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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第二章 遺跡の町は浪漫に満ちてました・・・
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三十五話 第三試験開始です・・・

アディオさんが休憩ベンチから勢いよく立ち上がり、俺の前へと立つ。




 どうやら第三試験の説明を始めるようだ。第一試験も、第二試験も、ロクに説明もなかったのにこの第三試験は、普通に説明するんだな。それだけで前回、前々回の試験より難易度が段違いなのだろうか。





 そんな嫌な予感が、ヒシヒシと全身を覆い尽くすように感じてしまう。そんな事を露知らずに、アディオさんは普通に説明を始めようと口を開いた。




「今回の試験で、最後だ。成績次第では、C級クラスの冒険者資格を渡す事になるよ」




 第一試験も、第二試験も、あくまでも品定めという訳か。スーパーなどで買い物する時に、野菜や肉の質を、眼で品定めするかのようなものか。それが当たり、外れかをある程度予測して、第三試験でそれが分かるような感じか。




 中々面白くなりそうだ。それもC級から開始となると余程、その試験結果により左右されやすいという点も大きいようだ。ただ一つ思ったのが、その試験の難易度はかなり高い可能性があるな。




「ダンジョンに入ってもらう。冒険者としての、一番の醍醐味だろ?」




 だと思ったよ。そうだろうと考えてました。第一も、第二もあくまでその第三試験の前準備といった所だからな。

 ただぶっつけ本番で、俺は大丈夫なのかと不安になってしまう。




 しかしダンジョンに入ると言っても、入り口に移動するのだろうか。その街の中心にそれらしいものがあるらしいが。




「ダンジョンに入って、何か持ち帰ってこい。それだけだ」




 意外と曖昧な試験内容だな。結局。具体的な説明があるなと期待した俺が馬鹿だった。あれなの? アディオさんは少し頭が足りないのかな。いやあの感じはあまり説明するのが、面倒臭いタイプか。言葉より感覚派的な感じか。




 言葉より行動により示せとかそんなのが、アディオさんのモットーだったりするのかな。




「分かりました」





 俺はそれだけ口にした。しかしアバウトだが、実質単純で、簡単な説明だ。要するにダンジョンに入って何か持ってくれば合格という事か。




 ただ持ってくるものにも、評価に関わるだろう。そこら辺に転がっているような物持ってきても、多分不合格になりそうだ。つまり自らの目利きで、持ってくる物の質を見極めろという事かな。




 そういう意味では中々難しい試験ではありそうだ。何しろ俺は、この世界での常識は、素人中の素人だ。どんなものか良くて、どんなものが珍しいかなんて分かるか怪しい所だ。そういう意味では、俺だけ結構な難易度の高い試験内容なのではないかと思ってしまう。




「それでダンジョンまで案内してくれますか?」




 俺はそもそもこの遺跡の街に来て、まだ一日も経ってない人間だ。出来ればこの街について案内してほしいくらいだ。




 アディオさんなら、何年もこの街に住んでいそうだし案内してくれるのはめちゃくちゃ助かるからな。出来れば案内してくれるとめちゃくちゃ助かるな。うん。そんな期待感を俺は胸に抱いていた。




「その必要はないよ」




 アディオさんはキッパリと口にした。いやどういう意味だよ。まさかよく分からん言葉で、断られると思わなかったよ。




 そんな俺の期待感は、儚く散っていってしまった。





「だってこの庭に、入り口があるし」




 アディオさんはこの庭に、ダンジョンの入り口があると言ったが、それらしい物は見渡しても見当たらなかった。



 一応見逃してしまったのかと思い、もう一度辺りを見渡しても周りにあるのは草木と休憩用のベンチくらいなもんだった。




 どういう事なのかさっぱり俺には理解が出来なかった。




「すまんな。厳密に言うと入り口が出来るが正しいか」




 うん。それでもいまいち理解には、程遠かった。入り口が出来るという事は、つまりこの庭にダンジョンの入り口を作る、もしくは召喚するみたいなものという意味だろうか。それなら合点がいくが。




