を感じる。俺は恐る恐る左手を確認する。そこに左手は無かった。俺が認識出来ない速度で、攻撃を喰らっていた。俺の左手は龍の形をした樹木に貪り喰われていた。





「おいおいおいおい。マジかよ………………」





 俺は冷や汗を一滴垂らす。それが首筋を伝い、服の襟に染みる。これはガチで本気になってないとヤバいな。そうじゃないと、俺の体が持たないし、HP(ヒット・ポイント)のストックが切れる。そうなった瞬間、俺の負けが決定だ。いや死ぬ事になる。





 その存在は首を傾げるようにしていた。どうやら俺が意外と弱かったからか。





「舐めるなよ!? この樹木野郎!?」





 合技(オリジナル)スキル・変転万化・六星。俺の右手が赤く燃える。その炎は、普通の炎ではなく何億度というレベルに達していた。俺の右手は一種の太陽に変わっていた。そして俺は瞬時に姿を消す。






 俺の体は霧状になり、樹木野郎の背後に迫る。






 合技(オリジナル)スキル・冥焔黒月(めいえんこくげつ)。俺の指先が黒く染まる。まるで燃え尽きた炭のような黒色になっていた。俺は樹木野郎に右手で手刀を繰り出した。






 極限まで凝集された熱のエネルギーが一点に一気に放出される。それは音を置き去りにして、ただ爆炎が樹木の周りで発生していた。





 俺はその樹木野郎から瞬時に距離を取る。またあり得ない速度で、攻撃を受けたら堪ったもんじゃないからな。






 樹木野郎は首を傾げたまま、バリアのようなものを貼っていた。






 そりゃそうか。あの程度でやられてちゃ俺の危機感が嘘になるからな。





 合技(オリジナル)スキル・時天(じてん)加速(かそく)。俺の体感の時間感覚が加速する。それと同時に俺の足が加速する。





「とりあえず舐め切った小首をへし折ってやるよ!?」





 俺は側方から一気に迫って剣の間合いに辿り着く。鞘から一気に剣が抜刀される。





 八の型・神月・居合。今の俺の膂力で、この型の居合をするとどうなるか俺も想像が出来ない。俺は右脚を完全に前に出す。腰を低く保ち、剣はただ抜かれたという認識しか残らなかった。






 ただ樹木は何事もなかったかのように、俺の剣の刃が一本の樹木に阻まれていた。





 樹木は呆れたように、玩具を壊すように攻撃を開始した。一気に四方から樹木の幹が襲いかかる。






 俺は回避しきれず、再生した筈の左手がまた持っていかれた。そして左脚も今度は同時に畑の野菜を抜くように持っていかれた。





 瞬時に左手と左脚を回復させ、バックステップで距離を取る。






 合技(オリジナル)スキル・目見えた虚像。俺は樹木にまた接近しようとする。しかしもう二度と接近する事を許してくれないのか俺の四肢が完全に引き裂かれた。






 となったがそれは俺の虚像であり、本体は樹木野郎の後方から距離のある所にいた。





 合技(オリジナル)スキル・黒点赫雷砲(こくてんせきらいほう)。俺は樹木野郎に向かって右手を延ばす。黒炎と共に紅い雷が凝縮されそれが砲弾のように放たれる。





 地面は焼け焦げ、辺りには放電が走る。






「キィィィィィぃぃぃぃ!!」






 樹木野郎から初めて叫び声を出した。しかしそれは放った筈の雷砲が跳ね返された。叫び声だけで反響させて跳ね返すとか化け物がよ。






「四の型・月見」





 俺は跳ね返ってきた雷砲を剣で受け流そうとする。そしてなんとか雷砲の軌道を逸らして、その雷砲の威力の勢いを利用して剣を真上から振り下ろす。





 それが巨大な斬撃となり、樹木野郎を襲う。樹木野郎は二本の樹木の幹を利用して俺の渾身の斬撃を打ち消した。





「どうやったら倒れるんだよ。こいつ」






 最早無敵と言っても問題ないんじゃねぇかな。何処見ても隙があるかって言われたらないし、なんなら俺の事をただの遊び相手にしか思ってねぇよ。殺意も害意もないのがその証拠だよ。




 俺はため息を吐きながら、次の攻撃にシフトする。

四十八話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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