三十七話 ダンジョンの遺跡
さてとこのスポンジ野郎どもはどう対処したらいいんだろうか。
このスポンジ野郎の触手の攻撃速度はそこまででは無い。普通に受け流せるような部類である。
ただ叩き切ろうとしても、手応えはなかった。少し前のアディオさんのような感じに思えた。
そしてどうやってオレを感知しているのだろうか。
興味が尽きないな。全く。
俺は触手攻撃の合間の隙をついて一気に俺の剣の間合いにまで接近する。剣により斬りつけようとしたが、やはり触手と同様の手応えのなさだった。そしてそのスポンジは、触手による攻撃を止めて棘のようなものを形成して俺に飛ばしてきた。
至近距離だと、攻撃手段を変えるのか。なかなか厄介な魔物だな。
俺はなんとかギリギリの所で、軸をずらしながら回避する。そして俺は一か八かの賭けに出る。
「合技スキル・花弁散紙」
俺は息を一気に吸う。俺は脚に力を込めて踏み込み、右の拳を深く引く。そして俺の右の拳を息を吐くと同時にスポンジに向けて打撃を喰らわす。
むにゅ〜という嫌な感触と共に、スポンジは破裂した。俺の右手はそのスポンジの体液でびっしょりと付いた。
やはり拳などの打撃が弱点か。俺は別のスポンジにと標的を変える。
さっきと同じ要領でスポンジに攻撃したが、今度は破裂しなかった。また別の感じで、受け流されているようだった。
「どういう事だ?」
多分であるが、最初の相手の攻撃手段で形態というか受け流すのを変えるという事なのだろうか。
そう推測して、俺は剣でスポンジ野郎を斬った。スポンジは普通に真っ二つに斬れた。それと同時に二つに分かれていたスポンジは破裂した。
俺は後方にバックステップをして回避する。なんとなくだが、あの体液を全身で浴びてはいけない気がする。
そうして俺はスポンジ集団を同様の手順で、殲滅していった。と思ったが、地面に生えていて無害に思えたスポンジが顔を出す。
「マジかよ。いや弱肉強食か」
このスポンジは地面から手や足を出した。それは腐っているが、人の亡骸だった。いや厳密に言うと、スポンジに寄生されてしまった元人間だった。
脳に寄生するタイプのやばい魔物かよ。俺も一歩間違えると、ああなってしまっていたのか。
「あはははははは」
金切り声のような高音を出しながら、この寄生スポンジは俺を襲う。手もそのスポンジと同じ性質なのか触手となって俺に伸びる。
しかしさっきと違うのが、ものすごい速度の身体能力で俺に接近してきた。
スポンジに寄生されると、その性質に寄生元を変えるようだ。それはつまりあの弾力性だったりが、人の体、全身を変えているという事になる。それに痛覚なんて元よりないから、限界なんて知らずに筋力のリミッターを外してやがる。
攻撃速度や威力がさっきとは段違いになる。俺は受け流しかなくなり、接近する事が難しくなる。
いやなんとか接近は出来るとは思うが、攻略手段が見つからない。
全身で攻撃に対応した受け流しを出来るというのは厄介だな。
しかしなんとか近づき、拳をその寄生スポンジに振るった。
「すまんな」
そのスポンジに言った訳ではなく、寄生されてしまった体の持ち主に俺は言った。
そしてその体は爆散して、紫色の体液が飛び散るがなんとか回避する。
やはりスポンジと同様の性質に変えられていたせいか全身が体液と共に爆散した。
これがダンジョンの洗礼か。こういう嫌な魔物とも戦わないといけないのか。
俺はスポンジ集団を抜けた。そして地面をコンコンと叩くと、中が空洞なのか音が響いた。
「ここだな」
俺は剣で地面を叩き斬ると、人為的に作られていそうな遺跡が地面の下にあった。
探知のスキルにより、下に人為的な遺跡がある事は把握していた。
高さは結構あるが今の俺の身体能力なら平気だろうと、俺は穴に落ちた。
「それにしても凄い遺跡だな」
