四十二話 ロボットとの戦闘が始まりました・・・
転送された先は巨大な通路があり、床にある線が水色に光りながら中央へと収束されていた。どうやら見た限り、何らかのエネルギーが線を通っているのだろうと推測出来る。
そして中央には宙に浮いている球体状の巨大な物体が高速に乱回転していた。その物体のエネルギーは他とは明らかに別格であり、前に取ったゴーレムのコアの数十倍はあるだろう事が何となくだが分かる。
そのエネルギーの巨大さに俺は圧倒されて冷や汗が滲み出てくる。そんな代物を俺は一度も見た事がない。
技術体系が完全に未来に行っているのは分かるが、それでもこれは俺の今までの『常識』という概念が少しずつ壊れていっていた。
「これは我々の大元で、私の本体です」
どうやらこの大きな球体が都市統括システムという代物らしい。それにしてもバチバチとエネルギーを放出しすぎな気がするんだが。
多分見えない導線のようなもので、各所にエネルギーを循環させているのだろう。ただこのエネルギー源は何処から来てるんだろうか。これらも例のよく分からない水をエネルギー源に変換してるのか。
「なんか凄いね…………」
俺はロボットにそれしか言えなかった。実際それしか言葉が思いつかなかった。それ程いつもの俺との日常とはかけ離れていたからだ。それだから冒険というものは面白いのだろう。童心を思い出すな。
「そう言って貰えると私も嬉しいです」
それに呼応する様に、球体も興奮してるのか乱回転が若干速くなっていた。そもそもこれの本体という事は、感情もそういう感じで反応するのか。なかなか興味深い話だ。
「それで何するの?」
確か主人変更の手続きとかだっけか。何か名前とか書いて変更するのかな。
「戦って貰います」
うん。どういうことかな。意味が分からない。なんでここまで来て戦闘しないといけないのかな。そもそも戦闘するにしても、敵は何処にいるんだよ。
俺が返答に困っていると、目の前の球体が突如小さく萎む。いや本当にどういう事だよ!? 普通機械が萎むのかよ!? 質量保存の法則とか知っているのかよ!?
巨大な球体が、大人の人くらいの大きさになった。俺の隣にいるロボットはまるで役目を終えたかのように、地面にガシャと音を鳴らして転がる。
その球体が萎み切ると、変形して人型のロボットの形を取る。いや最早それは人であった。肌色がまるでホログラムのように周りに纏わりつき、白い服を着ていた。髪は白くて、ショートであった。それに俺はずっと男の人格をしているのかなと思っていたが、顔つきがどっちか区別が出来なかった。中性的な顔立ちをしていて、異様に美人である。
「久しぶりにこの形をとりますね。さて始めましょうか」
あれ。まさか戦闘って目の前にいる奴か。いやシステム破壊とかしていいのだろうか。うん。試練だと思って頑張ろうかな。
ロボットは自らの機能を確認するように、動きを確かめるように、体を動かしていた。
「準備がいいですか?」
ロボットと右手には、エネルギーが刃の形を取りながら出現する。俺の準備を待っていたのか。俺は別に準備するのも何もないからな。
「大丈夫だ。いつでもかかってこい!?」
俺がそれを言った瞬間、ロボットが姿を消した。これは前にもあった自らの時を加速する奴かな。
「英雄級スキル加速する時の中」
俺も自らの時を加速させる。しかしそこにあのロボットは見えなかった。俺は突如、後方から強い痛みが走る。
「この程度ですか?」
ロボットは俺の事を煽るように、口を開く。俺は痛みに耐えながら後方をゆっくり振り向く。またHPのストックを削るのは痛いな。俺の背中の傷が治癒されると俺は高速の剣をロボットに振るう。
しかしそれを普通に後方に回避する。これは多分、未来予測してやがるな。あそこまでの高スペックだ。それくらい当たり前に出来て当然か。 それにしてもあの突然現れたのはなんなんだ。あいつの移動手段は別にあるのか。
