三十六話 未知の世界に興奮を覚えました・・・
俺はワープゲートを潜ると、そこにあったのは広大な世界だった。
俺はそれを目の前にして唖然とした。俺の想像を遥かに超えていた景色だったからだ。俺が想像していたのは、薄暗い洞窟だったり、古代の遺跡だったりとしたイメージだった。
しかしそれとは全く別であり、木々や草は生い茂り、鳥達はチュンチュンと鳴き声が聞こえてきた。ただの森林といった光景だった。ダンジョンと呼ぶにはあまりにも、場違いな世界だ。
上を見上げると、恒星がこのダンジョンを照らしている。
ダンジョンという定義が、俺の中でボロボロと崩れていっている気がした。
辺りを見渡しても、人は確認出来ず、ここでならスキルを使用しても問題ないだろう。
「探知」
周辺地形をとりあえず把握する事にした。うん。完全に森である。
森でしかない。こんな所で、何を見つけろと言うのだろうか。
ただ一つ分かったのが、広大過ぎる場所ではあるが一定以上行くと、区切られているような感じだった。つまりこの広大な場所の範囲は見た目より限られているという事だ。
空間が丸ごと、世界が丸ごと、区画分けされているようなそんな風に感じた。
なんか神がかっている世界だな。そんな風に感心してしまった。
軽く俺が歩くと、森の中にと入っていく。遠目から見たら普通の森だったのに、中に入った瞬間、雰囲気が一変してしまう。先程まで緑一色の光景だったのが、紫だったり、青色だったりと、木々が変色していく。それは俺という侵入者が入ってきたのを、察知して危険信号を発していたように思えた。
樹木達が風もない筈なのに、騒めき、ガサガサと葉っぱが揺れていく。
こっからが本番だと、俺は気を引き締めていく。この先は完全に別の世界、未知の世界だとワクワクしながら草を足で踏み締めた。
「それにしても不自然なまでの森だな」
俺はついボソッと誰もいない中、口が無意識に開く。
外敵を察知して色が変わる樹木なんて不可思議以外のなんでもない。それはここの樹木達が、生物なのではないかと思ってしまった。
そして俺は落ちていた枝をバキッと踏んだ。その瞬間、キィィィーという音が何処かしらから鳴る。俺は周辺警戒を強めていく。
地面の下から、一瞬危機を感じた。それは殺意とかではなく、機械的に外敵を排除するようなものに感じた。
俺は後方に跳躍した。さっきいた地面から根っこがまるで俺を貫くように延びていった。
「おいおいおい、どうなってんだよ」
俺は冷や汗を掻いてしまう。さっき俺が後ろに飛ばなかった瞬間、体を貫かれていたかと思うと、ゾッとする。HPのストックはなるべく減らしたくないしな。
それにしてもさっきは枝を踏んだ結果、こうなったていう事か。足音とかの音で反応した訳ではなく、あくまで枝を踏んだから反射的にこの森が反応したと考えるのが自然か。
つまりこの森が養分にしているのは、酸素や光などではなく、外敵の栄養分を吸収しているのか。なかなか恐怖を煽られる。
いっそこの森を全部薙ぎ倒そうかな。いちいち枝とかを注意しながら進むのは、面倒くさい気がする。
いやそれをやっているなら、誰かしらの冒険者がやっているか。樹木を攻撃するのもデメリットがあるのか。
「とりあえず、少し斬りつけてみるか」
試しに斬ってみる事にした。そのままこの樹木の生態が分からんままだと、俺の命の危険にも関わるからな。情報はあるに越した事はないな。
「初級武器作成・ナイフ」
俺の右手に、ナイフが作り出される。なんの変哲もないただの新品のナイフである。
俺は目の前の樹木の幹をナイフで切った。ザクっという音ではなく、グチャという音が鳴る。
手応え的には普通の木と変わらない筈なのに、グチャという肉とかの生物のような感じの音が鳴るのは不自然だった。
