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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第二章 遺跡の町は浪漫に満ちてました・・・
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三十三話 戦闘試験が終わりました・・・

 アディオさんは呆気に囚われていた。こんなのが子供な訳ないと。異常の中の異常。精神的構造が、他とは完全にかけ離れていた。アディオさん自身も別に自分が精神的に普通かと言われると普通じゃないと思う事だろう。しかしそれとは完全に別離している肉体を持っているだけの異形。そんな気さえしていた。善と悪、そんな基本的なものさえ何処かに置いてきたようなそんな異物が目の前で剣を持っていた。冷や汗と動揺を完全に隠し切れていないアディオさんに俺は接近した。




 アディオさんは認識が遅れてしまう。息を吸っているうちに、俺が目の前に突然現れている。それがアディオさんにとってどれだけ恐怖だろうか。いきなり目の前に現れて、いきなり剣が目の前に斬りかかられる。俺だったら絶句するかもしれないな。

 ただアディオさんも大ベテランの冒険者である為なんとかすんでの所で俺の攻撃に対応してくる。流石としか言いようがない。



「認識のズレを利用しているのね。化け物だわ」




 流石アディオさん。俺の行動のカラクリをすぐ見破った。




「凄いですね。当たりです」




 認識のズレというのは、眼や感覚器官で認識してから脳に直接いくまで時間が少し掛かる。俺が行なっているのは、その認識から脳に行くまでのタイムラグを利用して接近しているのだ。

 ただそれが行えるのは、有り得ない速度と観察力、そして一才の感情を排除した自然的な動作が求められる。それが普通に行えっている事に素直にアディオさんは恐怖した。




 剣とはそれ即ち無心である。俺が剣術を学んで最初に思った事がそれだった。日本という平和な国もいつか他国に危機に晒される可能性がある。その時誰かが守ってくれると思ってはいけないとちびっ子の時の俺は思った。今思うが、全然可愛げのない腐った子供だなと少し落胆してしまう所だが、一人でに剣術から学んでみようと心に決めた。自衛手段は多いに越した事はないしな。ただそれに剣術とは奥深い代物だったので、なかなか難しかった。ただ一週間もしない内に俺に剣を持ったら、何も感じなくなった。いや飽きた訳ではなく、最初に剣を持った時のような覚悟だったりなどがいつの間にか綺麗さっぱり無くなっていた。剣を持つと、自然と体が動く様になっていた。無心になり淡々と目の前の敵、相手の行動、仕草、認識、脚の運び、筋肉、息遣い、あらゆる部分が普通に感じれてしまった。それが六歳だった当時の俺による出来事だった。道場に通う必要も、一週間で意味をなさなくなった。だってその道場の師範を超えてしまったのだから。ただその師範は言った。普通なら天才だと持て囃される事だろう。俺もそれなら少しやる気が出ると言ったものだ。しかしその師範が口にしたのは、『化物』。その師範の眼は今も忘れない。その恐怖と畏怖に溢れたその眼が俺の脳にこびりついている。




 俺が本気で剣を振ろうとすると、いつもその出来事が思い出される。だから少し剣が鈍ってしまっている。錆び付いてしまっている。離れて欲しいのに、離れてくれない記憶がここにはある。



 ただ今は理解してくれる人がいる。アライが絶対側にいてくれると言ってくれた。だからもう迷う必要も、鈍らせる必要なんてない。だからこそ、




「ここからが本番だ」




 俺はそう口に出して、自分の気持ちに整理をつけた。もう何も邪魔されるものなんてない。

 俺はアディオさんに剣を振るった。いや勝手に剣が動いた。アディオさんは短剣でなんとか受け止めるが、短剣をアディオさんののしかかっている力と共に下へと受け流される。その瞬間、アディオさんは一瞬、体勢を崩す。そして俺は持ち手を変えて、左側へと剣を振る。なんとか体勢を崩れながら左手の短剣で受け止める。しかしそんな状態で受け止めた短剣に力なんてそんな掛かる訳もなく、俺は邪魔な左手の短剣を弾き飛ばす。




 アディオさんは呆気に取られたが、すぐ気持ちを切り替えて体勢を崩した重心を利用して距離を取る。そんな行動が分からない訳もなく、息遣いでなんとなく距離を取ろうとする焦りが見てとれた。




