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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
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三百ノ五十話 白き世界・・・

ホワイトは突如、ムディナとの間合いを詰める。白き光を身に纏い、光を超える速度を出していた。普通なら反応する事すらままならないまま、白い剣に貫かれて終わりを迎えるだろう。



 しかし力の流れが見えているムディナには、簡単に対処出来るものであった。龍剣を強く握り、闘龍気を込めていく。



「龍王技・二式・烬照」



 黄金の炎は眩く光り輝くと、その光がホワイトに到達するとその身を焼いていく。その炎は審判の光であり、炎である。悪であり、異常であると判断した場合に邪悪なる者を全身を焦がすのだ。



 痛みを感じた瞬間、ホワイトはムディナとの距離を取る。下手に近づくと、自らの身が持たないだろう。それに加えて、白き力が上手く発動しない。まるで水が流れている筈なのに、堰き止められているような感覚だった。



 白い肌が黒く変色していた。先程の黄金の光に肌が焼かれたのだろう。ヒリヒリとした痛みではなく、内部まで焼かれているような途轍もない痛みが走っていた。



 黒くなっている左手を押さえて、白き力を行使して白く淡く輝いていく。しかし焼かれている部分は、白き力で回復する事なかった。別の理が働いているとしか思えない程に、何も効力が発揮しなかった。



 痛覚を白き力にて遮断する事で、左手を無理やり動かすようにした。常人なら決して動かす事が出来ない火傷だがホワイトには関係なかった。



 この程度の痛み、既に経験済みである。腕だって取れた事がある。何度も死に掛けた事すらある。しかし白き力は決して命を失わせる事はなかった。気を失う事すら許さないこの力は、良い『モノ』ではなかった。何度も死にたいと思っただろうか。何度も気を失いたいと思った事か。何度もただ眠りたい、元の世界に帰りたい。何度も何度も何度も何度も、ただいつもの平和な日常に戻りたいと思った事か。



 その想いに白き力は呼応するかのように、増幅する。無かった事にしたい全てを、この力は応えてくれるだろうか。真っ白に染めたくて、白く消し去りたいこの想いを誰かに分かってほしい。この願いを叶えてほしい。



「君らの境遇は理解出来る。決して『良い』事では無かっただろう。異世界に飛ばされ、戦いに参加する事を強いられ、魔王を倒したかと思えば、現地民に洗脳奴隷にされた。この世界が憎いだろう。この世界にいるすべての生命を嫌悪するだろう。ただそれでも俺の大事な場所、人をこれ以上失わせる事は許さない。だから終わりにしよう。この世界の部外者よ」



 ムディナはそう力強い声色で、そのように言った。その眼差しには、深い決意を秘めており、眼前にいるホワイトを見据えていた。今まで無かった感情が、恐ろしいくらいに溢れ出てくる。何度か怒りに似た感情を出した事はあるが、今のムディナにはホワイトに対する一方通行の怒りしか頭にはなかった。それくらいまでに極限の怒気を、ムディナは抱いていた。



「お前なんかに分かるわけないだろ!?」



 ホワイトが叫んだ瞬間、空間が切り取られたかのように別世界へと転移した。そこは心象世界であり、白き力の象徴的な場所であった。つまり力の源であり、魂の根源的な場所を具象化したのだ。



 異世界転生者の中には世界すら形作る存在がいるというのは、龍神達から聞いた事があるがこれ程までにエネルギーに満ち溢れている場所とは思いもしなかった。



 まるで幻想的なまでの真っ白な空間。何処が先に続いているのか、今自分が向いている方向が何処なのかすら危うくなる。空も地もただ白いという一色に支配されていた。



「真っ白に染まってしまえ」



 狂気的な笑みをホワイトは浮かべると、白い砂が濁流のように押し寄せてくる。普通の人間ならこの心象世界に来た瞬間に、真っ白に染まり、砂に変わってしまう事だろう。



 ムディナは龍剣に闘龍気を込め、振るった。黄金に輝く風が吹き荒れたかと思えば、白き砂は粒子となり消え去った。雪のように降り注ぎ、白い世界を光り輝く黄金へと染めていく。