「とりあえず考え込んでしまっているようだし、ダンジョンの入り口を召喚するね」




 やっぱり召喚だった。そういう魔法でもあるのだろうか。なんかそれだとダンジョンの浪漫が、薄れてしまってそうだが。そんな安直に、出入り出来るなら楽な気がする。




 そんな風に俺は、アディオさんを白い眼で見ていた。




 アディオさんが取り出したのは、何やらよくわからない小物のようだった。渦を巻いているような模様に、巨大な一本の樹木のような模様、そして先端には雲の上に人が乗っているような、そんな何を表しているのか分からない模様が彫られてる細長い奇妙な造形だった。




 それがダンジョンとどういう関係があるのだろうか。





「これはね。ダンジョンから見つけた物なんだけど、空間と特定の入り口を繋げるアーティファクトの魔道具らしいのよね」




 つまりワープゲートのようなものを生成するのだろうか。それにしても変な物に見えてしまうが。普通なら鍵のような造形にしろよ。なんで塔の模型のような物なんだよ。




 これを作った奴は、おそらくセンスが欠けてそうだ。うん。




「あと特定の位置でしか、これが使えないらしいのよね」




 つまりその特定の位置というのが、この庭という訳か。それなら理解が出来てしまうな。




「とりあえず入り口、召喚するね」




 アディオさんは、その小物を地面に突き刺した。どうやら地面にワープゲートを作るようだ。




「我、古代の遺物に入る事を願う。その手で、道を切り開くことを許したまえ。それが先へと繋ぐと誓う」




 アディオさんは、その小物を詠唱のような物で起動させる。アディオさんの魔力が、その小物に注がれているのがなんとなく感じた。それが地面へと流れていっているような気がした。




 そして次の瞬間、異変が起きた。この庭だけ、地響きのような揺れが発生する。それと同時に、アディオさんの目の前の地面から、生えてくるように丸い遺跡のようなものが現れた。




 いやそれは予想外なんですが。空間に直接、ワープゲートが生成されるか、地面にかと悩んでたんだけど。まさか直接遺跡そのものの入り口が、地面から生えてくるなんて予想出来なかったんだけど。それも地響きと共に。




「どうしてこうなった…………」




 ロマンもクソもない気がした。いや浪漫ではあるんだけど、なんか俺の求めているロマンと違っていた。

 そんな風に白い眼をして、俺は唖然としていた。




 しかしその遺跡は、きちんとワープゲートの役割を担っていた。どうやら空間そのものが、この庭とあっちで完全に隔絶されているかのように眼に見えて歪んでいた。




「あっちから確実に、ダンジョンですか――」




 俺は息を飲みながら、気を引き締める。それは未知の世界。何が待ち受けているか、分からない異なる世界だ。




「怖い?」




 アディオさんは俺の顔を見て、そう質問を投げかけた。




「怖くないですよ。むしろ今、凄く興奮しています」




 俺は右手を強く無意識に握ってしまう。それはその先の景色への期待だった。




「そうなのね。よかった」




 アディオさんは、俺の顔をじっと見つめていた。何か俺の顔に付いているだろうか。




「どうしたんですか?」




「いや昔の私の顔をしているなと思ってね」




 俺は今どんな顔をしているのだろうか。気になるところだが、多分遺跡に浪漫を求めている顔をしているのだろう。




「それじゃ第三試験、開始!」




 アディオさんは、試験開始の合図を口にした。




 それを聞いて俺は、ワープゲートに右脚を突っ込み、全身が、その遺跡に導かれるように引っ張られる感覚を覚えてしまう。




 ワープゲートは、歪んだような円形の空間で、それを一歩ずつ歩いた。そして先に光が見えたのでそれに向かって進んでいった。

三十五話最後まで読んでくれてありがとうございます



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