どんなエネルギーで動いているのか分からない光が辺りを照らしていた。
それにしてもここまで着くのに難易度がおかしいと思った。他の常人なら何回か死ぬレベルなのではないかと疑う程だった。
森全体が魔物だったり、人に寄生するやばいスポンジだったりと、まだ二種類しか遭遇してないが、冒険者達はこんなの相手にしているのだろうか。
「疲れた。ここなら少し休憩していいだろうか」
俺はボソッと呟き、材質の分からない遺跡の石に腰掛けた。
地下にあるせいかひんやりとしていて気持ちよかった。光がきちんとあるし、洞窟ということもあるので音が響きやすいから敵が来ても察知しやすいしな。
それにしても遺跡の入り口がある方とは反対側に泉のようなものがあった。
「飲んでも大丈夫かな?」
一応確認しとくに越した事はないな。
「材質検知」
この泉の水は奇妙なものだった。絶対自然界には存在しなさそうな代物であった。
その水は栄養価は高すぎて、これを少し飲むだけで一日の栄養分を全部網羅してそうなそんな飲み水だった。毒素は一つとも入っていなくて、完璧な飲み水であった。
「おいおいなんでこんな頭おかしい水があんだよ」
とりあえず俺は一口だけ飲む事にした。別に毒も、人体に害になりそうなものは入ってないので大丈夫だろう。
俺は手でその水を掬い、口に入れた。
その水は甘じょっぱくて、これでいて濃厚な風味が口全体に広がる。肉のような香ばしさもその風味には含まれており、白身魚のようなあっさりさもそこにはあった。
この世の物とは思えないような飲み水だった。これは確かに栄養価がおかしい訳だ。一口飲んだだけなのに、不思議とお腹が満腹になっていた。
これだけで食料問題とか解決出来そうなやばい代物のような気がする。
それにこの水が、この世界を水路のように、自然のサイクルのように、循環しているとしたら確かにあんな植物の枠組みを超えた変な魔物が出来上がるのだろうか。
「とりあえずこの飲み水は回収しとこうかな」
『初級道具作成・空き瓶』
俺の手元にごく普通の大きさの空き瓶が作成される。そしてその空き瓶にこの泉の水を一杯になるまで掬った。
「これって外出たら蒸発とかしないだろうか」
この特殊な環境のみでしか液体として存在出来ないような物なのか少し不安になってしまった。
うん。これを持ち帰って合格にして貰おうと考えたが、液体ということもありデメリットが大きいので普通に遺物のようなものを探す事にしよう。
「それにしても満腹になるだけじゃなくて、少し力が湧くような感じがするな」
この飲み水には、何かしらの効果があるようだ。力が奥底からマグマのように湧き上がっているような気がする。
それに疲労も完全に取れているようだ。疲労すら無くなるとかこの飲み水は万能すぎる。
何故あの世界ではこの飲み水は普及しないのだろうか。不思議と違和感を感じてしまう。
いやこんなもん普及しても、世界バランスがおかしくなるか。
俺はとりあえず不格好に背伸びして、休憩を終わらせて立ち上がる。
「こっからが本番だな」
俺は遺跡の入り口らしき場所に行く。そこは奇妙な人の形をした彫像が沢山囲むように並んでおり、その彫像の手には、浮遊して光っている石を掲げていた。
「なかなか不思議な石だな。貰ってもというか取ってもいいのかな」
その先、光源があるとも限らないしな。一つだけ拝借しよう。
俺は一つの彫像の石を取った。罠があるのかなと若干、警戒したがそんなものはなかった。
「銅像が動くとかないんだな」
俺は少しがっかりしてしまう。結構ありきたりなイベントだからあるのかなと期待してのこれである。
「まっいいか。進むか」
俺は遺跡の中に歩みを進めた。
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