三十九話 第五通路
その音声と共に、一斉に俺に向けて無数のレーザーが放たれる。さっきの古びた劣化したレーザーとは大違いである。
さっきとは速度が段違いであり、二回目、三回目と撃つスパンが短い。連続で放たれている、まるで見たことはないがガトリングガンのように俺に無数に放たれてしまう。
「まずい! 熾天使の守護」
ここでまた神級スキルを使わないといけなくなるなんて、この遺跡難易度馬鹿高くね。
黄金の結界が俺の周囲に展開される。それが俺に向かってきた無数のレーザーから守ってくれた。
MPのストックは全然あるが、これだとHPの方のストックが心配になってしまう。前回の戦闘のせいで、だいぶ消耗してしまったからな。
さて一個ずつ潰すのは難しそうだ。この無数レーザーを掻い潜りながら各個撃破なんてとても出来る事じゃない。出来なくはないが、デメリットが大きすぎる。
ならあれしかないな。それ以外出来ないし。
俺は集中を高める。危険感知、感覚を最大限まで研ぎ澄ます。今の俺はレーザー兵器にしか目標にしてしない。
「合技スキル・ 陽天喝激」
俺の体は燃え上がる。しかし熱くはなく、むしろ奥底から力が湧き上がるような感じである。
力のステータスを限界まで向上させ、剣系の攻撃力を三倍にした上で、全ての剣系の攻撃が遠距離にも届くようになる。速度も上がっており、感覚のパラメータも同時に強化される。それでいて防御貫通効果までこのスキルには乗っかっている。俺がよく愛用していた合技スキルの一つである。
あんなに早かったレーザーが途端に遅くなるように感じる。時間そのものが遅くなったような違和感すら覚えてしまう。
俺は腰を低くする。剣を鞘に納め、居合の構えに入る。
一つのレーザー兵器を俺は目視し確認する。
次の瞬間、鞘から剣を抜き、目標のレーザー兵器へと焔の斬撃が飛ぶ。そのレーザー兵器は見事に破壊されて、またその勢いのまま、斬撃を別のレーザー兵器に飛ばす。
その蓮撃は十五回ほど繰り返して、レーザー兵器は全て破壊された。
五の型・変幻・居合蓮月という剣術名である。これも厨二臭くて昔の自分を殴りたい。
その型の特徴は、居合の速度を維持したままその勢いを殺さずにあらゆる方向から斬撃を放つというものである。
これの難しい所が、手の関節が明らかに柔らかくないと勢いを殺して力任せに振ってしまう所があった。関節を柔らかくして剣の勢いに乗ったまま方向を変える。集中力を極限まで高めないといけないという部分もあった。
それにしてもさっきの遺跡みたいに劣化してないところをみると、この遺跡は他の世界と空間的にまた隔絶としているのだろうか。そうじゃなきゃここまで綺麗な事に説明がつかないからだ。
そして俺が出てきた転送陣の横の壁に、第五通路と書かれていた。
なんともシンプルで分かりやすいネーミングセンスなのだろうか。第五通路という事は、五番目の通路という事であろうか。その通路の名前とは別に地図のようなものがあり、それによるとこの第五通路は進んでいくと居住区画になっているようだ。つまりこの遺跡を作ってた生活体形を、様式を調査できるという事である。
俺はその通路を進もうとするが、機械音声がこの通路に響く。
「無許可存在を認識しました。居住区画の生物は警戒、避難をしてください。避難を、行わない場合――侵入者撃退用の造魔兵器により抹消される恐れがあります。お気をつけください。それでも抹消をお望みなら止まる事をお勧めします」
この遺跡、機械音声を作成した人間は、人の心がどうやらないようだ。要するに死にたいなら大人しく俺の作ったゴーレムに殺されろという事か。ていうかゴーレムという事は、侵入者とそれ以外を区別するように行動ルーチンを組んどけよ。いやだからこそ人の心というものを知らないのかもしれないな。
