四十三話 ロボット君は圧倒されています・・・
ロボットはどういう理屈なんだろうと考えてやがるな。俺もよく知らんが、この二振りの剣にはそれぞれ異なる特性が備わっている。赫い剣の名前はアベルという名前だ。多分、元ネタは旧約聖書の創世記の兄のアベルと弟のカインだろう。
『貫き通せ』
俺は右手には持っている赫い剣を手放した。それが一直線に剣はロボットに向かう。
しかしロボットは姿を消すが、それも意味を為さない。だってその剣には、どんな状況だろうと、どんな保護手段だろうと、全て無視して絶対に致命傷を与える剣なんだから。完全絶対必中という名前の効果だ。
ロボットは移動途中だったのだろうか変な所にいた。正確にいうと、俺の左斜め後方にいた。ロボットは胸を貫かれながら、立っていた。
『戻れ』
俺がそう言うと、赫い剣は主人である俺の右手には戻ってきた。ロボットは自己修復機能により、貫かれた胸が治っていった。
ロボットはふらつきながらあり得ないという顔をしていた。それもそうだな。俺だってこのスキルは使いたくなかった。
懐かしいな。敵対ギルドが攻めてきた時、ギルメンが瀕死で、俺も満身創痍の中、このスキルだけで敵対ギルドを壊滅させたの。その実力をここでも発揮させてもらうぞ。
それに呼応したのか、二振りの剣がそれぞれの色に光出す。意志があるのだろうか。そこら辺は後で考えるか。今は目の前のことに集中しよう。
「私も本気で行きます!?」
ロボットは大声を響かせると、この部屋に地震かと思うほど揺れる。
ゴォォォォォォーーーー!!!!!!
そんなけたたましい音が鳴り、エネルギーがロボットに収束されていった。さっきとは完全に別なんだとロボットの雰囲気を見て理解する。白かった髪が、蒼くなり服も同様に変色する。
ここからが本番なんだと理解する。俺がそう認識すると、息を呑む。
『守れ』
俺は左手の碧い剣であるカインを手放す。剣が床を突き刺し、俺の周囲に碧く輝くドーム状の障壁が展開される。碧い剣であるカインには、完全絶対防御という効果が備わっている。これはどんな攻撃手段だろうと、ダメージと状態異常を無効化するやばい効果である。
これだけでも充分な効果であるが、この剣には別の効果も備わっていた。
ロボットは自身の周囲に、手に持っている刃を数百は軽く超えるほど展開された。それが一斉に俺に向かって放たれる。
しかしそんな事は無意味だ。俺がこの剣を床に刺してる限り、この障壁は越えられない。刃は障壁に当たると、その瞬間霧散する。
『削れ』
俺は何か危険を察知して右手の赫い剣であるアベルを手放した。俺の周囲の空気を剣で削り取った。やはりか。一回刃に使ったエネルギーを空気に変換させて、それを障壁内に侵入させて再形成しようとしていたのか。
『射殺せ』
赫い剣が変質、変形する。剣から弓の形を取る。それがこの武器達のもう一つの効果である。あらゆる武器への変形。それだけで遠距離や中距離、近距離と全部のレンジに対応できる。
弓は矢を自ら生成して勝手にロボットに一矢が放たれる。アベルという武器のもう一つの効果は、絶対貫通である。これは防御力などのバフを消し去り、完全に0の状態になるというもの。要するに装備を着てない状態のようなものだ。
矢がロボットの肩を貫き、コアのようなものが壊れる。しかしコアが破壊されても普通にロボットが立ち上がる。
「そろそろ認めてくれてもいいんじゃない? 試練ていうなら」
これ以上一方的な攻撃は好きじゃないしな。それに一応世話になったロボット君を破壊するのも気が引ける。
「いえ私が破壊されるまでお願いします」
え…………それって…………。いやまさかそう言う事なのか。
「あんたってこの施設全体のシステムだろ。破壊したら施設が停止するんじゃないのか?」