 心象世界が穢されていくと思ったのか、自らの心の奥底が別の色に染まる事をホワイトは、いや『白き力』は拒絶した。やはり力に、魂が侵食されていき飲み込まれてしまっているようだ。それはもう救いようが無く、力を引き剥がしたとしても魂も無事ではすまない。転生者は強力な力を持っていると同時に力の奴隷になる。強靭的な精神力があればそれに耐えられるのかもしれないが、力に飲み込まれない程の精神性を持つ存在は少ないだろう。



「私の世界を汚すな!?」



 激昂し、白き世界が歪んだかと思えば、無数の白き魂器の剣が生成されていた。それは一斉にムディナの方を向いていた。明らかに避け続ける事は不可能なそれは、ホワイトが手を振るうと襲いかかってきた。



「龍王技・三式・淵葬」



 黄金の巨大な穴が、地面から現れる。底が見えない奈落に似た何かであり、白き剣はその穴に全て飲み込まれていった。あらゆるエネルギーを飲み込む黄金の穴は、この心象世界すら飲み込もうとしていた。



 それは白き力の吸収を意味しており、ホワイトの命が失われようとしているという事でもあった。ホワイトは魂器を手に取り、一瞬にしてムディナに近づいた。



 焦っているのだろう。焦燥感に駆られているのだろう。生存本能が今すぐにムディナに攻撃しないといけないと反射的に無謀な行動に拍車をかけていた。それが仇になるとも知らずに。



「最後だな。すまない。俺の身勝手だが、お前の苦しみと怒りも全て終わるにさせる。それだけの事をお前は俺にしたんだからな……………………」



 ムディナは剣が黄金に輝いたかと思えば、巨大な黄金の龍が背後に存在していた。その黄金の龍はとてもカッコよくて、強者の威厳があった。



 その龍には見覚えがあった。かつて龍王と呼ばれていたそれと、完全に姿形が一致していた。自分達が不甲斐ないばかりに裏切ってしまい、殺してしまった転生者達にとっての唯一の希望であり、理想であり、友であった彼がそこにはいた。



「龍王技・一式・飛翔」



 ムディナは龍剣を振るうと、黄金の龍が飛び去ったかと思えば、ホワイトの体を貫いていた。体が白き力により再生する事が出来ずに吐血する。しかしその血は白くて、とても人間ではなかった。力に支配されている影響で、明らかに肉体的異変がそこには起こっていた。



 バタンとホワイトが白き砂の地面へと横たわる。心象世界が崩れていき、現実世界へと戻る準備が始まる。



 そして白き砂が黄金の粒子へと変わり、空高く舞い上がる。風も、空も何もない筈なのに、風が何故か吹き荒れる。何かを思い出したかのように、ホワイトは口を開いていく。



「ああ、いつぶりだろうか。そんなにも風が涼しいと感じたのは。河川敷で長閑な自然をスケッチして、自然を楽しんでいたな。色々な色で世界が満たされていたし、それが全て美しく感じていた。もう二度と美しいと思えないんだろうな」



 涙が流しながら、それが白き砂に滴り落ちる。その瞬間、白き世界が突如自然豊かな世界へと変わり出す。幻想的なまでの浮世離れした光景ではなく、普通にありふれている自然の風景だった。



 川のせせらぎが聞こえ、風に揺られて草木が揺れる音が聞こえる。もう既にホワイトの視界は真っ黒に染まっていた。何も見る事が出来ないのに、脳裏がその自然を描き出していた。



「(せめてもの手向けだ)」


 ムディナはホワイトを許しはしない。今までさんざんこの世界の人を虫ケラのように殺しておいて、許せる訳がなかった。しかし彼らも元はと言えば、この世界の都合で無理やり来てしまった被害者なのだ。だからこそそれくらいはしても、バチは当たらないだろう。



 そして自然を脳裏で描き続けながら、白夜の意識は無くなっていった。

三百ノ五十話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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