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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
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三百ノ六十一話 星々の神・・・

エレルは杖に魔力を籠める。周囲の空間が歪み、隕石が降り注ぐ。魔法名すら唱える事なく、大規模魔法を意図も簡単に解き放った。



 エレルが唱えた魔法は、『ネビュラ』。空間転移にて、隕石を呼び寄せる大規模魔術魔法である。かつて大昔エレルが開発した魔法の一つである。その一つだけで国々が脅威と容易に認定したのに、数日も掛からなかったという。



「龍王・突風」



 ムディナが龍剣に闘龍気を籠め、薙ぎ払うように振るう。降り注ぐ隕石が、吹き荒れる風により方向を変える。隕石は明後日の方へ行き、宇宙の彼方へ消え去った。



「やはり……………………この程度では駄目か。あまり舐めない方がいいな」



 エレルは黒き杖をトンと、地面にぶつけるように振るう。地面にある土粒がムディナの周囲に浮かぶ。それは一種の光へと姿を変える。それにムディナは嫌な予感がして、距離を取る。しかしそれだけで間に合う程の規模感を、エレルは有してはいなかった。



 それは質量の暴力。核分裂を引き起こし、無数の大爆発を引き起こした。この土の粒一つ一つが、星なんて容易に砕きかねない程の爆発を持っていた。



「龍王・光鱗」



 後方にいるエリナスを護るように金色に光り輝く龍の鱗で、周囲を囲むように結界を展開する。それは核分裂を引き起こすビッグバンの光はエリナスとムディナには届かなかった。



「ふむ…………龍王としてのこの星の加護か。容易に貫けまいな」



 エレルは漆黒の杖を、前に掲げる。眼を閉じ、魔力を籠めて念じる。その動作にムディナは嫌な予感と危機察知が、警鐘を鳴らす。明らかに普通の魔力の使い方でも、魔法の動作とは違ったものだったからだ。



 それは無詠唱魔法のようなものではなく、もっと根本的な魔法であった。



「避けろ!?」



 ムディナがそうエリナスに木霊するように、大声で叫んだ。それだけムディナが冷静性を欠いて、叫んだ。その事実だけで、容易にヤバいのだと、危機を察する事はすぐさま出来た。



 しかしそれでもエレルからしてみれば、行動が遅かった。もう念じている時点で、既に攻撃は終わりを迎えていたからだ。



――――――――貫け――――――――




 そう念じただけだった。二人の体には、既に空気が通り抜けられるような大きな穴が空いていた。避けようが無い不可避の一撃。ムディナの龍王や無限の力、エリナスの歌と音の加護の魔法の力。それのどれもが通用しない概念的な言葉による攻撃であり、事象。




 ムディナは掠れた視界の中、纏まらない思考力に手必死にある結論が導き出される。



源流(オリジン)・・・・・・魔術(マジック)・・・・・・」




 ムディナは血反吐を吐きながら、苦しそうな声色で言葉を発した。今すぐにでも、気を張らないと自らの命の灯火が消え去りそうである。むしろ自らの体に大きな風穴が空いているのに、未だに生きている自分がどうにかしてるとすら思えてしまう。



「流石、愚鈍な星から認められた龍王と言ったところか。源流魔術を知る者が、この現代に未だいるとはな」



 あらゆる魔力を扱う力で原点にして、あらゆる事象を引き起こすとされている。それが源流魔術(オリジン・マジック)という術である。遥か昔、遠く遠く、人々が未だ存在せず、神々だけがそこに存在していた神代の時代にそれは生み出されたとされる。しかし神々が使っていたという記述はなく、それを生み出し、扱った存在が居たという記述のみが物語にて記されていただけである。




「やはり知らぬか。この魔術を扱った者と世界と人の仕組みは」



 エレルはそう落胆するように、意味深な言葉を口にした。その言葉が何を意味しているのか、ムディナには理解が出来なかった。ただそれが何かしら重要な意味を、持っているのだろうとも予想が出来た。




 そのような状態とはいえ、二人は普通に息をしている。普通なら、普段なら有り得ない事である。しかし二人はその程度で、命を失う事はない。



 ムディナは無限の力で、自らの肉体を瞬時に回復する。さっきまで自分の体に風穴が空いていたとは思えない程に、綺麗に肉体は修復されていた。




 問題はエリナスの方であった。ムディナが振り向くと、そこには何事も無かったかのように立っている彼女の姿であった。どうやら魔素吸収体質の影響で、肉体の損傷は即座に回復する事が出来たのだろう。