「さっきので致命傷の筈なんですがね。行動パターンの修正しますか」
ロボットがまた一歩足を踏み込んだ瞬間、姿を消した。透明になった訳ではないな。それなら気配とかスキルで感知出来る筈だ。それがないという事は、別の何か俺の知らない移動手段がそうさせるのか。
俺はまた今度は意識を手放した。全身が一気に細切れのように切り刻まれた。痛みすら感じる暇などなく、俺は意識を無くす。しかしHPのストックのお陰で、普通に体が修復される。
意識を取り戻すと、目の前にはロボットがいた。俺の回復を待っていたのか。
「貴方、本当に生物ですか?」
流石にそれを言われると、耳が痛いお話だ。普通なら細切れになっているのに、普通に蘇っているからな。今の自分は。
「一応、人間だよ。俺は」
誰がなんと言おうが、俺は普通の人間だ。普通でありたいただの人間だ。それは何も変わらない。ただそうだな。今回だけは、普通でありたいという部分を捨てるしかなさそうだな。
そのままではジリ貧になって俺が死んでしまうからな。仕方のない事だ。死にたくはないからな。
「さて本気で行くか!?」
俺は鞘に剣を納める。腰を低くして、息を大きく吸いながら集中力を高める。居合の姿勢を保ちながら、ロボットを待ち構える。
「舐めているのですか?」
あ〜剣を納めたからか。居合とか多分、知らなそうだしな。無知とは恐ろしいものだ。
ロボットは苛立ちを覚えて、また姿を消す。俺にはロボットの移動手段の原理は知らない。なら現れた瞬間、切ればいい。
俺は体が勝手に動く様に、初めてロボットの刃を受け止めた。がパワーと俺の剣の強度が足りなかったのか剣は折れて、一直線に俺の体が一刀両断される。
「俺の体はだるま落としじゃないんだけどな」
俺は体を修復しながら、そう呟いた。
しかし初めて俺は、そのロボットの刃に触れた気がするな。なんて気迫のある力強い一撃なのだろうか。指名を全うせんとする姿勢が、刃にも現れている感じだな。
ロボットはただただ驚いていた。やっぱり刃を受け止めようと触れたのが、信じられなかったようだ。居合という武術体型を知らないと俺もそうなりそうだ。俺からしたら馴染み深い代物だけどな。
しかし相手は高スペックの機械生命体だ。おそらく同じ手は通用しないだろう。結局移動手段の原理を知らないと、刃を受け止めるのすら困難だな。
使いたくないが、使うしかないか。
「唯一級スキル・兄弟剣・アベル・カイン」
俺の右手には赫い剣が、左手には碧い剣がそれぞれ作り出される。ここでこれのリソースを切らすのはあまり得策でない気がするが、ジリ貧になってまでする事じゃないしな。
「誇れ。俺にこのスキルを使わせた事を」
俺がゲーマー時代にこのスキルを行使したのは記憶にある限り、五回くらいだろうか。その五回も、ジリ貧になりそうで使ったからな。基本的にこのスキルを使うこともなく、勝利するのが望ましい事が多いし。このスキルだけは行使するのは躊躇うんだよな。なんかスキル一つで、無双するのとか好きじゃないし。まぁ〜仕方ないんだけどさ。
さてと久しぶりにぶっ壊れスキルの本懐を果たしますか。
ロボットが姿を消す。ただ今回は訳が違う。安心して受け切れる。
『守れ』
俺は左手の碧の剣を手放す。俺の言葉に呼応する様に、ロボットの刃を碧い剣・カインは空中で普通に受け止める。
『斬れ』
俺がその言葉を言うと、碧い剣はロボットの刃を真っ二つに斬られた。
ロボットは後方には下がりながら、驚愕した表情を見せる。
「なんなんですか。その剣は」
なんなんだって言われて答える訳もないだろう。面倒くさいし。
四十二話、最後まで読んでくれてありがとうございます
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