それは文字通りの機械的な死を意味している。施設が停止するなら今まで頑張っていた機能が、ロボットが、ゴーレムが、頑張って維持していた住民すら形を崩すのではないのか。
「そんな顔をしないでください。そろそろ機械として終焉してもいいと考えています」
どうやら俺は顔に出ていたらしい。悲痛な顔をしているのだろうか。俺は無意識に唇を強く噛んでいた。唇から血が出て顎を伝っていく。
「だってあんなに長年頑張っていたんだろ!? まだ生きたいって思わないのかよ!?」
俺は悲痛な声をなんとか腹の奥底から搾り出しながら、そのロボットに言った。だって死にたいなんて望むなよ。望む必要なんてないんだよ。
「我々は貴方様のアディ様の手で終われるなら本望のようです」
俺には一切理解に苦しむ願いだ。俺にそんな事を頼むなよ。
ただこれ以上俺が行わないと、多分次はいつ終われるのか分からないのだろう。また主人がいない中、ただ維持するためだけに機能し続ける機械になってしまうのだろう。それに違和感を、想いを、持ちながら。
「短い間でしたが、また生命体と、いや誰かと話せて幸せでした」
最初から終わる気でいたのか。主人変更とか、最早そういうことじゃなくてただただ停止したかった。だから俺にお願いしているんだろう。
この人なら我々の願いにきちんと答えてくれると。我々の意図を読み取り、きちんと役目を終わらせてくれると。
「仕方ねぇな!? 全力で応えてやるよ!?」
俺はもう考えるのが面倒くさくなり、吹っ切れることにした。それの方がいいな。あれこれ理屈を考えるのはやめだ。全力でその願い、叶えてやるよ。
『展開』
俺が指を鳴らすと、二振りの武器があらゆる武器で姿を増やす。槍に、拳武器、剣、弓、杖、短剣、斧、刀など数えたらキリがない。
俺が敵対ギルドを終わらせた時のこのスキルの奥義のようなものだ。
「手向けとして受け取れ!?」
俺が大声でロボットに、いや施設全体に言うかのように喉が枯れそうな感じで叫んだ。
『一斉掃射』
あらゆる武器が、ただ一つのロボットに襲いかかる。ロボットはシステム的に大人しくは終われない。抵抗するようにシステムされている。それが分かっているのかロボットは体を動かして、なんとかあらゆる武器の雨を受け流したり、回避したりしようとする。
しかし意味などない。この武器達は、定めた対象が死ぬまで終わらない。
そして雨が止む。対象の消滅が確認されたのだろう。二振りの剣であるアベル・カインは姿を消した。
目の前には、頭部だけが残されていた。俺は静かに床に腰を下ろして、胡座をかく。
「あんたの願い叶えたぞ。これで本当によかったのか?」
ロボットはまだ機能してるのだろう。頭部は光りながら、機械的な音声で話し出す。
「はい。ありがとうございます。我々の無理な願いに最後まで付き合わせてしまって、本当に申し訳ないです」
機械的な音声は、ノイズが少し入りながら俺に話した。
「申し訳なくねぇよ。俺がその願いを聞き届けただけだ」
俺は何を今思っているのだろうか。悲しくはないはずだ。どうせこの施設に来てから少しだけしか話してないしな。
なのに何でか涙が出てきていた。
「ほ…………ん…………に…………あ…………う。あ…………なたに…………幸福………………あれ…………」
ノイズが激しくなり、最早何を言っていたのか意味が分からなかった。しかし何となくであるが、言ってそうな言葉が理解出来た。
そして言い終えるとブツッと音が鳴り、長年役目を全うした施設のロボット達は機能を停止した。
「あまたの魂達よ。御霊の地にいるものをお連れしてください。地より天へと昇りし魂の為に、天の世界の扉を開けて頂きとう存じます。私達も、後々そちらに伺う日が来ますので、どうぞお待ちください」
俺が膝を着きながら、この世界での鎮魂の言葉を施設全体に口にした。
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