「普通の存在なら、自分の体にあれだけの穴が空いていたら事きれるものなんだがな。まるで不死(アンデット)にすら、思えてしまうな」



 魔素吸収体質というのは、魔素がそこに存在するだけで魔力へと変換され上限などなく吸収する体質である。それは肉体を瞬時に修復されるのもその影響であった。つまりエリナスは、魔素がそこに存在してる限り、肉体による損傷、精神や魂に至るまで、あらゆる損傷を完全な形で瞬時に自動的に回復する事が可能である。



 ムディナは脚に力を込めると、龍剣の間合いまで近づく。エレルは生粋の魔法使だ。それが意味するのは近接戦闘が弱点であり、剣の間合いまで詰められると対処が難しくなるという事だった。



 歌による身体強化の加護は、既にムディナに掛かっている。だからこそいつも以上のありえない速度を叩き出し、数倍、下手をすれば数十倍の身体能力を発揮する事が可能だった。




 そこはエリナスによる匙加減一つで、簡単に肉体的な制限を取り払う事が可能だった。



 エレルは指を鳴らした。その瞬間、光速を超える星々の力で作り出された光線が、ムディナを貫こうとする。それをムディナは察知して、身を捩らせ回避する。一点集中であり、何処に当てようとしているのか戦闘経験にて勘だけで分かっていたようだった。



「終わりだ。龍王技・炎刃・焦怒(しょうど)



 炎を纏った龍剣を、ムディナは横に薙ぎ払う。それが広範囲に及ぶ炎の海となり、辺り一面を焼き尽くす。それはまるで怒り狂った龍が、地面を炎の吐息にて焼き尽くしているかのような光景に思えた。



 明らかに広範囲から逃れる事が出来ず、防いだり、範囲外への回避などの余裕すら無い。ほぼ確実に当たったとムディナは確信すらあった。



 そこにあったのは消し炭となったエレルの姿であった。それを見たムディナは、世界の危機を脱したのだと安堵する。しかしそれでも最後まで気は抜かなかった。エレルには魂を入れ替える禁忌の術を持っているからだ。



 その魂を消して、ようやくこの異変に終止符が打てると言ったところだろうか。しかし一向に消し炭となった肉体から、魂が抜け出していく様子が無い。



 それが意味するのは、未だに終わりではないという事実だ。



 ――――――――――――ドクン



 この異質な世界の空間が揺れるように、それでいて心臓の鼓動のような音が響き渡る。黄金の星の力が、その消し炭となった肉体に収束していっているようだ。



 ムディナは激しく嫌な予感がした。その予感がした時には、既にムディナの体が動いていた。龍王としての力が、それだけは止めなくてはという警鐘を発していたからだ。それはもはや星の危機というものですらなく、もっと根本的に星が恐怖しているという現れであった。それが伝播するように、星柱としての龍王に流れていってるに過ぎなかった。



 ムディナは龍王の力と無限の力を最大限に龍剣籠めて、振るった。



「龍王技・九式・滅業無龍限」



 その危機感の中、ムディナはその炭となった肉体と魂目掛けて剣を振るった。透明な龍が際限なく現れて、エレルであった亡骸を貪るように食い荒らす。それはエレルという存在そのものを喰い殺すまで、終わりはしない。無限と龍王の力が生み出したムディナによる絶大的な本当の奥義と呼べる技であろう。



 しかし透明な龍達は、姿を消した。そこにいたのは、エレルであり、エレルですら無い存在。存在そのものが、魂としての格が変わり、そこには別の何かが空中に居た。



「ようやく昇華されたか。ありがとう。それで私は忌々しいこの世界を変え、新たな星々の神となれるだろう」



 そこには輪郭がハッキリしない、黄金の神の力にて存在しているエレルの姿があった。肉体が、精神が、魂すら見えない。まるで世界が、星が見る事すら拒絶しているようだ。理解が出来ず、本能が目の前の存在を見る事を許しはしない。



 それだけ本物の神の姿を、ムディナは目の当たりにした。

三百ノ六十一話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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