そんな音声について考えながら第五通路を進んでいくと、その侵入者撃退用の造魔兵器が格納庫のような場所から、蟻のようにワラワラ湧いて出てきた。
人型の遺跡の建材の材質と同様の頭部や四肢、胴体がよく分からない力により分離しており銃のような物を持っていたり、剣を持っていたりと色々だった。
「侵入者を確認。排除します」
機械音声で、そのゴーレムくんは俺の事を確認した。認識した瞬間、近接系ゴーレムが姿を消した。背後に危険を感じた。それも今まで感じた事ないほどに。
その近接系ゴーレムがいつの間にか背後にいた。それを俺が気づいた時には既に遅かった。剣が俺の胸元に突き刺されていた。速さという概念を突破しており、俺がそれに気づきやっと痛覚を自覚する。
他の近接系ゴーレムも追い討ちを掛けるように、俺に刃を突き刺した。
「イッテェな!?」
俺は血反吐を吐きながら叫ぶ。それは俺が興奮した事に他ならない。笑うところでないところなのに、口角が無意識に上がってしまう。
ただHPのストックを一つ消費してしまったのは大きいな。それにしてもこの俺が背後を取られるとは、少し油断していたな。俺を傷付けたんだ。誇れよ。機械の分際でな!
「神級武器作成・ムスペル」
俺の右手が太陽に包まれると同時に大剣が作り出された。太陽が、炎という概念そのものが形作り出された恒星を象徴する大剣がそこにあった。
「巨大エネルギーを確認。回避します」
機械音声がいちいち危険察知して避けようとしてるんじゃねぇよ。今更おせぇよ。
「合技スキル・時泣き領域」
俺の認識は、時間が止まったかのように見えた。やっぱりか。このゴーレム共。自らの時間を加速させてやがった。そりゃ俺ですら背中を取られるわけだ。
「薙ぎ払え!?」
俺は重たい大剣を横に一回転するように振った。その瞬間、俺を襲った近接系ゴーレムの胴体は真っ二つに溶けた。俺の命を一つ削ったんだ。これくらいは仕方ないよな。
「おっと!?」
俺はバックステップをする。遠距離にいた銃ゴーレムが俺を狙った。さっきのレーザー兵器とはまた違うようだ。実弾を飛ばしやがった。それも標的を狙うホーミング性能付きかよ。
あり得ない角度で曲がり、俺に銃弾が向かってくる。また面倒くさいな。
「合技スキル・反音反射」
俺の前方に透明な六角形の壁が展開される。銃弾がその壁にぶつかると勢いを無くして床に転がる。
「返してやるよ」
その壁から今度は同様の銃弾が生成され、さっき撃ってきたゴーレムに標的を絞る。それが発射され、前とは段違いな速度だった。 瞬時に銃ゴーレムは銃弾に当たり破壊された。
「侵入者の攻撃パターンを修正。完了――――次に移行」
またゴーレムが天井から急に現れてきた。ていうかこのゴーレム全体が、何かしらのネットワークを形成しているのだろうか。要するに常時成長する侵入者完全撃退システムが組まれてるのか。そして延々と出てくるゴーレム。
俺のスタミナ、リソースが切れるのが先か。それともゴーレム共が俺の事を排除出来ないと判断するのが先か。楽しみだな。
今度は空中にて二丁のガトリングガンのようなものを装備しているゴーレムが現れる。さっきは単発式で、ホーミング性能という外敵を確実に最小限で排除するという事を目的としていたようだが、それでは駄目だと、バ火力と手数で押し切るという脳筋思考になったか。
無数のホーミング性能のある銃弾が、俺に発射される。完全にミンチにする感じじゃないですか。やだな。
「しかし浅はかだな。俺を倒すのに手数で押し切れるだろうという安易な事をしていた奴なんて何百人と居たんだよ」
俺のそん時の結論はこうだ。結局相手を潰せば、手数なんてどうでもいいんだと。手数を一つずつ確実に、消していけば結局意味を成さないんだから。




