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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第二章 遺跡の町は浪漫に満ちてました・・・
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四十四話 どうしてこうなった・・・

俺はロボットが消え、機能が完全停止した真っ暗な空間に一人で立ち尽くしていた。






 ていうのも帰る手段が思いつかないのである。機能が完全停止しているという事は、要するに転送陣などの移動手段が無くなったという事になる。






 俺は帰る手段を失ったのだ。うん………………あの糞ロボット、ぜったいしばいてやる。





 どうしようかなと悩んでいると、不意に後ろから気配がした。





(マスター)の変更が為されました。これから宜しくお願い致します。俺の主(マイ・マスター)





 そこには小さな小型ロボットのような空中に浮いている存在がいた。





「どうしましたか? 死人が蘇ったような顔付きをして」





 そのロボットが何処か心の奥底で笑っているような気がした。表情がないのに異様に心情が分かるし、腹立たしいな。






「何でお前が普通にいるんだよ? あれってお前の本体じゃないのかよ」






 俺は苛立ちを交えながら、そのロボットに質問した。



 普通に本体というかこの施設の大元を絶ったからこそ現在、この施設は機能が停止しているというのは俺でも分かる。





 つまり何か別の要因があり、今ここにこいつがいるという事になる。





「いやあれは俺の本体でしたよ。要するに一回は俺は死んでます」





「それじゃどうして小型ロボットになって俺の後ろにいる」





 俺は鬱陶しそうにそう言った。なんか嫌な予感するんだよな。






「我々は他施設に行き、調査したいと元々考えていました。しかし俺に課せられたシステムで、使命は施設の守護に限定されていました。それから逸脱する外に出ると言う行為は、俺には今まで出来ずにいました。なので別に俺はサブプランとしてこの体を前もって作っておりました。あとはデータ移行なんですが、完全に俺とはシステムが別個になっている為に移行出来ませんでした」







 俺は腕を組みながら、小型ロボットの話を聞いていた。こいつは外出る為に、別のロボットを作っていたが本体からの移動が出来なかったと。





「俺が本体を壊した事で、データ移行が完了したってところか」





 こいつの思惑にまっまと乗せられたか。だから主人変更という話を嘘でもなんでもなく、本当の事だった訳だ。





「はい、その通りです。(マスター)変更も一回、壊して貰わないと出来なかった項目ですので」





 それじゃ俺の涙は一体なんだったんだろうな。こいつの嘘も大概だな。殺意を覚えてきたぞ。もう一回壊そうかな。






「なんで殺意を発しているんですか!? (マスター)!?」





 俺は無意識に剣の塚を握っていた。余程俺は、こいつに怒りを覚えてしまっていたようだ。






「いやお前の嘘に少しな」






 俺は冷たい怒りの声を発していた。なんか少し涙を垂らした俺がアホみたいじゃねぇか。いつかこいつに痛い目をあわしてやる。





「あれですか!? ユーモアがあったでしょ!? なんか雰囲気が良かったものでね!? 壊すのは勿体無いと思いましてね!?」






 こいつ、あの言葉を自覚持って言っていたのか。どうせデータ移行して復活する事を前提とした試験だったというのに、まるでもう壊れていなくなりますみたいな言葉を発しやがって。