それと同時に黄色いような緑色のような液体が、樹木から流れていく。その液体からは、今まで嗅いだ事ないような独特な匂いがした。
その樹木の枝が、俺に鞭のように襲いかかる。そして周辺も同様に、一斉に襲いかかってきた。
あ〜成程。だから木々を薙ぎ倒さなかった理由か。そりゃこんなに一斉に襲いかかられたら命がいくつあっても足りないな。
まるで森一つが生き物で、同一存在かのようだな。だから樹木一つ襲うという事は、森全体を敵に回す事になるのか。
数百という樹木が、俺という生物に襲いかかる。枝から根っこまで全体的に攻撃手段として使う。
俺は両足に力を込めて屈む。バネの要領で瞬時に飛び上がる。異世界に来た時から思っていたが、俺の身体能力はアースガルドの世界の時のステータスと変わらないらしい。だから子供の体ながら常人を超える力を発揮出来る。
『探知』で分かった事だが、縦と横は制限があったが、高さは別に制限はなかった。だから伸び伸びと跳び上がれる。空は空色で何も他の世界と変わらないんだな。ここは。それだけ観ると綺麗だと思う。
「おいおい――――」
俺は冷や汗を垂らしてしまう。それでも全力で力を込めて跳んだんだぞ。普通に樹木の攻撃の速度は追いつきそうになっていた。
それにしても樹木ね……………………。
俺は考え込む。まさかねと少し試してみるか。
「合技スキル・付与・陽転核撃」
俺はナイフにスキルを付与する。ナイフの刃に炎が灯る。それは極上の太陽が形成されていく。太陽の刃が延びていき、大剣に姿を変えていく。
「おらぁぁぁ!?」
俺の雄叫びが森に響く。それと同時に重たい巨大な大剣を森全体を真っ二つになる勢いで振るった。森は縦に焼くどころか溶けていく。地面すら溶解していく。
「ぎぎゃーーーーーーー!?」
森が激しく悲鳴をあげる。それは俺の鼓膜すら破りかねないものだった。急に樹木の攻撃が止む。森は先ほどの色々な色から変わり、無機質な燃え尽きたように灰色になる。
「やっぱりな」
森は一定以上ダメージを与えるか、火に弱く、その類の攻撃を受けた瞬間、休眠状態になるようだ。これで回復するまで何もしないだろう。
あと多分本体の方は地面の奥深くに潜んでいるが、手出しはしない方が賢明だろう。そもそもここまで巨大な森林を形成するような奴だ。どんな魔物か想像は出来ないが、ロクでもない位には強いと思う。だからこの森林自体を消滅させる選択肢は選ばない方がいい。
初心者はこの森林に行く事は危なくて迂回するのが基本的なのだろうか。それか事前に松明だったり火に関連する物を持ち歩くとかだろうか。アディオさん、そこら辺は教えてくれよ。マジで。死にかけるところでしたよ。
とりあえず前に進もうか。俺は灰色の森林地帯から急いで抜け出すように走る。いつ休眠状態が解除されるか分からんからな。それにさっき斬った筈の地面すら最早再生されているしな。
俺が森林地帯を抜けると、そこは紫色の大地が広がっていた。いやそれにしても毒々しい色だな。本当に。
ただ空気も、触っても、毒のような害意はなかった。普通に色素が紫色だけのようだ。ただここでも不自然だったのが、紫色のスポンジのようなものが、浮いていた。それはただ植物みたいにただ生えているかのように思えてしまった。
浮いているのになんでそう思ってしまったのか分からなかった。ただ俺の勘が危機感をそう察せてしまう。
「休憩地点みたいなものはないのかよ。この世界は」
そのスポンジは、養分として俺を感知していた。眼も鼻も、五感がないのに俺の事を察知していた。次の瞬間、スポンジから触手が俺を襲う。
「本当に飽きないな。この世界は!?」
俺は産まれて初めて、高揚感を覚えていく。
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