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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
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三百ノ四十話 出所・・・

 とある人気のない路地裏にムディナは居た。辺りはすっかりと夜闇に包まれており、視界をまともに確保出来ないくらいにまでになっていた。それでもムディナは暗視の魔法を使い、その暗闇でも問題なく昼間であるかのように視界を確保出来ていた。




 普通ならこのような時間に、生徒が外出するのは規則違反であろう。ムディナも一学生であるが、それでも冒険者として今は活動しているので何ら問題はなかった。そうムディナは思う事にしている。




 ムディナがそうやって冒険者として活動しているのは理由があった。一つは勘ではあるが、何か嫌な予感というか、きな臭い感じがしているからだ。本来ならそのような事は無視する構えであるが、今回はその勘を信じないといけないような気がしているからだった。



 もう二つ目はインフィニティエーテルの結晶球の結局の出所が不思議と違和感に感じていた。ウィズダムの理事長はどうやって普通ならあり得ない結晶球の情報を得たのか。それでいてその結晶球の力を扱うには、膨大な時間と技術が必要になる筈なのにその設備や部屋など、その他諸々の運用する場所は何処かしらにある筈なのだと。



 そんな訳でシューレナ先輩の姉であるリルナに指定された場所が、ムディナが今いる場所となっている、密談するにはもってこいな場所であり、このような場所をしているという事は、この学院国家ウィズダムの地理をそれなりに把握している証拠でもある。



「にゃぁ〜ん」



 猫のような鳴き声が耳元に聞こえてきた。振り返るとそこには、二つの尻尾を生えている小さな猫がいた。しかし普通の猫では無い事は明白であり、途轍もない魔力の流れをその猫に感じた。



「調査結果ですニャ」



 どうやらその猫はリルナの使い魔のようなものであり、情報伝達を行うようだった。使い魔という事で、主従との魔力的契約の繋がりはある筈なのに、ムディナが猫の鳴き声を聞くまで存在すら気づく事が出来なかった。



「便利な使い魔がいるもんだな。羨ましい限りだよ」



 高レベルにも及ぶ程の隠密技術に加えて、違和感なく溶け込める猫の姿、情報収集、偵察、情報伝達、あらゆる面に於いて最高峰の使い魔と言っても過言ではないだろうか。ムディナにはそう言った使い魔が居ないので、少しだけ羨ましく感じてしまった。



「貴方も、二つの使い魔を抱えているではありませんか」



 それを聞いた瞬間、ムディナは身構える。魔力を警戒と共に増大し、龍剣を握り締めるように塚に手を掛ける。普通なら知らない筈のムディナに関する情報を、リルナは認識してしまっているからだった。



「一つ目は理解出来るが、二つ目はどういう事だ」



 ムディナは警戒した眼差しをその猫に、その奥にいるであろうリルナへと圧を強めていく。



 インフィニという特殊な出自であろう鼠は理解が出来る。あれはまず間違いなくムディナの使い魔と捉えて貰っても構わない存在だ。しかし二つ目は、本来なら知る由も無い筈の情報を得ているという事になる。




「その反応から見ると、当たりのようね」



 つまり推測による、カマ掛けだったようだ。ムディナはやってしまったという後悔と共に、その情報を得てしまったリルナを敵として認識する。シューレナには申し訳ないと感じながら、魔力契約的繋がりからリルナのいるであろう場所を感知する。



「その情報を得てしまったあんたは、敵として認識していいんだな?」



 その殺意は猫を伝い、リルナに直接響くようだった。それはリルナに冷や汗を掻かせ、使い魔の猫は気を失ってしまう。大事な使い魔であり、唯一無二の相棒を害する結果になった。



 元々藪蛇であるだろう事は理解していた。しかしムディナという存在に関する情報が皆無に等しかった。突如トーラス国に来訪し表舞台に現れたり、冒険者として活躍するまで結構な年月が存在しているからだ。



 何処が元々の出身地であり、ムディナという存在が一体何なのか一切合切不明な点なのだ。有名になってから、それなりに調査しても何も情報が現れたりはしなかった。



「申し訳ない。顧客の情報を漏洩したりなどはしません。ただ貴方という存在に関する情報が不明だからです」



 さっきまでの使い魔である猫の姿が、視界から消えていた。そして猫がいたであろう場所には、リルナがいた。リルナは警戒しながら、ムディナへ眼を向けて口を開いていた。



 情報屋として一流であるリルナが、何一つ掴む事が出来ないムディナ・アステーナという未知なる存在は興味が尽きない対象であった。



「それは契約と見ても構わないな。それに反した場合、どうなるか分かっているか?」



 そこにある殺意は、誰かを害さない為のものだった。大事なものの為に殺意を満たしているからだ。それにはリルナも見覚えがあった。シューレナという妹の為に、頑張っていたリルナと同様の姿であった。



「あの子への情報は、私の内の奥底へと閉まっておきます。もし彼女に関して何らかの害が発生した場合、私を裁いて貰って構いません」



 ムディナの大事な人であるミーニャ・アステーナ。それが元々大悪霊であるジャックであるという事実を、確実にリルナが知っているからだ。そしてその悪霊の一部であるミーニャを使い魔にして、現世に留めたという事実も分かっているだろう。だからこその使い魔という発言を行ったのだ。



「ミーニャに何かあってみろ? あんたを果ての先まで、追いかけて殺してやる」



 その眼には、実力者とは別の殺戮者の眼差しだった。まるで実力的に下であろう獲物を見逃しているだけの、単なる気まぐれな肉食獣のように思えた。リルナなどムディナが本気になれば、一瞬にして塵にされるだろう。



「それは契約として受け取ります。リルナ・ローゲルの名に掛けて」



 そう発言した瞬間、リルナの魔力が飛び散り、左の掌に魔術印が刻まれた。それはミーニャ・アステーナに関する情報を、ムディナ・アステーナ以外に口外した時、自害するように強制するものだった。それほどの覚悟を持って、情報を死守してくれるならムディナはもう何も言う事はなかった。



「とりあえず調査結果を聞きたいんだがな」



 ムディナは呆れるような疲れたため息を吐き、依頼した内容について聞く事にした。凄腕の情報屋としての腕前が、どれ程のものなのか証明するものだった。



「エーテル結晶体の出所は、あれは劣化版の創造品でした。ただ限りなく本物に近いレベルに近づいた生成品という事になりますがね」



 つまりインフィニティエーテルの結晶体を創り出すだけの技術力を持った組織が存在するという事になる。本来ならあり得ない話の、荒唐無稽のようでムディナは警戒を強めていく。無限のエネルギーを直で創り出せるというのは、それだけで脅威的なものであるからだ。



「それで生成品という事までは分かってて、それを造った先の出所がまだ分かってないと言うわけじゃないだろ?」



 ムディナ自身、あれが本物の代物だとは思ってもいなかった。ただ作り物にしてもエネルギー内容量が莫大である事も加味して、どちらにも可能性は感じていた。元々のムディナの依頼は、この作り物のエーテル結晶体は、一体誰が、何処で造ったという事だった。



「こちら、ウィズダムに在籍しているハーレス・グロウ。彼が創り出しました」



 それを聞いた瞬間、ムディナは呆気に捉えて、しばらく思考を巡らしていった。それなら輸送する意味が、全く理解が出来なかった。何故そんなバレるような危ない行動を取る事になったのか。



 ますますムディナの疑問は増すばかりだった。

三百ノ四十話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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