「あんま予測されるような動揺をしない方がいいですよ」




 俺の眼は既に標的だけを見ていた。それが鋭敏、過剰なまでの感覚を飛躍的に向上させていた。それに動揺するのは仕方の無い事だ。危機感を覚えたら動揺する。それは生物として本能にまで刻み込まれた代物だしな。ただ俺にはその動揺という部分が欠落しているがね。だからこそ逆にそれを利用して動揺をわざと誘う事が出来るんだが。

 改めて考えると、俺という存在はやはり生物として欠陥だらけだな。マジで。




 またアディオさんは俺の姿を見失う。そろそろ対応してきてもいいんじゃないかな。いや動揺のせいで、認識とのズレの幅が大きくなっているのだろう。




 俺は距離を取ろうとしたアディオさんに先回りして蹴りを右脇腹に直撃する。ただアディオさんは力の受け流しが、神業染みている。脱力している状態を常にキープしており打撃にあまり効果が薄い。空中にある紙をいくら強い拳を放った所でダメージが皆無なのと一緒だ。ただそれはあくまで普通の打撃ならの話だ。




 俺は一直線に垂直に蹴りを放った。それは一点のみに力を入れる蹴りだった。それは受け流しによる部分を完全に超えている一撃だった。一点のみに集中した事により受け流しという部分は意味を成さずアディオさんは吹き飛んでしまう。ただなんとか受け身だけどは取り、ダメージを少し軽減した。

 アディオさんは咳き込みながらなんとか立つ。それ以上はやっても意味が無い無い気がするんだが、どうなんだろうか。




「まだやりますか?」




 俺はアディオさんに問いかけた。そろそろ俺もだいぶ疲労が蓄積されているのだ。これ以上はやりたくない。久しぶりに本気で剣を振るったせいか分からんが全然感覚を取り戻せていない。

 アディオさんは息を切らしながら、掠れた声で呟いた。




「まだ………………まだ貴方の剣技を見ていない」




 そういう訳もない気がするが、認識のズレによる接近に、縮地による速度だったりやっている筈なのだが。ただアディオさんの言いたい事は理解できる。なら少し剣という名の技を見せますかね。鈍っているからあまりしたくないんだけどね。




 俺は剣に心を乗せた。アディオさんは一瞬、幻覚を見た。いや斬られたという風に錯覚した。それは肩から斜めに袈裟斬りされたような違和感があった。しかしそんな事はないと現実に無理矢理戻る。




 それは認識のズレによる接近ではなかった。ただ一歩一歩確実に地を踏み締めている。アディオさんは息を飲みながら今接近するのは危険だと、直感的に理解した。




 そして俺は一気にアディオさんとの距離を詰める。俺の剣が頂点から振り落とされた。脱力による一気に剣の速度が加速される。これなら受け止められるだろうと短剣で反応する。読み易い剣撃、アディオさんは普通に落胆しているだろうか。




 しかし急に剣の速度を落とした。普通なら有り得ない現象。振り落とした剣の初速がだんだんと遅くなる。それと同時に剣の軌道を変えて横から薙ぎ払うかのようにした。それにアディオさんは反応すら出来なかった。

 俺の我流である、変速、変形、変幻自在の剣術だ。そしてこの型には名前がついていて、『三の型・変速・陰り月』である。厨二病チックで当時の俺を殴りたいが、そういう名前だ。




 この型の特徴は、さっきもあった通り初速を速めてすぐ剣の速度を落としたら軌道を変える剣技である。これは防御態勢に入った相手の意表を突き、予測不可能の軌道から攻撃するという部分がある。それに軌道を変えた所での反応をしても、また軌道を変えるので永遠と相手は反撃する事が出来ない様になっている。しかし欠点もあり、これはあくまでも防御態勢に入った状態のみに特化している点である。相手が自暴自棄になって傷を覚悟で反撃された場合、意味を成さないのだ。




 そして俺はギリギリの所で剣の刃を止めた。




「参りました」と、一言アディオさんが負けを認めて試験は無事終わった。

三十三話最後まで読んでくれてありがとうございます



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