「まぁ〜もういいよ。それで俺は帰れるのか? というか帰してくれ」






 ここと俺の元いた世界との時間差がどうなっているのか見当もつかないからな。早めに帰る事に越した事はないだろう。





「その前に(マスター)にはやって貰いたい事があります」





 まだなんかあるのかよ。流石にまた戦闘しますってのだけは勘弁願いたいものだ。





(マスター)といってもまだアディさんは(マスター)(仮)みたいなもんですので、本登録を行いたいのです」






 正式にこいつの主ではないって事か。一応試練に受かって、主の資格は得ているけどって感じかな。





「それで本登録って何するの?」





「血を抜かせてください」






 うん。意外と拍子抜けするような本登録行為だった。血を抜くだけで本登録になるならいいな。





「別にそれくらいならいいぞ」






「ありがとうございます。それでは本登録行為、開始します」






 出来れば貧血にならない程度にしてくれよ。HP(ヒット・ポイント)のストックを使うのは嫌だしな。





 小型ロボットは何もない空間から針のようなものを出した。それは極小の針である為に、あまり痛覚は感じなさそうだ。


 俺は右腕を出して、血を抜かれるのを待っていた。ロボットは針を操作して、俺の右手に針を刺し血を抜く。






「ていうかなんで血を抜かなきゃいけないんだ?」





 そもそもな話、血を抜いて本登録完了するなんて聞いた事ないしな。気になるから聞いてみるに越した事はないだろう。






「血を抜くというよりかは解析して、(マスター)の遺伝子構築を把握する事にあります。それにより俺と(マスター)の主従関係は完了となります」





 なんかこいつ隠している事がありそうだな。ただ裏切ったりはしないだろうし、何か本当に言わなきゃいけないなら、こいつから話すだろうしな。




 針を抜き空間にしまわれると、小型ロボットの眼らしき部分が、チカチカと赤に光る。





「やはりそういう事でしたか」





 何か自身のうちで、分かったような事を口にした。





「本登録を完了しました。それで一つ、聞きたいのですが、貴方は一体誰ですか?」





 やはり気づいてしまったか。といっても俺は俺としか言いようがないんだけどな。




 ただこいつが求めている返答は、きっと別の事だろう。





「魂の器である肉体に、別のものが紛れているので。魂が入れ替わるというなら分かりますが、強固な魔法術式で魂が保護されているので、より違う何かでしょう。例えば異世界の住人なんでしょうか?」






 この世界からしたら、俺のいたところが異なる世界であるか。





 ここは正直に話したほうが、お互いに垣根を無くすか。





「俺の元いた世界は、地球ってところだ。それで俺はいつの間にかこの世界に来てしまっていた。それで俺のあっちの世界での名前は、ユウスケ・フジイだ」






「成程。(マスター)はこことは完全に別の住人なのですね。そちらで名前登録いたしましょうか?」





「いやこっちで名乗った方にしてくれ。あっちの名前は、あっちだけの物にしたいんだ」






 それは俺の本心でもあった。こっちに来てしまった以上、別の名前の方が動きやすいし、あっちの名前である藤井 勇輔は名乗りたくなかった。





「分かりました。それではアディ・ブレードで名前登録を行います。それで俺の名前を決めてください」





 いやなんでだよ。お前にはアデルフって名前があるだろうって。決めるのは面倒くさいし、俺のネーミングセンスとか壊滅的だぞ。






「お前には今まで大切にしてきたなまえがあるだろ」





 それも俺以上に長い年月を生きていた中で、俺以上に大切にしてきたであろう名前を捨てるのが少し俺は気掛かりだった。






「いえアデルフは俺の元本体であったと同時に、施設全体の名前です。施設が停止して、俺が発つという事は最早その名前を捨てないといけないと考えましてまして」





 それはつまりこの施設に起こった塩化の原因を探る為に、この施設を一回放棄する訳か。名前もそれと同時に別にして欲しいのか。






「う〜ん。どうしようかな」





 俺は頭を抱える。名前とか決めるの、考えるのはしんどいんだよな。






「フリーゲンっていうのはどうだろうか。飛ぶって意味だったっけな。確か。この施設から発つつう事は、そういう事だろうしな」






 我ながら良いセンスだ。二度とこんなネーミングはないだろうと自負するレベルだ。




 安直な気がしないでもないが。





「ありがとうございます。我の主(マイ・マスター)。これから俺の名前は、フリーゲンと登録致します」





 そうして俺はまた一人、旅仲間でいつの間にか流れに乗ってしまって出来てしまった。






 それも珍しい小型のロボットである。いや最早これも素っ気ないか。フリーゲンという名の心ある機械であった。

四十四話、最後まで読んでくれてありがとうございます



少しでも面白いと感じたら、いいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。

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